てあい)” の例文
そうでないと、あれでも御国みくにのためには、生命いのちおしまないてあいだから、どんなことをしようも知れない。よく思案して請取るんだ、いいか。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、同宿のほかのてあいのように、土方どかただとか車力だとかいうような力業ちからわざでなく、骨も折れずにいい金を取って、年の若いのに一番稼人かせぎにんだと言われている。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
と、こけ勘はいきせい切って追いあがりましたが、遠巻にした見物も、二人のてあいも、いくら待っても鍍金が来なかったというじゃありませんか。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あとで蚯蚓みみずにならなかったまでも、隣近所、やっこ引越蕎麦ひっこしそばを喰ったてあいは、みんな腹形はらなりを悪くしたろうではありませんか。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
世話人てあいが、妙に気にして、それとなく、一人々々数えてみると、なるほど一人姫が多い。誰も彼も多いと云う。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かまちの柱、天秤棒てんびんぼうを立掛けて、鍋釜なべかま鋳掛いかけの荷が置いてある——亭主が担ぐか、場合に依ってはこうしたてあい小宿こやどでもするか、鋳掛屋の居るに不思議はない。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「はッ。」と、いうと、腰を上げざまにふすまを一枚、直ぐに縁側へすべって出ると、呼吸いきこらして二人ばかり居た、こわいもの見たさのてあい、ばたり、ソッと退気勢けはい
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
背後うしろに、島田やら、銀杏返いちょうがえしやら、かさなって立ったてあいは、右の旦那よりか、その騒ぎだから、みんなが見返る、見物の方へ気を兼ねたらしく、顔を見合わせていたっけが。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのころの血気なてあいは、素人も、堅気、令嬢ごときは。……へん、地者じもの、ととなえた。何だ、地ものか。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昨夜ゆうべひけすぎにおめえ、威勢よく三人で飛込んで来た、本郷辺の職人てあいさ。今朝になって直すというから休業やすみは十七日だに変だと思うと、案の定なんだろうじゃあないか。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さうすりや些少ちっとあ念ばらしにもなつて、いくらか彼奴あいつらが合点がってんしやう。さうでないと、あれでも御国みくにのためには、生命いのちも惜まないてあいだから、どんなことをしやうも知れない。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
このてあいも清葉が戻路もどりみちかたたがえて、なぞえに一石橋の方へ廻ったのは知らずにいたろう。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かかりあいのがれぬ、と小力こぢからのある男が、力を貸して、船頭まじりに、このてあいとてたしかではござりませなんだ。ひょろひょろしながら、あとのまず二たるは、になって小売みせへ届けました。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それはお前様、あのてあいと申しますものは、……まあ、海へ出て岸をばみまわして御覧ごろうじまし。いわの窪みはどこもかしこも、賭博ばくちつぼに、あわびふたかにの穴でない処は、皆意銭あないちのあとでござります。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
同じ人間もな……鑄掛屋を一人土間であおらして、納戸の炬燵こたつに潜込んだ、一ぜん飯の婆々ばば媽々かかなどと言うてあいは、お道さんの(今晩は。)にただ、(ふわ、)と言ったきりだ。顔も出さねえ。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
血気事を好むてあいは、応と言うがままにその車を道ばたにてて、総勢五人の車夫はみに揉んで駈けたりければ、二、三町ならずして敵にい着き、しばらくは相並びて互いに一歩を争いぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
煙管きせるの吸口ででも結構に樽へ穴を開けるてあいが、大びらに呑口切って、お前様、お船頭、弁当箱のあきはなしか、といびつなり切溜きりだめを、大海でざぶりとゆすいで、その皮づつみに、せせり残しの
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
取巻きの芸妓げいこ一統、たがいにほっとしたらしい。が、私に言わせりゃそのてあいだって働きがないじゃないか。何のための取巻なんです。ここは腕があると、取仕切って、御寮人に楽をさせる処さね。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
親が居ないと侮って、ちょいと小遣でもあるてあいは、除物のけものにしていじめるのを、太腹ふとッぱらの勝気でものともせず、愚図々々いうと、まわらぬ舌で、自分が仰向あおむいて見るほどの兄哥あにいに向って、べらぼうめ!
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)