四時しじ)” の例文
国境の山、赤く、黄に、峰岳みねたけを重ねてただれた奥に、白蓮の花、玉のたなそこほどに白くそびえたのは、四時しじに雪を頂いて幾万年の白山はくさんじゃ。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
壁には四幅しふく金花箋きんかせんを貼って、その上に詩が題してある。詩体はどうも蘇東坡そとうば四時しじならったものらしい。書は確かに趙松雪ちょうしょうせつを学んだと思う筆法である。
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その画面は絵巻物を繰りひろぐるが如く上巻より下巻まで連続して春夏秋冬の四時しじわたる隅田川両岸の風光を一覧せしむ。開巻第一に現れきたる光景は高輪たかなわ夜明よあけなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
酉陽雑俎いうやうざつそいふ熊胆ゆうたん春はくびり、夏ははらに在り、秋は左の足にあり、冬は右の足にありといへり。こゝろみ猟師かりうどにこれをとひしに、くまきもは常にはらにありて四時しじ同じといへり。
四時しじおもむろにそのまわりに移り変って行きます。風雨がこれを洗い、雷電がこれにはためきかかり、地震がこれをゆすぶりつつ、これを楽しませ、おどかし、励ましております。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
パンダヌス(小笠原島へん章魚たこ)その他椰子類やしるい等はその主なるものにて、これを点綴てんせつせる各種の珍花名木は常にけんを競い美を闘わし、一度凋落ちょうらくすれば他花に換え、四時しじの美観断ゆる事なし。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
国境の山、赤く、黄に、みねたけを重ねてただれた奥に、白蓮びゃくれんの花、玉のたなそこほどに白くそびえたのは、四時しじに雪を頂いて幾万年いくまんねん白山はくさんぢや。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
酉陽雑俎いうやうざつそいふ熊胆ゆうたん春はくびり、夏ははらに在り、秋は左の足にあり、冬は右の足にありといへり。こゝろみ猟師かりうどにこれをとひしに、くまきもは常にはらにありて四時しじ同じといへり。
また思ふに西洋支那の食卓共に華麗荘厳の趣あれども四時しじを通じてその模様大抵同じきが如く、その料理とこれを盛る食器との調和対照に意を用ゆる事我国の如く甚しからざるに似たり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しかれども白晝はくちう横行わうぎやう惡魔あくまは、四時しじつねものにはあらず。あるひしうへだててかへり、あるひつきをおきてきたる。そのとききたとき進退しんたいつねすこぶなり。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
蘭房別占四時春 蘭房らんぼうわけても四時しじの春
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
たゞことわつてくが、そのゆる篝火かゞりびごとき、大紅玉だいこうぎよくいだいたのをんなは、四時しじともに殺生禁斷せつしやうきんだんのはずである。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たゞし、四時しじつねにあるにあらず、としくれあられけて、早春さうしゆん御馳走ごちそうなり。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
三峰さんぽうあり、南を別山べつざんとし、北を大汝嶽おおなんじだけとし、中央を御前峰ごぜんがみねとす。……うしろ剣峰けんがみねあり、そのさま五剣ごけんううるが如し、皆四時しじ雪をいただく。山中に千仞瀑せんじんだきあり。御前峰の絶壁にかかる。美女坂びじょざかよりはるかるべし。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)