執拗しつこ)” の例文
「何とでも考えたらいいじゃないの……イクラ云ったってわからない。どうしてソンナに執拗しつこくお聞きになるの。下らない事を……」
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「私、今夜はお詫びに来たの。実際、根も葉もない怨みを、執拗しつこく思い詰めていて、今まで、私、ほんとうに悪かったと思いますわ」
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「あら、御免下さい、私麻雀はあまり好きじゃありませんし、金井さんが執拗しつこく仰しゃるから、そっと抜け出してしまったんです」
思い込むと蛇のように執拗しつこくなる男であります。飛んでもない、人もあろうに宇津木兵馬は、この男のうらみのまととなってしまいました。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何を、平馬は、こうまで執拗しつこく、自分を恨むのであろう——出逢い次第、果し合わねばならぬほどの事が、どこにあるのだろうか?
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
もう一度呼ぶと、又ブルン! と振る。執拗しつこく呼ぶとしまいには答えなくなるが、二三度はこの方法で答えることは確かである。
客ぎらい (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「何といふまあ執拗しつこい病やなあ、早う何うにかなつて呉れると宜いけれど。」と平七は平三と二人きりの時浮かぬ調子で言つた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
彼はあちこちに激しい視線を投げ返してやった。こちらから他人へ干渉しないのに、他人が執拗しつこく自分に干渉してくるのを、憤っていた。
これは突発的な精神の打撃にはなりませんけれど、その代りに精神を虫食む度合が執拗しつこく、だらだらと生活の張合いを失くしてしまいます。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私は考え考えいるうち、ふとずっと先きから、執拗しつこく心にねばりついていることを、そっと落ちついて、女に、そう大事でないように云った。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
男3 とにかく、それは死んだ行平ゆきひらものですよ。確かにそうです。……全く執拗しつこいったらありゃしない……(左へ退場)
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
しかしそこにも、彼は何か気持にまつはりついて来る執拗しつこい悪臭のやうなものを感じて、夢中になることが出来なかつた。
道化芝居 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
浜勇は執拗しつこいいやらしい人やと眉をひそめてるのに、花江の話では、そういう事には、さっぱり冷淡やったいうのです。
が、写真班の連中は、先方が避ければ避けるほど完全にカメラの中に収めようと、執拗しつこく後をおっかけて居ました。
たちあな姫 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
執拗しつこい男だわね、用があるなら台所口へ廻って頂戴、表に立っていられちゃ縁起が悪るくって仕様がない!」
青い風呂敷包 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
その狐に執拗しつこく絡み付いて来るので、おまんも内心持て余しているところへ、丁度に石田と水野の虚無僧が来あわせて、元八は忽ちずでんどうという始末。
彼女は痩せた男に執拗しつこみつめられたり、体の隅々までめるような視線に会ってもべつだん不快な顔をせず
蛮人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
わたしも執拗しつこく二度とは聞きもせずに見おろしていると、あたかもその時である。最初は漠然とした大地と空気との動揺が、やがて激しい震動に変わってきた。
はげしい情熱も次第に鎮まって、しまいには牡猫等の執拗しつこい誘い声に身悶えするようなこともなくなった。
老嬢と猫 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
巴里パリイ人の事だから無論多少の酒を飲んで居るにかゝはらず日本の花見に見受ける様な乱酔者ゑつぱらひまつたく無い。従つて執拗しつこ悪巫戯わるふざけをする者が無く、警察事故も生じない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
云ふのだらう? 何だつてそんなに執拗しつこく私の膝に坐つてゐるのです、私が行つて下さいと云つてるのに?
気味が悪くてたまらん、どこかええとこへ宿がへして了はう、と云ひ出せばまた執拗しつこくなつて困るのだ。
現代詩 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
こほろぎが鳴いてゐる……あれほど執拗しつこく人を苦めた白い濃霧の集団までがもう黴の毛ほどの細かい初秋の啜り泣きとなつて消え散つて了ひ、霊岸島の瓦から瓦へ
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
……あんまり執拗しつこいから、私も次第に胸に据えかねて、此方が初め悪いことでもしはしまいし、何という無理な厭味を言う、と、今更に呆れたが、長田の面と向った
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
あんなに執拗しつこかつた憂鬱が、そんなものの一顆で紛らされる——或ひは不審ふしんなことが、逆説的ぎやくせつてきな本當であつた。それにしても心といふ奴は何といふ不可思議な奴だらう。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
「本当に執拗しつこい空瓶だこと」と、今度は妹娘が拾って投げようとすると、その時背後うしろの方より
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
雑誌社の編輯員へんしゅういんの面前で、泣いてしまった事もある。あまり執拗しつこくたのんで編輯員に呶鳴られた事もある。その頃は、私の原稿も、少しは金になる可能性があったのである。
これらの和歌でも想像されるように、主水は敬虔けいけんの心を持った柔和な人物であったので、恋人を兄に横取りされても執拗しつこく怨むような事もなくむしろ諦めていたのであった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
従って、執拗しつこいほど門田与太郎を呼んだことも、耳許みみもとわめきかえされてようやくそれと感づいた。そう云えば、人々の話しごえを意味のない風の音のようにざわざわと聞いていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「じゃあ、執拗しつこくはうかがうまい、そのかわり、あれなる草庵へちょっと案内を頼む」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鷲尾が知ってるだけの材料で話し終る間若者は熱心に破けたズボンの穴をいじくりまわしながら、はとのように丸い眼をクルクルさして聴いていたが、執拗しつこい程質問を繰りかえした揚句あげく
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
そこへ着くと私の様子を見て「どこへ行かれるのか」といって執拗しつこく尋ねましたが
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
冗戯じょうだん執拗しつこいと直き腹を立てまして、なんでも、江戸のとびの衆を、船から二三人かいで以て叩き落したと云いますからね。あなた方にそんな事も御座いますまいが、どうかそのおツモリで
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「大層嫌うな。……その執拗しつこい、嫉妬しっとぶかいのに、口説くどかれたらお前はどうする。」
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこがこの男の多分に偏執狂的な所以ゆえんであり、同時にまたいかにその性質がネチクリと蛇のように執拗しつこかったかという、証拠にもなると思われるのですが、社会的に転落すればするほど
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
あまりにいまいましかったので、おれにかまうな、あっちへ行けと言ってやったが、まだ口明けだからと執拗しつこく言うので、早く追い払おうと思ってポケットの金を出しにかかると、彼は言った。
始めて本統ほんとうの事情を知った妻から嫉妬しっとがましい執拗しつこい言葉でも聞いたら少しの道楽気どうらくげもなく、どれほどな残虐な事でもやり兼ねないのを知ると、彼れは少し自分の心を恐れねばならなかった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
執拗しつこく持ちかけるからで、病気ならともかく、若い娘の身で、むやみに灸の跡をつけられてはたまったものではないと、たいていの娘は「高い山から」をすまさぬうちに、逃げてしまうのだった。
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
話はまた前に戻って、かの客はまだ執拗しつこく繰り返した。
平三郎は執拗しつこい婢のやりかたに腹を立ててしまった。
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
執拗しつこいのだけは止めんと嫌はれるよ。ハヽヽヽヽヽヽ
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
とか、執拗しつこいまでに、訊くのであった。鷺太郎は
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
執拗しつこい野郎だな、こん畜生あ)
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
それとも後添を探す気でもあるのか、——って、執拗しつこく聞いた癖に、そして、万一再縁してもいいようなら、私にも少し考があるって——
青い眼鏡 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
(私はそんな要求にはめったに応じないことにしているけれども、足だけはあまり執拗しつこく云うので、むを得ず見せる)
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
冷やかに眺めてさばき、深く自省に喰い入る痛痒いたがゆ錐揉きりもみのような火の働き、その火の働きの尖は、物恋うるほど内へ内へと執拗しつこく焼き入れて行き
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「お武家様、お前様は、あの男に見込まれなさいましたね、お気をつけなさらなくちゃあいけませんぜ、あいつは執拗しつこい奴でございますからなあ」
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今夜の彼女はよほどどうかしています、大胆な態度といい、上ずッた調子といいまるで自暴やけなんですからね。それをまた京都が執拗しつこく追い廻しているんです。
耳香水 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
それでも元八は執拗しつこく絡み付いて行くうちに、やがて田圃路を通りぬけて、二人はやや広い往来へ出た。
煩く執拗しつこい本能が、快活さ(少くとも私の)は、彼にとつて嫌なものだといふことを、私に教へたから。