だる)” の例文
かれ自分じぶん燐寸マツチさがしにせま戸口とぐち與吉よきちをやらうとした。與吉よきちあまえていなんだ。かれはどうしてもだる身體からだはこばねばならなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
切迫した、あえぐような、内心でなにかと闘っているような表情をしていたが、やがて、笑いの消えた顔を、だるそうに縦に振った。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
淡紅うすあかい顔をしたその西洋人が帰って来ると、お島さんもどこからか現われて来て、自堕落じだらくだるい風をしながら、コーヒを運びなどしていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼は立つて、だるい体を机の前まで運んだ。立つた時は風船にでも乗つたかと思ふやうな心持がしたが、机の前に胡坐を掻くと、当前あたりまへの心持に戻つた。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
なんという物わびしさだろう。明けても暮れても荒涼たる蛮土、そしてしとしとと小止みもなく降る雨。身体中の節々も溶けてしまいそうなくらいだるい暑さ。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
みごもっているらしく、だるそうな顔に、底知れぬ不安と、死の近づいているきざしたたえているのであった。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
井戸の滑車が悲しげにきしり、釣瓶つるべのぶつかる音もする。……クージカは身体一面に露を浴びて、睡くてだるいらしい。馬車の中に坐って、のろくさと長上衣を着ている。
女房ども (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
……さうかと思ふと、ふと、今迄気づきもしなかつた妙に薄ら甘いやうなだるさが、何となく花やかな翼に胸先きで撫でられでもするやうな悩ましさともつれて、軽い恍惚を覚えた。
山を越えて (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
打ちどころもこたえたに違いないが、もう三年坂の旅籠はたごをたつ頃から、お杉は風邪かぜをこじらしていて、微熱があったり、足腰がだるかったりして、とかく健康もすぐれなかった揚句あげくである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
和作の手厳てきびしい語調に、信一は思はずだるさうな眼を大きく見張つた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
牧師は軽いだるさを覚えながら、一点疚しい所のない彼の公明な行動を、どこの隅からか、支倉が恨めしそうな顔で非難しているように思えて、ともすると灰色の不快な雲が頭に蓋い被さるのだった。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
広樹はだるさうに頭をもたげてそのまづい歌を見てゐたが、独語ひとりごとのやうに
しかしそうした時、ごろごろだるいままに転がっている姿は、だんだん心も獣のようなそれと同じになるのではないでしょうか。
一週一夜物語 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
茶釜ちやがまがちう/\とすこひゞきてゝしたとき卯平うへいひからびたやうにかんじてのどうるほさうとしてだるしりすこおこしてぜんうへ茶碗ちやわんのばした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
午後三時頃のだるい眠に襲われて、日影の薄い部屋に、うつらうつらしていた頭脳あたまが急にせいせいして来て、お島は手摺てすりぎわへ出て、美しい雨脚あまあしを眺めていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「なんだか、すこし風邪かぜぎみなんだよ。からだがだるい……」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寒いしだるい。
追放されて (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それからも、毎日ゴリラはその場所を動かず、ただだるそうに私をみるだけだった。衰弱のために、もう動くのさえどうにもならぬらしい。私が脈を見てもぼんやりと委せているだけだ。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
かれやつれた身體からだからひど自由じいううしなつたやうにかんぜられた。かるしびれたやうになつてた。かれえた身體からだ暖氣だんきほつして、茶釜ちやがまけたかまどまへだる身體からだゑて蹲裾うづくまつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
座敷の方では、暑さに弱い叔母があか広東枕かんとんまくらをしながら、新聞と団扇うちわとを持ったまま午睡ひるねをしていた。叔母は夏に入ってから、手足にいくらか水気をもった気味で、肥った体が一層だるかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と、能八郎は、だるそうに、汗をふいて云った。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お銀はうるんだような目を光らせながら、だるい体を持ちあぐんでいた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)