こゝろ)” の例文
無論むろんです、けれど本船ほんせん當番たうばん水夫すゐふやつに、こゝろやつです、一人ひとり茫然ぼんやりしてます、一人ひとりつてらぬかほをしてます。
こゝろを結びことばを束ねて、歌とも成らば成して見ん、おゝそれよ、さま/″\に花咲きたりと見し野辺のおなじ色にも霜がれにけり。
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
常におもふ、志を行はんとするものは必らずしも終生を労役するに及ばず。詩壇の正直男(ゴールドスミス)このこゝろを賦して言へることあり。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
詳に言ふこと能はざるかはりには作者の働にて一顰いつぴん一笑の間に事のこゝろを悟らしむることを得べし。これをゾラが劇の論とす。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
ふところにいだき入んとするにしうとめかたはらよりよくのませていだきいれよ、みちにてはねんねがのみにくからんと一言ひとことことばにもまごあいするこゝろぞしられける。
戀人こひびとぢゃ! あゝ、このこゝろらせたいなア!……なにやらうてゐる。いや、なにうてはゐぬ。はいでもかまはぬ、あのものふ。あの返答へんたふをせふ。
つらつら數ならぬ賤しき我身に引くらべ、彼を思ひ此を思へば、横笛が胸の苦しさは、譬へんに物もなし。世を捨てんまでに我を思ひ給ひし瀧口殿が誠のこゝろと竝ぶれば、重景が戀路は物ならず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
およそありのまゝに思うこゝろ言顕いいあらわしる者は知らず/\いと巧妙なる文を
怪談牡丹灯籠:01 序 (新字新仮名) / 坪内逍遥(著)
おもふはれに定操ていさうければにや、ろきこゝろのやるかたもなし、さて松野まつの今日けふことば、おどろきしはわれのみならず竹村たけむら御使者おししやもいかばかりなりけん、立歸たちかへりてくなりしとも申さんに
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そして可憐かれんで正直で怜悧れいりな女であるが不思議と関係のない者からはいやしい人間のやうに思はれる女で実に何者にかのろはれて居るのではないかと思つた。しかし銀之助には以前もとの恋のこゝろすこしもなかつた。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ういふ言葉の中には、真に自身の老大を悲むといふこゝろが表れて、創意のあるものをむやうな悪い癖は少許すこしも見えなかつた。そも/\は佐渡の生れ、斯の山国に落着いたは今から十年程前にあたる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
しかも美しく才かしこくして位高き際の人に思はれながら、心の底には其人を思はぬにしもあらざるに、養はれたる恩義の桎梏かせこゝろげて自ら苦み
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
夜更けて枕の未だ安まらぬ時蟋蟀きりぎりすの声を聞くは、まことの秋のこゝろなりけむ。その声を聞く時に、希望もなく、失望もなく、恐怖もなく、欣楽きんらくもなし。世の心全く失せて、秋のみ胸に充つるなり。
秋窓雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
七つのこゝろ聲を得て
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
草履脱いでのつそりと三畳台目の茶室に入りこみ、鼻突合はすまで上人に近づき坐りて黙〻と一礼する態は、礼儀にならはねど充分に偽飾いつはりなきこゝろ真実まことをあらはし
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
那方どちらを那方と判かぬる、二人のこゝろを汲みて知る上人もまた中〻に口を開かん便宜よすがなく、暫時は静まりかへられしが、源太十兵衞ともに聞け、今度建つべき五重塔は唯一ツにて建てんといふは汝達二人
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)