暢氣のんき)” の例文
新字:暢気
「馬鹿ツ、そんな暢氣のんきな話ぢやねえ。いつぞやお茶の宗匠の饅頭でしくじつた事を知つてるだらう。外を見張れ、家の中には用事がねえ」
唯三人でやつて居た頃は隨分暢氣のんきなものであつたが、遠からず紙面やら販路やらを擴張すると云ふので、社屋の新築と共に竹山主任が來た。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「あなたがたあかちやんがもうぢきうまれるといふのに、子守歌こもりうたならひもしないで、そんな暢氣のんきなことをつていらつしやる。」
お母さん達 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
今度は獨りだけに荷物とてもなく、極めて暢氣のんきに登つて行くとやがて峠に出た。何といふことはなく其處に立つて振返つた時、また私は優れた富士の景色を見た。
全くうつちやらかし、遣りつ放しなのも、自分の家にゐるやうな氣がして、暢氣のんきで面白い。
水車のある教会 (旧字旧仮名) / オー・ヘンリー(著)
あの三多摩壯士あがりのたくましく頬骨の張つた、剛慾な酒新聞社の主人に牛馬同樣こき使はれてゐたのに引きかへて、今度はずゐぶん閑散な勿體ないほど暢氣のんきな勤めだつたから。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
たゞ狡猾ずるさるだけは、こうして毎日まいにちなん仕事しごともなく、ごろごろとなまけてゐても、それでおなかかさないでゆかれるので、暢氣のんきかほをして、人間にんげんの子どもらの玩弄品おもちやになつて
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
いへつてはまごもりをしたりしてどうしてもひとりはなれたやうつて各自てんで暢氣のんきにさうして放埓はうらつなことをうてさわぐので念佛寮ねんぶつれうたゞ愉快ゆくわい場所ばしよであつた。彼岸ひがんけてはこと毎日まいにち愉快ゆくわいであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ちゆうひやら/\と角兵衞獅子かくべゑじし暢氣のんき懷手ふところで町内ちやうないはやしてとほる。
城の石垣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
三等寢臺といふのは至極暢氣のんきだつた。
京洛日記 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
「外に隱れる場所はねえ。急場の思ひ付きだ。多分一度隱れたそのへいの間から、暢氣のんきさうに懷手をしてノソリと出て來たらう」
翌日は日曜日、田舍の新聞は暢氣のんきなもので、官衙や學校と同じに休む。私は平日いつもの如く九時頃に眼を覺した。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
暢氣のんきなるこたへきて、かれあきれながら
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その騷ぎも知らぬ顏に、平次はうぐひすの籠を見たり、の鉢を鑑定したり、最後に嫁のお弓をつかまへて、暢氣のんきらしい話をして居りました。
『何とはア、此處ア瀬が迅えだで、子供等にやあぶねえもんせえ。去年もはア……』と、暢氣のんきに喋り立てる。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「盜人は容易ならぬ人間だ。それを強請ゆするにしちやお角の樣子は暢氣のんき過ぎた。俺は盜人の隱した金を探し當てたんだと思ふよ」
今度はまた信吾の勸めで一夏を友の家に過す積りの、定つた職業とてもない、暢氣のんきな身上なのだ。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
元手もとでかまはずの鈴も相當賣れますから、何だつたら、此儘足を洗つて、鈴賣りになるのも惡くない——といつたやうな暢氣のんきな氣持になつて居りました。
壁一重の軒下を流れる小堰こぜきみづに、蝦を掬ふ子供等の叫び、さては寺道を山や田に往き返りの男女の暢氣のんき濁聲にごりごゑが手にとる樣に聞える——智惠子は其聞苦しい訛にも耳慣れた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
そんな暢氣のんきなことを言ふのでした。どんな巧妙な詭計トリツクも時の力の前には崩壞することを平次は知つてゐたのです。
『別段惡くも見えないがね。——實はね、僕は昨日初めて見舞に行つたが、本人は案外暢氣のんきな事を言つてるけれども、何となく斯う僕は變な氣がしたんだ。それから歸りに醫者へ行つて聞いたさ。』
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
平次も少しあきれましたが、今に始めぬガラツ八の暢氣のんきさが、腹を立てるにしても、少し馬鹿馬鹿しかつたのです。
彫刻てうこくは怪奇を極めて、唐草模樣からくさもやうと鬼のやうなちゞれの人間の首と、それから得體の知れない髯文字ひげもじがベタ一面につてあつたのを、暢氣のんきなガラツ八は、自分の煙草入れに附けて
何んと言ふ暢氣のんきな顏、吉五郎の口邊にはこの名御用聞をあざけるやうな微笑さへ浮びます。
一夜のうちに寛永通寶くわんえいつうはうが、ピカ/\する一分金になる——そんなことは、今の人では信じ兼ねるでせうが、その頃の人は、極めて素朴そぼくに、暢氣のんきに、この奇蹟を受け容れて了ひました。
「それは預らないものでもないが、少しわけを話して貰はうか。中に何が入つてるか見當も付かず、後でどんなことになるかもわからないやうなことでは、どんなに暢氣のんきな私でも心細い」
この頼みが持込まれたとき、さすが暢氣のんき者のガラツ八も、再三辭退しました。
「あんまり暢氣のんきに考へちやいけないよ。思ひの外むつかしい仕事だから」
平次はあかりの中に突つ立つて、こんな暢氣のんきなことを言つて居るのです。
「さうか——それで親方は暢氣のんきにして居るんだらう」
「そんな暢氣のんきなことを言つて、親分」
暢氣のんきさうに顏を出したのです。
「へエー、役目といふわけでもありませんが、木戸の側に居るのは私とお向うの與八さん夫婦ですが、與八さんは暢氣のんき者ですから、ツイ私が締めることになります。それにうつかり締め忘れたりすると、お六さんがやかましかつたんです」