手提てさげ)” の例文
「アア、それなれば、粗末な不断ふだんにはきますのが見えないのでございます。それと、ショールと小さい網の手提てさげがなくなっております」
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
手提てさげはすぐ分った。が、この荒寺、思いのほか、陰寂な無人ぶじん僻地へきちで——頼もう——を我が耳で聞返したほどであったから。……
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なにしろ、船内の電灯は、はやく消えて、たよりになる光は、船員の手にしている手提てさげランプと、わずかに電池灯ばかりである。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
毎年の網上げのしきたりで、昨年夫の徳市もいっしょに金比羅参こんぴらまいりをしての帰りを、その足で来たらしく、小さいとう手提てさげを持っていた。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
衣類の這入った大きな鞄が駕籠の上に付き、手提てさげが前に付きまして、其の葡萄酒のびんが這入り、又東京から持って参った風月堂ふうげつどうの菓子なども這入り
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さい手提てさげの荷にはならず、持って貰うほどでもないのを無理に受取って、膝掛ひざかけといっしょに先へ行った、きざみ足のうしろ姿を見たときに——これはと思った。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あかぼうをひっかいたり、おじょうさんの手提てさげくしたり、かえしのつかないことをするようになりました。
花の咲く前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「お嬢さんに、そう云うのだ、わし手提てさげ金庫に小切手帳が入っているから持って来るように。」と命じた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
葉子は手提てさげのなかから、ペンとノオトの紙片かみきれを取り出して、三四品あつらえの料理を書いて女中に渡した。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
僕の五六間さきをく少年がある、身に古ぼけたトンビを着て、手に古ぼけた手提てさげカバンを持って、静かに坂を登りつつある、その姿がどうも桂正作に似ているので
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
簡単な文句ですから、提灯屋は手提てさげのブラ提灯へ早速「十八文」と入れてしまいました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今日中に一万円つくらねば僕の男が立たないのだと、はらはらと落涙にまで及んだものですから、オヤジはびっくりして手提てさげ金庫の中から千円札十枚を取出して、僕に渡してくれました。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
彼女は厳選したアンサンブルのうえから大きな巻毛の自動車用コウトで埋めつくされていた。そして一分おきに自動車用手提てさげから自動車用鏡を出して薄飴うすあめいろのKEVAの口紅をアプライしていた。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
と田鶴子さんは手提てさげの中から小さな壜を大切だいじそうに出して見せた。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
時子はやがて手提てさげ金庫から株券の束を出して万平の前に置いた。
黒白ストーリー (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
六、大は小を兼ぬ粗布製の手提てさげ金庫。
もう三十を幾つも越した年紀としごろから思うと、小児こどもの土産にする玩弄品おもちゃらしい、粗末な手提てさげを——大事そうに持っている。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
第一真暗でどうすることも出来ないので、私は静子の家にあった手提てさげ電燈を借りて、苦心をしてはりを伝いながら、問題の箇所へ近づいて行った。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして、きりっとした武装に身をかためたスミス中尉が、片手には手提てさげ電灯を、また片手にはピストルを握り、一隊の水兵をひきつれて立っていた。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
手提てさげを取り上げた。彼女の小さい心は、今狂っていた。もう何の思慮も、分別も残っていなかった。たゞ、突き詰めた一途いちず少女心おとめごころが、張り切っていた丈である。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
和尚は手提てさげの煙草盆の浅い抽出ひきだしから欝金木綿うこんもめん布巾ふきんを取り出して、くじらつる鄭重ていちょうに拭き出した。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
K——博士はかせのくれる粉薬こなぐすりは、ぴったり彼女の性に合っていると見えて、いつも手提てさげのなかに用意していたくらいだったので、少し暖かいところへ出てみたいと思っていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
貴婦人は手提てさげから札の束を出して勘定して久四郎に渡した。
黒白ストーリー (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
家内が云いますには、その修学旅行の折、懐中鏡は財布などと一緒に、手提てさげの中へ入れて持っていたのを、途中の宿屋で、誰かに盗まれて了った。
モノグラム (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
帆村探偵は、階段の「最後の段」をおどりこえ、ゆかの上にえいと飛びあがりました。そしてさっと照らしつけた手提てさげ電灯は、怪塔王のねむる寝台の上へ——
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
夫人、雨傘をすぼめ、柄を片手に提げ、手提てさげを持添う。櫛巻くしまきひっかけ帯、駒下駄こまげたにて出づ。その遅桜をなが
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
忘れものの手提てさげもあって、番頭を送り出すと、じきに舞い戻って来て庸三に報告するのだった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
向い合せの耳をくぐつるには、ぎりぎりとしぶを帯びたを巻きつけて手提てさげの便を計る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
網の様な春のショール、小型の婦人持手提てさげ、一枚の写真、三通の封書、それだけの品々をまるで夜店の骨董屋こっとうやの様に、ズラリと卓上に置き並べた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
赤い雨外套あまがいとうを和服の女中の腕に預け、手提てさげだけ腕にかけていたが、この方はしばらく見ないうちに、すっかり背丈せたけが伸び、ぽちゃっとしたところが、均平の体質に似ていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
引寄せた椅子の仮衣かりぎの中で、手提てさげをパチリとあけて……品二つ——一度取上げて目でめて——この目が黒い、髪が水々とまた黒い——そして私の手に渡すのが、紫水晶のこうがい
「御覧よ。あの手提てさげを提げている方の手なんか色は少し悪いけど、細工が実に細かく出来ているじゃないか。この作者は決して下手じゃないんだよ」
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
軽くはずして、今、手提てさげに引返す。帯が、もうゆるんでいる。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今私の前に腰かけている河野自身の古ぼけた手提てさげ鞄で、その中には恐らく数冊の古本と、絵の道具と、幾枚かの着類きるいが入れてあるに過ぎないその鞄を
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私大切にして、外出する時にも、私の御先祖から離れない様に、いつもこの手提てさげに入れて持っていますのよ。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
さいわい、本署からは暗中の捜索を予想して、光度の強い手提てさげ電燈を用意して来たので、それと三箇の懐中電燈によって、兎も角も一応、叢の中を歩き廻って見ることになった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
婦人は手提てさげから鍵をとり出してドアを開き、電燈のスイッチをおしたが、フックラとした肘掛椅子と長椅子、赤い模様の立派な絨氈じゅうたん、それが居間で、次の部屋が寝室らしく
薔薇夫人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこで人々は姉崎家の手提てさげ電燈を借りて、ゾロゾロと門外の空地へと出て行った。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
叮嚀なお礼を頂き痛み入りますあの手提てさげ
黒手組 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)