水垢離みずごり)” の例文
「じゃあ、この野郎を、彼方むこうへしょッ引いて行こう。こいつに水垢離みずごりとらせて、踏まれた曲尺まがりがねに手をつかせて謝らせなくっちゃならねえ」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
預かり鳥のできふできによって、いただく禄にも響き、家の系図にもかかわるんですから、水垢離みずごりとってはだし参りをするほどの騒ぎです。
階下の台所に近い井戸のそばで水垢離みずごりを取り身をきよめることは、上京以来ずっと欠かさずに続けている彼が日課の一つである。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
……参詣さんけいの散った夜更よふけには、人目を避けて、素膚すはだ水垢離みずごりを取るのが時々あるから、と思うとあるいはそれかも知れぬ。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ってあなた様があれへお越しになりたいと思召おぼしめすなら、これから少し参りますると、御禊みそぎの滝というのがございます、その滝壺で水垢離みずごりをおとりになって
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そう云う邪念がきざした時には、ひとえに御佛の御慈悲にお縋り申すより仕方がない。此れから二十一日の間、毎日怠らず水垢離みずごりを取って、法華堂に参籠するがよい。
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「このたびは名誉ある……これが戦国の世ならば……神仏に祈願……水垢離みずごり……せめてはおたたみ奉行……これはほんのおしるしで。ところで、あれが有名なるこけ猿で?」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼女は神道しんどう大成教たいせいきょうの熱心な信者で、あまり大きくもない屋敷の隅には小さなほこらが祭ってあって、今でも水垢離みずごりとって、天下泰平てんかたいへい国土安穏こくどあんのん五穀成就ごこくじょうじゅ息災延命そくさいえんめいを朝々祈るのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
古沼の方に燈火ともしびが見えた。病人達が古沼の水で、水垢離みずごりを取っているのであろう。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
文治は國藏夫婦の水垢離みずごりいさめて居りますると、妻のお町が泣声にて
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
水垢離みずごりを取ってお参りをする者もあるということである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
水垢離みずごりを使わせてやる、驚くな」
そこに、この真夜中まよなか、水音がしていた。裸体になって水垢離みずごりをとっている者がある。白い肌がやがて寒烈な泉に身をきよめて上がってきた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水垢離みずごりと、極度の節食と、時には滝にまで打たれに行った山籠やまごもりの新しい経験をもって、もう一度彼は馬籠の駅長としての勤めに当たろうとした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
護摩壇ごまだん懺悔ざんげに行くものは、きっとここの滝へ来て、まず水垢離みずごりをとるのが習わしでありました。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
中空なかぞら冴切さえきって、星が水垢離みずごり取りそうな月明つきあかりに、踏切の桟橋を渡る影高く、ともしびちらちらと目の下に、遠近おちこち樹立こだちの骨ばかりなのをながめながら、桑名の停車場ステエションへ下りた旅客がある。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
将軍家平素の御鴻恩ごこうおんに報ゆるはこのとき、なんとかして日光御下命の栄典に浴したいものじゃと、日夜神仏に祈願、ほんとでござる、水垢離みずごりまでとってねがっておりましたにかかわらず
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「もう遅いわ。穢れ者を上げた所は、すぐきよめろ。そして、童の体も、さそくに浄め払いして、水垢離みずごりをとらせい」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水垢離みずごりを執り、からだをきよめ終わって、また母屋へ引き返そうとするころに、あちこちに起こる鶏の声を聞いた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
社務所と別な住居すまいから、よちよち、いしきを横に振って、ふとった色白な大円髷おおまるまげが、夢中でけて来て、一子の水垢離みずごりを留めようとして、身をたてはやるのを、仰向あおむけに、ドンと蹴倒けたおいて
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人間業にんげんわざでこの火を防ぐはあの護摩壇の法力ほうりきあるばかりだと、そこへ気がついた各村の総代は、打揃って裸になって水垢離みずごりをとって、かの護摩壇の修験者へ行って鎮火の御祈祷を頼むと、修験者は
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
水垢離みずごりまでおとりなされて——」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
伊那丸以下いなまるいかのひとびとは、あのそうどうのあったばんから、御岳みたけの一しゃ謹慎きんしんして、神前しんぜんをけがしたつみしゃすために、かわるがわる垢離堂こりどうの前で水垢離みずごりをとった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上京以来早朝の水垢離みずごりを執ることを怠らなかった彼も、その朝ばかりはぐっすり寝てしまって、宿の亭主が茅場町かやばちょうの店へ勤めに通う時の来たことも知らなかった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かえってその不祥のきざしに神経を悩まして、もの狂わしく、井戸端で火難消滅の水垢離みずごりを取って、裸体はだかのまま表通まで駆け出すこともあった、天理教信心の婆々ばばの内の麁匆火そそうびであった事と。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼の意気たるやさかんであった。その朝は、星の下に、水垢離みずごりをとり、白木綿しろもめん浄衣じょうえを着て、黄布きぎぬのつつみを背中へはすにかけて結んだ。内に宸筆しんぴつの勅願をおさめたのだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
例のように半蔵が薄暗い空気の中で水垢離みずごりを執り、からだをきよめ終わるころは、まだ多吉方の下女も起き出さないで、井戸ばたに近い勝手口の戸障子もまっていた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
山のに月のあるのを幸いに、水垢離みずごりを執って来て、からだをきよめ終わると、あたたかくすがすがしい。着物も白、はかまも白の行衣ぎょういに着かえただけでも、なんとなく彼は厳粛な心を起こした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
誰からかお聞きになり、夜毎、水垢離みずごりなどして、神信心されておられたそうな。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふたりは、水垢離みずごりをとって、えきをたてた。そして頼朝の前へ出て告げた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あいにく、この春以来、末の息女が、風邪とも、麻疹はしかともつかぬ御病気。その看護みとりに、お疲れの上に、良人の大難と聞かれて、先頃から夜ごと、水垢離みずごりとって、神信心など、なされたものらしい。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「へい。ようく心得ておりまする。こんな御用は船師ふなし一代のうちにもないことだと思いまして、今朝はもう暗いうちから起きて、水垢離みずごりをかぶり、新しい晒布さらしで下っ腹を巻いて待っておりますんで」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)