帯揚おびあげ)” の例文
旧字:帶揚
君江は羽織をきたまま坐ったなりで、帯揚おびあげ帯留おびどめとをとり、懐中物を一ツ一ツ畳の上に抜き出しながら、矢田の顔を見てにっこりした。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
帯揚おびあげを結びて帯をしめたる後、帯の結めの下に通して引廻し、前にて帯の幅の中ばに留む、これも紐にて結ぶあり、パチンにてむるあり。
当世女装一斑 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
トム公はかえって、ぎょっとしたように外の闇を見つめた。からたちのいばらをかして華やかな友禅ゆうぜんちりめんと緋鹿ひが帯揚おびあげが見えた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
根岸の姉さんがお節のために見立てゝ呉れた流行帯揚おびあげ淡紅うすあかな色ばかりでも、妹をうらやませるには十分であつた。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
葛籠つゞらの底に納めたりける一二枚いちにまいきぬうちかへして、浅黄あさぎちりめんの帯揚おびあげのうちより、五つう六通、数ふれば十二つうふみいだしてもとの座へもどれば、蘭燈らんとうのかげ少し暗きを
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼女は緋鹿ひかの子の帯揚おびあげが胸のところにこぼれているのを見つけだすと、あわてたように帯の間にたくしこんで、胸をかたく合せた。藤紫の半襟が、なるべく隠れるように襟元をつめた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
久からずして彼はここをも出でて又居間に還れば、ぢき箪笥たんすの中より友禅縮緬ゆうぜんちりめん帯揚おびあげ取出とりいだし、心にめたりし一通のふみとも見ゆるものを抜きて、こたびはあるじの書斎に持ち行きて机に向へり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
でも、帯揚おびあげの中には、子の又八へ宛てた遺書を入れておくのを忘れていない。自分で写経しゃきょうした「父母恩重経」の一部にそれを挟んで、ふかく秘めておく。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
菊枝は活々いきいきとしたむすめになったが、以前から身に添えていた、菊五郎格子の帯揚おびあげに入れた写真が一枚、それに朋輩のむすめから、橘之助の病気見舞を紅筆べにふでで書いて寄越よこしたふみとは
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
粲然ぱつとしたる紋御召のあはせ黒樗文絹くろちよろけん全帯まるおび華麗はなやかべにの入りたる友禅の帯揚おびあげして、びんおくれのかか耳際みみぎは掻上かきあぐる左の手首には、早蕨さわらび二筋ふたすぢ寄せてちようの宿れるかたしたる例の腕環のさはやかきらめわたりぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
お芳は赤い帯揚おびあげをしていた。郷士の娘で、小締めな体つきで、顔だちがよかった。木立の外に立って、延徳街道と穂波のほうから戸狩へはいる白い道すじを見張っていた。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歌人うたびとが自分で深くおもんぱかり、すべて婦人の弟子に対する節は、いつもそのべに白粉おしろいかんざし、細い手、雪なすうなじ、帯、八口やつくちあふれるくれないつま帯揚おびあげ工合ぐあいなどに、うっかりとも目の留まらぬよう
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
帯揚おびあげのうしろか、たもとの中か、何処かにあの般若はんにゃ仮面めんを呑んでいるお蝶です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白い脚絆きゃはん、素足に草鞋穿わらじばきすそ端折はしょった、中形の浴衣に繻子しゅすの帯の幅狭はばぜまなのを、引懸ひっかけに結んで、結んだ上へ、桃色の帯揚おびあげをして、胸高に乳の下へしっかとめた、これへ女扇をぐいと差して
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すっかり支度をして出て行ったらしく、帯揚おびあげひとすじ残っていない。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帯揚おびあげ
当世女装一斑 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
繻珍しゅちんの帯にお召の着物、玳瑁たいまいくしにギヤマンのかんざし、さんごの帯留おびどめ鹿の子の帯揚おびあげ、そして蒔絵まきえの下駄を穿かせて、塗りのおかごに男芸者をたくさん付けて、堺町さかいまちの勘三郎芝居へ連れて行って頂戴
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
物の蔭にひそみながら帯揚おびあげを解いてその中へ手を入れました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)