あげ)” の例文
旧字:
また電車の乗客街上の通行人は兵卒ならざれば士官ばかりという有様に、私はいつも世をあげて悉く陸軍たるが如き感を深くする。
そも〻、将門少年の日より、名籍を太政大殿に奉ずる今に十数年、相国摂政の世に、思はざりき、かゝる匪事ひじあげられんとは。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
サタイアをもユーモアをも適宜に備ふるものは多くあれど、情熱を欠くが故に真正の詩人たらざるものあげて数ふべからず。
情熱 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
○さて口上いひ出て寺へ寄進きしんの物、あるひは役者へ贈物おくるもの、餅酒のるゐ一々人の名をあげしなよび披露ひろうし、此処忠臣蔵七段目はじまりといひてまくひらく
余はここにおいて根本的に文学とは如何なるものぞといへる問題を解釈せんと決心したり。同時に余る一年をあげてこの問題の研究の第一期に利用せんとの念を生じたり。
『文学論』序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
人生終局の目的とは如何いかん罪人つみびとは罪を洗去あらいさるの途あるや、如何いかにして純清に達し得べきか、これらの問題は今は余の全心を奪い去れり、しかして眼をあげて天上を望めば
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
障子が端手はしたなくガラリといたから、ヒョイとかおあげると、白い若い女の顔——とだけで、其以上の細かい処は分らなかったが、何しろ先刻さっき取次に出たのとは違う白い若い女の顔と衝着ぶつかった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
あなたのついで結婚をおしになる女性に就いていろ/\なことを書いてありました。数人の名をあげて批判を下したり、私の希望を述べたりしたのでした。思へば思ふ程滑稽な瞑想者でした、私は。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
はじめには越後の諸勝しよしようつくさんと思ひしが、越地ゑつちに入しのちとしやゝしんして穀価こくか貴踊きようし人心おだやかならず、ゆゑに越地をふむことわづかに十が一なり。しかれども旅中りよちゆうに於て耳目じもくあらたにせし事をあげて此書に増修そうしうす。
手近い例をあげると、人間の犯罪心理というものは、実につまらない……又は全然、何の関係もないと思われる暗示のお蔭で、意想外に大きな刺戟を与えられている場合が、非常に多いものである。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
吾人われらは今文明急流の中に舟を棹しつゝあり、只順風に帆をあげて、自然に其運行に任すべきか、あらかじめ向て進むべき標的を一定し置くべきか、し此まゝに盲進するも、前程に於て、渦流、暗礁
これこの家の後見が、かれあげて綾子の世継とせんずる内意あるによる。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一方の指揮となれば其任いよいよ重く、必死に勤めけるが仕合しあわせ弾丸たまをも受けず皆々凱陣がいじんの暁、其方そのほう器量学問見所あり、何某なにがし大使に従って外国に行き何々の制度能々よくよく取調べ帰朝せば重くあげもちいらるべしとの事
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
浮世絵は実にその名の示すが如く社会百般の事あげて描かずといふ事なし。政治経済の事は二枚続または三枚続の諷刺画となりて販売せられぬ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
○さて口上いひ出て寺へ寄進きしんの物、あるひは役者へ贈物おくるもの、餅酒のるゐ一々人の名をあげしなよび披露ひろうし、此処忠臣蔵七段目はじまりといひてまくひらく
天下をあげて物質的文明の輸入に狂奔せしめ、すべての主観的思想は、旧きは混沌の中に長夜の眠をむさぼり、新らしきは春草未だ萌えいづるに及ばずして、モーゼなきイスラヱル人は荒原の中にさすらひて
なほ近古きんこ食類しよくるゐ起原きげんさま/″\あれど食物しよくもつ沿革考えんかくかうに上古よりあげてしるしたればこゝにはもらせり。
明治年間向島の地を愛してここに林泉を経営し邸宅を築造した者はすくなくない。思出おもいいづるがままにわたくしの知るものをあげれば、華族には榎本梁川えのもとりょうせんがある。学者には依田学海よだがっかい、成島柳北がある。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あげて数ふべからざるなり。
復讐・戦争・自殺 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
なほ近古きんこ食類しよくるゐ起原きげんさま/″\あれど食物しよくもつ沿革考えんかくかうに上古よりあげてしるしたればこゝにはもらせり。
その一ツをあげてこゝにしるし、寸雪すんせつ雪吹ふゞきのやさしきをみる人のため丈雪ぢやうせつの雪吹の愕眙おそろしきしめす。
○本朝文粋ぶんすゐあげたる大江匡衡まさひらの文に「天満自在天神或は塩梅於天下てんかをあんばいして輔導一人いちにんをほだうし(帝の御こと)或月於天上てんしやうにじつげつして臨万民まんみんをせうりんすなかんづく文道之大祖ぶんだうのたいそ風月之本主ふうげつのほんしゆなり