えん)” の例文
えん優婆塞うばそくの流れを汲む豊前ぶぜん僧都そうずと自分から名乗って、あの辺では、信者も多く、えろう権式ぶっている修験者しゅげんじゃだそうでござります
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
孫悟空はキント雲にのり、えん小角おづぬは雲にのり、自雷也じらいやはガマにのり、猿飛佐助は何にも乗らずドロンドロンと空を走った。
戦争論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
すなわちえん優婆塞うばそくの像で、顔も姿も解らなかったが、なお崇厳の輪郭だけは、見る人の心を敬虔けいけんに導き、且つ菩提心ぼだいしんを起こさせるに足りた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
遠江とおとうみの国久野の作仏房さぶつぼうという山伏は、えんの行者の跡を訪い、大峯を経て熊野へ参詣すること四十八度ということであるが、熊野権現の前で祈っている時
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
当麻の寺がえん行者ぎょうじゃと結びつき、中将姫ちゅうじょうひめ奇蹟の伝説を育てて行ったのは、恐らくこの種の印象の結果であろう。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
そこにそばだっている鷲峰山は標高はようやく三千尺に過ぎないが、巉岩ざんがん絶壁をもって削り立っているので、昔、えん小角おづぬが開創したといわれている近畿きんきの霊場の一つである。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
えん小角しょうかくが出るに及んで、大分魔法使いらしい魔法使いが出て来たわけになる。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
なむればきらふべき淫慾いんよくなしと立るはふなり三寶院は聖護大僧正しやうごだいそうじやう宗祖しうそとし聖護院は坊譽大僧正ばうよだいそうじやう宗祖しうそとするなり然どもいづれ開山かいざんと申は三派ともにえん小角せうかくが開き給ひしなりさて亦山伏が補任ほにん次第しだい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
すなわち五鬼は五人の山伏の家であろうと思うにかかわらず、前鬼後鬼ぜんきごきとも書いてえん行者ぎょうじゃの二人の侍者じしゃの子孫といい、従ってまた御善鬼様などと称して、これを崇敬した地方もありました。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この悲劇の舞台になった、南伊豆の別荘、かつえんの行者が、神斧鬼鑿しんぷきさくの法術で彫り成したという伝説の凄まじい断崖の上の高楼たかどの——名づけて臨海亭りんかいていというのも、実は志津子夫人の我儘な願いを容れて
そして自分たちはえん行者ぎょうじゃ前鬼ぜんき後裔こうえいだと称している。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
高山の雪のつづきえと行き行かしけむえん小角をづぬ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
えん行者ぎやうじやのやうに、雲にして飛ばしてくれる。
あるとき (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
教主光明優婆塞とは、えんノ行者の石像の下でただ一度しか逢わないのではあったが、それだけで彼には十分であった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
伝に曰く、えんの行者がひらいた道さ。そして今も年々歳々山伏の通る道である。この地帯は山伏の聖地である。吉野には蔵王堂があって、この聖地の本堂だ。
それを名づけて大円鏡智流だいえんきょうちりゅうと呼び、妙見を下山の後、近畿中国のくままで巡歴して、到る所の剣道家の道場を踏み破り、みずからえん小角しょうかくの再来だと称している。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この本を読んだ人がえん行者ぎょうじゃになれる——というような世俗的魅力がお銀様をとらえたのですが、その直下じきげにこれをこなすの機会と時間とを与えられなかったから
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
台石の高さ一丈に余り、その上に立っている像の大きさは四丈を遥かにしのいでいる。えんノ行者のお姿である。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この者達は、三年に一度くらい大峰の修築をするとか、えん行者ぎょうじゃまつるとか、いい加減な名目を設けて、諸国の手蔓を手繰たぐって勧進の悪銭をあつめ廻るやからだった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
多門房などと称するのは先祖の一人がえんの行者を信仰して修験道に入り、その後代々信仰がつづいたからで、コマの子孫が山岳宗教と結ぶのは教義をはなれて血のツナガリがあったからであろう。
葛城かつらぎへわけ登り、諸国の大山だいせん経巡へめぐって、えん優婆塞うばそくが流れを汲み、孜々ししとして、修行に身をゆだねてきたが、それでもまだ聖護院の役座にさえ登れず、旅山伏の弁海が
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「待ちな、おばばおいらも行く。……あの走りざま、色気がないなあ……えんの行者に呪縛じゅばくされたという、鬼子母神きしもじん様にそっくりじゃ。飛天夜叉殿、ではご免。……未練のこして行くとしようぞ」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
正面袖門つきの入口にはけやき尺二の板に墨黒々と「天下無敵大円鏡智流刀杖指南、えん優婆塞うばそく聖護院印可しょうごいんのいんか覚明かくめい」とあり、その傍には、(命惜しき者は試合望むべからず)と書き流されてある。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えん小角おづのが、嵯峨さが山の奥に住みたもうとあるは、この御山なりと、申す説などもございまして、修験者しゅげんじゃたちにいわせると、いまでもなお当山には天狗が棲んでおると、まことしやかに奇蹟をいて
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えん小角しょうかくの再来じゃと、人もいい、自分もいうておりますげな。一度、呪いのぎょうにかかれば、大地を打つつちはずれようとも、豊前の僧都が調伏は外れぬとは、前からいうておりますことでの」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高廉こうれんの妖術やら戴宗の神行法しんこうほうなども平気で駆使するし——つまりここらが、いわゆる大陸古典の大陸小説らしいテーマであって、日本での話ならえん行者ぎょうじゃの伝説でもなければ見られないところである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)