所々しょしょ)” の例文
そこで所々しょしょに一二箇月ずつ奉公していたら、自然手掛りを得るたつきにもなろうと思い立って、最初は本所の或る家に住み込んだ。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ほかの様に放って置けない性質たちのものだから、平岡も着いた明日あくるひから心配して、所々しょしょ奔走しているけれども、まだ出来そうな様子が見えないので
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
晩までは安心して所々しょしょをぶらついていた。のん気で午食も旨く食った。襟を棄ててから、もう四時間たっている。
(新字新仮名) / オシップ・ディモフ(著)
正作は五郎のために、所々しょしょ奔走ほんそうしてあるいは商店に入れ、あるいは学僕がくぼくとしたけれど、五郎はいたるところで失敗し、いたるところを逃げだしてしまう。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
深い擦過傷が所々しょしょに喰い込み、労働服の背中にはまだ柔い黒色こくしょくの機械油が、引き裂かれた上着の下のジャケットのあたりまで、引っこすった様にべっとりと染み込んでいる。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
所々しょしょ遅桜おそざくらが咲き残り、山懐やまぶところの段々畑に、菜の花が黄色く、夏の近づいたのを示して、日に日に潮が青味を帯びてくる相模灘が縹渺ひょうびょうと霞んで、白雲にまぎれぬ濃い煙を吐く大島が
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そこには綺麗な道の所々しょしょに腰掛が置いてある。二人は手を取り合って並んで歩き出した。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
この辺には、陶器やきものつくりのかま所々しょしょにあるので、そこで火入れをする日には絶えず煙が近所をいぶしている。けれど、その煙が去った後は、春先の空がよけいに美麗きれいに見られた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本所ほんじょも同じように所々しょしょ出水しゅっすいしたそうで、蘿月らげつはおとよの住む今戸いまと近辺きんぺんはどうであったかと、二、三日過ぎてから、所用の帰りの夕方に見舞に来て見ると、出水でみずの方は無事であった代りに
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
自分が、所々しょしょを歩るいているうちに、この三月も半ばってしまったが。
土淵村にての日記 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
山は高房山こうぼうざん横点おうてんを重ねた、新雨しんうを経たような翠黛すいたいですが、それがまたしゅを点じた、所々しょしょ叢林そうりん紅葉こうようと映発している美しさは、ほとんど何と形容していか、言葉の着けようさえありません。
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
其後そののち光輪ごこううるわしく白雲にのっ所々しょしょに見ゆる者あり。ある紳士の拝まれたるは天鵞絨ビロウドの洋服すそ長く着玉いて駄鳥だちょうの羽宝冠にあざやかなりしに、なにがし貴族の見られしは白えりめして錦の御帯おんおび金色こんじき赫奕かくえくたりしとかや。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
海は実にげるなり。近午の空は天心にいたるまで蒼々あおあおと晴れて雲なく、一碧いっぺきの海は所々しょしょれるように白く光りて、見渡す限り目に立つひだだにもなし。海も山も春日を浴びて悠々ゆうゆうとして眠れるなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
まずの綱をいて市郎を抱えおこすと、彼も所々しょしょに負傷して、脈は既にとまっていた。が、これはたしか血温けつおんが有る。巡査は少しく安堵の眉を開いて、取敢とりあえの綱を強くくと、上ではすぐにおうと答えた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
春水の人情本には、デウス・エクス・マキナアとして、所々しょしょに津藤さんと云う人物が出る。情知なさけしりで金持で、相愛あいあいする二人を困厄の中から救い出す。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
このことの有った後は母の神経に益々ますます異常を起し、不動明王を拝むばかりでなく、僕などは名も知らぬ神符おふだを幾枚となく何処どこからかもらって来て、自分の居間の所々しょしょはりつけたものです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「ひや、ひや」と云う声が所々しょしょに起る。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
優善が家を出た日に書いたもので、一は五百いおて、一は成善に宛ててある。ならび訣別けつべつの書で、所々しょしょ涙痕るいこんいんしている。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
三味線さみせんは「よいは待ち」をく時、早く既に自ら調子を合せることが出来、めりやす「黒髪」位に至ると、師匠に連れられて、所々しょしょ大浚おおざらえに往った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ただ文中に所々しょしょ考証をしるすに当って抽斎いわくとしてあるだけである。そしてわたくしの度々見た「弘前医官渋江うじ蔵書記」の朱印がこの写本にもある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
寒山詩が所々しょしょで活字本にして出されるので、私のうちの子供がその広告を読んで買ってもらいたいと言った。
寒山拾得縁起 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
吸物が吸ってしまわれて、刺身が荒された頃、所々しょしょから床の間の前へお杯頂戴さかずきちょうだいに出掛けるものがある。所々で知人と知人とが固まり合う。たれやらが誰やらに紹介して貰う。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
忙がしげに所々しょしょを歩いていて、その途中で自分が何物かを求めているのに気が付いて
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
所々しょしょに拍手するものがある。見れば床の間の前の真中の席は空虚になっていた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)