根性こんじょう)” の例文
それがし年来桑門そうもん同様の渡世致しおり候えども、根性こんじょうは元の武士なれば、死後の名聞みょうもんの儀もっとも大切に存じ、この遺書相認あいしたため置き候事に候。
「あのむすめはあんなにぎょうぎがわるいし、ひとにものもやらない根性こんじょうまがりのねたみやだから、なにをやったらいいだろう。」
かくいったからとて人間の心の中に唯物ゆいぶつ拝金はいきん卑屈ひくつなる根性こんじょうがあって、体の制裁によって心が左右さるるものだと断言することは出来ぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
仮面打めんう根性こんじょうと申しましょうか。どのようなお人へも、ぼんやりとただお顔を見てはいられないのでございまする。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしあの発作ほっさ以後ますますヒステリックに根性こんじょうのひねくれてしまった葉子は、手紙を読んだ瞬間にこれは造り事だと思い込まないではいられなかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
いよいよ牡蠣の根性こんじょうをあらわしている。しばらくすると下女が来て寒月かんげつさんがおいでになりましたという。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お力の家は隣りちょうの倉田屋という瀬戸物屋で、甲州屋とはふだんから心安く交際しているのであるが、倉田屋の女房はひどく見得坊みえぼうで、おまけにひが根性こんじょうが強くて
半七捕物帳:35 半七先生 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「あああ、困ったことだ、お前のひが根性こんじょうは骨までみ込んでしまっているのだ、情けないことだ」
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ただ私は、愛情に対しては、つけあがり、怒りに対しては、ただちにひざくっするような君らの奴隷根性こんじょうが、なさけなくて、じっとしてはいられない気持ちがするのだ——
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
が、酒呑さけのみ根性こんじょうで、今一盃と云わぬばかりに、猪口の底に少しばかり残っていた酒を一息に吸い乾してすぐとその猪口を細君の前にき出した。その手はなんとなくあやうげであった。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その時のぼくの先生せんせいのオリバー教授きょうじゅというのは、じつに根性こんじょうのまがった男で、学者がくしゃのくせに学問がくもん実験じっけんに身を入れないで、世間せけんのひょうばんや名声めいせいばかりに気をとられているのだ。
その官吏はチベット人で私の事をよく知っている。なかなか根性こんじょうの悪い男ですから油断はならぬのみならず、またミス・テーラーに付いて居る下僕もやはり私と知合しりあいの人間である。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
人の根性こんじょうを産むようであるが、この関西ことに大阪の温気によって成人した大阪人は
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
けれどもにいさんは目がえない上に、ひがみ根性こんじょうつよかったものですから
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
オンドリは前に集まっているトロ族たちを煽動せんどうした。さっきまでは彼は平和愛好者のような顔をしていたのに、今はもうがらりと変って煽動者をつとめている。なんといういやしい根性こんじょうの持主だろう。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「きさまもまだ根性こんじょうがかわっておらんッ。」
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
おこったのさ、ちょっとくらい、おれにだってかしてくれてもいいだろう。いのちがけで、いくさのもようをさぐってきてやったんだぜ、そんな根性こんじょうの悪いことを
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼に転宿する余裕よゆうありしゆえ、心の独立を失わなかったが、この余力なき人はますます根性こんじょう卑屈ひくつとなる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
これは自分の顔に飯が食いたいような根性こんじょうが幾分かあらわれたためか、または十九年来の予期に反した起きたなり飯抜きの出立しゅったつに、自然不平の色が出ていたためだろう。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
根性こんじょうぽねの強い正直な人たちだったので、すべての激しい運命を真正面から受け取って、骨身を惜しまず働いていたから、曲がったなりにも今日今日を事欠かずに過ごしているのだ。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あの毒悪な根性こんじょうは全く常識をはずれている。純然たる気じるしにきまってる。第五は金田君の番だ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
表題ひょうだいの心の独立と体の独立ということもその一つである。僕が友人に対しておれめしを食いながら反対するのはけしからんという一かつは、たしかに僕の根性こんじょうきょく曝露ばくろする。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
疑ぐる自分も同時に疑がわずにはいられない性質たちだから、結局ひとに話をする時にもどっちと判然はっきりしたところが云いにくくなるが、もしそれが本当に僕のひが根性こんじょうだとすれば
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
奇麗な顔をして、下卑げびた事ばかりやってる。それも金がない奴だと、自分だけで済むのだが、身分がいいと困る。下卑た根性こんじょうを社会全体に蔓延まんえんさせるからね。大変な害毒だ。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼の反対の活力消耗と名づけておいた道楽根性こんじょうの方もまた自由わがままのできる限りを尽して、これまた瞬時の絶間なく天然自然と発達しつつとめどもなく前進するのである。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
虫さえいとう美人の根性こんじょう透見とうけんして、毒蛇の化身けしんすなわちこれ天女てんにょなりと判断し得たる刹那せつなに、その罪悪は同程度の他の罪悪よりも一層おそるべき感じを引き起す。全く人間の諷語であるからだ。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ハハハハ根性こんじょうはこれよりまだ堕落しているんだ。驚いちゃいけない」
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)