妖気ようき)” の例文
そのはなは、のめずりたおれた老人ろうじん死体したいを、わらつておろしているというかたちで、いささかひとをぞつとさせるような妖気ようきただよわしている。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
浮彫で浴衣ゆかたが釘に掛ってブラ下っていてそれが一種の妖気ようきを帯びているという鏡花の小説みたいなものを拵えたつもりで喜んでいた。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
それは「妖気ようき」といったふうな、かなり異常なものであったが、今、眼の前に立っている躯からも、それと同じものが感じられた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
イルマという女の知恵のない肉塊のような暗い感じ、マダム・ブランシュの神巫シビルのような妖気ようきなどもこの映画の色彩を多様にはしている。
映画雑感(Ⅳ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
悪魔の尿溜ムラムブウェジ妖気ようきに、森の掟に従わされ、よしんば生きていても遠い他界の人だ。不思議とマヌエラには一滴の涙もでなかった。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
迷信、頑迷がんめい欺瞞ぎまん、偏見など、それらの悪霊は、悪霊でありながらもなお生命に執着し、その妖気ようきの中に歯と爪とを持っている。
妖気ようき紛々ふんぷんたる割に、身体に活々した弾力のあるところを見ると幽霊というよりは、狐狸こりの仕業という類いかもわかりません。
おまえの家の屋のむね妖気ようきがたちのぼっているゆえ、ほっておいたら恐ろしい災難がかかってくるぞ、とやにわにこのようなことを申しましたのでな
人でも、物でも、長く甲羅こうらをへたものは、一種の妖気ようきといったようなものが備わって、惻々そくそく人にせまる力がある。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
今や場内は異様いよう妖気ようきに包まれてしまった。これが東京のまん中であるとは、どうしても考えられなかった。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
葉子の紹介につれて、二人は簡単な挨拶あいさつを取りかわしたが、何か妖気ようきの漂っているような部屋を、黒須は落着きのない目で見まわしていたが、相当興奮もしていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
一種の妖気ようきとも云うべき物が、陰々として私たちのまわりを立てめたような気がしたのですから。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なんともいえない妖気ようきにうたれて、口をきくことも、身うごきすることも、できなくなったのです。
怪奇四十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と卜斎一流の妖気ようきみなぎるふくみ気合いが、それをはねこえて壁ぎわへ身をりつけると
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「博士、死の船です。幽霊船です。甲板から不気味な妖気ようきが立っています」
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
あぎとの下へ手をかけて、片手で持っていた単衣をふわりと投げて馬の目をおおうが否や、うさぎおどって、仰向あおむけざまに身をひるがえし、妖気ようきめて朦朧もうろうとした月あかりに、前足の間にはだはさまったと思うと
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私の汗はたちまちにして引下るであろうところの妖気ようきを感じるのである。
その身構えから発する妖気ようきとも云うべきものは、たしかに人の心胆を奪う力を持っていた。しかしそれは防いで防げないものではなかった。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それは壁という壁から立ち上がる、妖気ようきでもあるかのように、最初横蔵に発して、さしも頑強がんきょうな彼も、日に日に衰えていった。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
一枚物では五番目の「黒鍵こっけん=変ト長調(作品一〇ノ五)」ではビクターのパハマンのが面白く、例の独言ひとりごとの入っているのまで物々しい妖気ようきき散らす(JF五五)。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
両側のナツメの植込みが、まっ黒なかげを作って、そこに何かしらただならぬけはいが感じられたからだ。見まいとしても不思議な妖気ようきが彼の眼をその方へ引きつけて行った。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そら、眠りの術が始まるぞ! と思って龕燈を用意していると、それとも知らずに、予想どおり、いとも奇怪な一道の妖気ようきが、突如右門の身辺にそくそくとおそいかかりました。
例えば坊さんが月を見上げて感慨にふけっているところや女の浴衣ゆかたが釘にぶら下っておるという妖気ようきの漂う鏡花式みたようなものを無闇に作ったが、それが当時の彫塑会では新しかった。
美術学校時代 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
多宝塔たほうとうの上で、遠術のいんをむすんでいた呂宋兵衛るそんべえ、あおじろいひたいから、タラタラと脂汗あぶらあせをながしたが、すぐ蛮語ばんご呪文じゅもんをとなえ、満口まんこう妖気ようきをふくみ入れて、フーと吹くと、はるかな
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一丁ほども行って、十八番館の煉瓦塀れんがべいについて曲ろうとしたとき、いきなり僕の左腕さわんに、グッと重味がかかった。そしてこの頃ではもうぎなれた妖気ようき麝香じゃこうのかおりが胸を縛るかのように流れてきた。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
妖気ようきおのずからじょうつ。稚児二人引戻さる。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
篝火をうつして、宝冠がきらきらと光り、武者たちのほうへふり返った顔が、強くひきつって、妖気ようきを放つようにみえた。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
荒涼とした室内の、くもの巣だらけな欄間らんま厨子ずしに、はげ落ちた螺鈿らでんの名残りが猫の目みたいに光っていて、湿しめっぽい妖気ようきを漂わせ、かびと土の香をまぜたような、一種のにおいがおもてつ。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
想像にたがわず、この異様な西洋館には、妖気ようきがこもっているのだ。その妖気が一つに凝りかたまって、白衣の女性の姿となって、円塔の闇の中をさまよっているのではないかと怪しまれた。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
蒼白く整った顔からは、芬々ふんぷんとして妖気ようき立昇たちのぼるような気がするのです。
屋のむね妖気ようきがたち上っているとそちらのお比丘尼さまがおっしゃってくださいましたゆえ、こうして一心不乱におへびしずめの行を積んでいるのに、何をもったいないことをおっしゃいますか!
一同は此の室に何だかただならぬ妖気ようきただよっているような気がした。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どんなに遊蕩心ゆうとうしんに燃えている男でも彼女の血走ってぎらぎら光る眼や、厚くまくれあがった赤い大きな濡れた唇や、妖気ようきを発する程の逞しい躰躯たいく
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かれはかれじしんのむすぶ幻術げんじゅつ妖気ようきっているもののようである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
荒廃した風景のなかでその毒々しい赤さは一種の妖気ようきを帯びてみえる、誰の眼にもそう映るのだろう、いつからかこの家は「柘榴屋敷」と呼ばれていた。
風流化物屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
足助の口ぶりには、執念といったような、暗い妖気ようきがこもっているように感じられたからである。
榎物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それは今しがた佐知子が津川を驚かした一種の精気——とらえがたい静かさ、妖気ようきとでもいいたいものがどの画のうえにも現われていることである、そしてそれらの対照として一点だけ
正体 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
まるで獲物えものをねらう蛇のような云い知れぬ妖気ようきが、その全身から発する感じだ、これまでの伝七郎なら、それだけですくんでしまったろう、だがいま彼は銀之丞を上から見下ろしている
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)