押拭おしぬぐ)” の例文
賣てとかき口説くどき親子の恩愛おんあいかう暫時しばしはても無りけり漸々やう/\にしてつまお安はおつなみだ押拭おしぬぐ夫程迄それほどまでに親を思ひ傾城遊女けいせいいうぢよと成とても今の難儀を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
『あゝ、ゆめではありますまいか、これゆめでなかつたら、どんなにうれしいんでせう。』と、とゞかねたる喜悦よろこびなみだをソツと紅絹くれない手巾ハンカチーフ押拭おしぬぐふ。
「まあ眉間から血が出て。」と懐紙ふところがみにて押拭おしぬぐう、優しさと深切が骨身にみこむ、鉄はぶるぶる。「もう、可うございます。いえもう何ともありません。」と後退あとずさり
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「豊世にも食わせてやると好かった」と森彦は懐をひろげて、胸のあたりに流れる汗を押拭おしぬぐった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
妻はしゃがんだままで時々ほおに来る蚊をたたき殺しながら泣いていた。三尺ほどの穴を掘り終ると仁右衛門は鍬の手を休めて額の汗を手の甲で押拭おしぬぐった。夏の夜は静かだった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
なに、かまうものか、場合が場合だ、つら押拭おしぬぐって自分で申しあげることにしよう。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
と横に倒れて唯泣ひたなきに泣きけるが、力無げに起直り赤めたる眼を袖にて押拭おしぬぐいて、くだんの人形に打向い
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
知らせければ早速娘夫婦は來りて死骸しがいあらためし後お粂はお菊に向ひ母樣が變死の樣子やうす仔細ぞ有ん如何いかゞなりと問ばお菊は涙を押拭おしぬぐひ私し留守るすの中に此如く成行なりゆき給ひしと答へしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
冷い水道の水はお雪を蘇生いきかえるようにさせた。彼女は額の汗をも押拭おしぬぐった。箪笥たんすの上には、家のものがかわるがわる行く姿見がある。彼女はその前に立った。細い黄楊つげ鬢掻びんかきを両方の耳の上に差した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わが艦長松島海軍大佐かんちやうまつしまかいぐんたいさは、ながるゝあせ押拭おしぬぐひつゝ、滿顏まんがん微笑びせうたゝえて一顧いつこすると、たちまおこる「きみ」の軍樂ぐんがくたえいさましきそのひゞきは、印度洋インドやうなみをどらんばかり、わが軍艦ぐんかん」の士官しくわん水兵すいへい
たゝきければ八五郎は飛でいで先生せんせい樣子やうすは如何やと云ながら門の戸引明ひきあければ後藤はあせ押拭おしぬぐ如何いかゞどころか誠に危き事なり亭主貴樣の云し通り今一トあしおそいと間に合ぬ處なりしが丁度ちやうど
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
烟草たばこを差置き、唇を両三度手巾ハンケチにて押拭おしぬぐい、その手をすぐに返してひげしごく。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
捨吉は額の汗を押拭おしぬぐって見て、顔を紅めた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いそ押拭おしぬぐつてたが、矢張やはり其人そのひと
押拭おしぬぐい、またおしぬぐう。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)