断崖がけ)” の例文
旧字:斷崖
「火事——」と道の中へと出た、人の飛ぶ足よりはやく、黒煙くろけむりは幅を拡げ、屏風びょうぶを立てて、千仭せんじん断崖がけを切立てたようにそばだった。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おんなあぶらつぼ断崖がけうえりまして、しきりに小石こいしひろってたもとなかれてるのは、矢張やは本当ほんとう入水にゅうすいするつもりらしいのでございます。
途中に十丈ほどの険阻な断崖がけがありますから、入学して一ヶ月ほどは女中のおせいに送り迎えさせましたが、後には義夫一人で往復するようになりました。
安死術 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
下は、二十メートルばかりの高い断崖がけで、その下は底知れぬ深いふちです。けれども大胆不敵のアルライは、こつちを見返つて、そのきら/\する短剣をふりまはし
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
只今は川岸の土が崩れて余程平坦たいらになりましたが、其の頃は削りなせる断崖がけで、松柏しょうはくの根株へかしらを打付け、脳を破って血に染ったなり落ると、下を通りかゝったは荷足船で
二つの浮き岩は唸りながら、互いに相手を憎むかのように、力任せに衝突ぶつかり合っていた。飛び散る泡沫しぶきは霧を作り、その霧のおもてへ虹が立ち、その虹の端の一方は、陸地くがち断崖がけに懸かっていた。
二人の娘にこの断崖がけの上からころげ落ちよといって、千把のカヤを刈って、自分の娘をばそのカヤのなかにすっかりと包んで束ね、継娘をばそのままで岩頭から二人をいっしょに突き落とすと
東奥異聞 (新字新仮名) / 佐々木喜善(著)
絵にいた木曾の桟橋かけはしを想わせる、断崖がけの丸木橋のようなプラットフォームへ、しかも下りたのはただ二人で、改札口へ渡るべき橋もない。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぽうわたくしほうではそれとなく良人おっとこころはたらきかけて、あぶらつぼ断崖がけうえみちびいてやりましたので、二人ふたりはやがてバッタリとかおかおわせました。
依然水流ながれはゆるやかであった。微光を分け水に引かれ、船はゆるゆると流れて行った。両岸はおぼろに見渡された。岸がすぐに断崖がけとなり、断崖がすぐに天井となり、天井は次第に低くなった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
馬の背に立ついわお、狭く鋭く、くびすから、爪先つまさきから、ずかり中窪なかくぼに削った断崖がけの、見下ろすふもとの白浪に、揺落ゆりおとさるるおもいがある。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いましも断崖がけからまうとする女房にょうぼうまえ両手りょうてひろげてちはだかったのでございます。
滝のかかっている断崖がけを下り、間もなく三人は谷へ下りた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さいさゞなみ鴛鴦おしどりうかべ、おきいはほ羽音はおととゝもにはなち、千じん断崖がけとばりは、藍瓶あゐがめふちまつて、くろ蠑螈ゐもりたけ大蛇おろちごときをしづめてくらい。数々かず/\深秘しんぴと、凄麗せいれいと、荘厳さうごんとをおもはれよ。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)