さす)” の例文
お栄は姉の背中をさすりながら、叔父さんに向つて、「なんでも吾家うち祖母おばあさんの顔がつとそこへ出て来たんですツて……」
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
見馴れない四十恰好がっこうの女が、姉のうしろから脊中せなかさすっている傍に、一本の杉箸すぎばしを添えた水飴みずあめの入物が盆の上に載せてあった。女は健三に会釈した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もとより勝手を知って居りますから、忽ちに市四郎が岩角につかまって這い上り、の根へ足をけてのお藤を助けまして、水を飲ませせなさす
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さすり「悪い道だなあ、この間の雨からすつかり道を悪くした」といひ「お神さん、茶を一杯くんねえ」と茶店を
然うして急いで竜次郎のいましめを解いて、縄の喰入った痕を、血の通うようにさすってやるのであった。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「接吻だけはせというが、こうしずにはいられない」と状貌魁偉かいいと形容しそうな相好そうごうくずして、あごの下に猫をかかえ込んでは小娘のように嬉しがって舐めたりさすったりした。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
牧師は食堂へ引かえすと、そこにプセットがいたので、笑顔を見せて優しくさすってやった。
老嬢と猫 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
すると白衣の妙な人は穏かな微笑を頬にたたえながら牛丸の方へ進み寄り軽く頭をさすった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今日までに五六人のめかけをたくわえたに過ぎず、妻が亡くなってから、わしの身のわりの世話をした女は七年の間に三人きりしかなく、その新聞が書きたてた様に、おさすりと称して
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
女は幾らかおちついて言つた。そしてかうして唐突だしぬけに訪ねて来た一部始終を話した。それによると、女は長い事胃腸病で困つてゐたが、あるの夢に若い男が来ておなかさすつて呉れた。
我もいなともとも云ふ暇なくして、接吻せられき。母上片手にて我頬をさすり、片手にて我衣をなほし給ふ。手尖てさきの隱るゝまで袖を引き、又頸を越すまで襟を揚げなどして、やう/\心をやすんじ給ひき。
朝はやき日比谷ひびやそのむくみたる足をぞさす労働はたらきびとひとり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
由「親方是非是れはお供を願いたいもので、此の旦那は大変な御親切な方で、の御新造がお癪を起した時などは大骨折りで、御介抱をなすって寝ずにさすって上げなすった位で」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その中に仰向あおむけた顔がある。昨日きのうの肉をそのままに、ただ色が違う。眉は依然として濃い。眼はさっき母が眠らした。眠るまで母は丹念にさすったのである。——顔よりほかは見えぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ここ産落うみおとされては大変と、むりに行李へ入れて押え付けつつ静かに背中から腰をさすってやると、い気持そうにやっと落付いて、暫らくしてから一匹産落し、とうとう払暁あけがたまで掛って九匹を取上げたと
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
如来衛門は腕をさすり、林の奥を睨んだが
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「看護婦さん、足でもさすっておくれ……」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と皆々腕をさすって居りまする。さて中山道なかせんどう高崎より渋川、金井、横堀、塚原、相俣あいまたより猿が原の関所を越えて永井の宿しゅく、これを俗に三宿さんしゅくと申しまして、そろ/\難所なんじょへかゝります。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
姉が息苦しくって、受答えが出来かねるので、脊中せなかさすっていた女が一口ごとに適宜な挨拶あいさつをした。平生へいぜい健三よりは親しくそのうち出入でいりする兄は、見馴みなれないこの女とも近付ちかづきと見えた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「奥様、御足おみあしでもさすりましょうか」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夜は御老体ゆえに腰などをさすって上げるという、実に忠義一図なことでございます。
「少しさすってろうか」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
若「若浪はん、わちきは伊之さんのことは、今日からフッツリと思い諦めたから、サバ/\したんざますよ、今夜はとけ/″\と寝られようかと思うんざますから、少し脊中をさすってくんなまし」
いきなりとびかゝって、娘の上に乗し掛っている奴のふんどしの結び目と領首えりくび取捕とッつかまえてうしろの方へなげると、松の打附ぶッつけられ、脊筋せすじが痛いからくの字なりになって尻餅をき、腰をさすって居りまする。