)” の例文
家のまわりをまわって狂気に取りつかれて追跡以外には何にも心に留まらない態でわたしを見ても少しもかえりみずにえつづけた。
なかには、海豹、海驢あしか緑海豹グリーン・シールなど十匹ほどのものが、ひれで打ちあいウオーウオーとえながら、狭いなかをねかえすような壮観だ。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「おのれ申したな」権太夫はぐっと馬の手綱をひき絞った、「……さらばその首十五討ち取ってさらし物にして呉れるぞ、えるな」
山だち問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
黒泡を立てて噛み合いえ合い、轟々として奔騰しそれが耳もろうせんばかりの音と相俟あいまって、喧囂けんごうといっていいか、悲絶といっていいのか
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
するとそのせ高の画かきは、にはかに清作の首すぢを放して、まるでえるやうな声で笑ひだしました。その音は林にこんこんひゞいたのです。
かしはばやしの夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
猛獣のえるような恐しい音を立てて水柱がもり上り、やがて、ざざざざ……ごおーっと、滝のようにくずれ出した。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
なかにはドラ声をはり上げて、軍歌をうたふ者もあれば、キヤッ/\とさるのやうな声を出したり、おほかみやライオンのやうな真似まねをしてゐる者もあります。
栗ひろひ週間 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
らき波の白く砕けて岸にゆる有様がいい知れぬ快感をき起して、我れ知らず躍り上るを禁じ得なかった。
悪魔は漠然ばくぜんと姿を現わし、人は自己のことのみを考えている。盲目の自我が、え、あさり、模索し、かみつく。
自動車は馬のためにえ、犬は馬のために尾を振り、国旗は馬のためにひらめき、奏楽は馬のために行われ
彼方はるかに白浪のゆる所、ほばしら折れげん砕けたる廃船の二つ三つ漂へるはバルチツクの海ぞ、そこの岸辺に近く、かつて実弾の祝砲を見舞はれたる弾痕の壁の下
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「と云う意味は」と小さい坊さんの答える声は嵐のえ狂う中にもちょっと大きくなったかと思われた。
ゴメズは屠牛所の血の匂いを嗅ぎつけた牡牛のようにえ続けた。彼は我々が線路の側に立っているのを見た。そして狂人きちがいのように我々に向って手振りをしてみせた。
押し戻された二人は、争って覗き穴のところから顔をつきだし、まるで獣のようにえたてた。
鍵から抜け出した女 (新字新仮名) / 海野十三(著)
木鹿軍の兵は、その顔も皮膚も真っ黒で、まるで漆塗うるしぬりの悪鬼羅刹らせつことならない。しかも大王のうしろには、つながれた猛獣の群れが、尾を振り、雲を望んでえていた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
而も再び皮を引剥がされた傷口からは、皮の出来る前よりは更に治し難い程の痛みを以つてだく/\と血が流れ出さずにはゐなかつた。彼はえ度い口を封じられたやうに全身を顫はせた。
今度は黒雲のはじを踏み鳴らして「肉をくらえ」と神がさけぶと「肉を食え! 肉を食え!」と犬共も一度にえ立てる。やがてめりめりと腕を食い切る、深い口をあけて耳の根まで胴にかぶりつく。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日光の直射を恐れて羽蟻は飛びめぐり、溝渠には水涸れて惡臭を放ち、病犬は朝鮮薊の紫の刺に後退あとしざりつゝえ𢌞り、蛙は蒼白い腹を仰向けて死に、泥臭い鮒のあたまは苦しさうに泡を立てはじめる。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
己の空費された過去は? 己はたまらなくなる。そういう時、己は、向うの山の頂のいわに上り、空谷くうこくに向ってえる。この胸を灼く悲しみを誰かに訴えたいのだ。己は昨夕も、彼処あそこで月に向ってえた。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
島の木はえに咆え、日光にあふれた雲が奔馬のように飛んでゆく。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
える風に横ざまの雨滴うてき
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ゆれば天もふるへたり。
呻くというよりえるというほうに近く、短い一と声だったが、登はふいに水でも浴びせられたように感じ、いそいでそこを通りすぎた。
するとそのせ高の画かきは、にわかに清作の首すじを放して、まるでえるような声で笑いだしました。その音は林にこんこんひびいたのです。
かしわばやしの夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
すると、グレプニツキーは、相手の顔をじっとみつめていたが、見る見る絶望の表情ものすごく、胸をかきむしって、けるような声を出した。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
時には月の夜、狐どもが森の犬のように、耳ざわりな悪魔的な声でえながらシャコその他の猟鳥をさがして雪の外殻のうえをうろつくのを聞いた。
いつか私が岩躑躅いわつつじを折りながら降りて来て、突然子牛のようなペリッにえられた、あの周防山すおうやまに並んだ樹木のこんもり生えた、山道へ分け入っていったのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
しかしプレンダーガストは牛のようにえると、生き残ったものを従えて、戸口のほうに突進した。そして外に出ると、船尾のほうに中尉とそして十人のその部下がいた。
外海そとうみは太陽がキラキラとかがやいているのに、荒波はしぶきを上げてえたてているのだ。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
大男が、えるような声をあげて、さっととびかかろうとした時である。
太平洋魔城 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、ゆるが如くいって、はや剣を鳴らした者がある。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その声はさながらゆるごとくなりき。
呼子と口笛 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
伊兵衛はなんども立止って、人声でも聞えはせぬかと耳を澄ました……しかし吹雪のえるほかにはなんの物音もしなかった。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
売女ばいた、売女め! とかきむしるような言葉を、寝床のなかで座間はえたてていた。やがて夜があけた。雨が暁の微光に油のように光りはじめてきた。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
けれども熊もいろいろだから気のはげしいやつならごうごうえて立ちあがって、犬などはまるで踏みつぶしそうにしながら小十郎の方へ両手を出してかかって行く。
なめとこ山の熊 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
右手はるかに海がえ、やがて断崖だんがいの上に張りめぐらした鉄鎖てっさらしいものが眼に入ってきます。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
しかし時々、彼がわたしを最もうまくまき、ずっと遠くの水面にあらわれたときには、禽というよりはおそらく狼のそれに似た長く引かれた薄気味わるいえごえをたてた。
絶壁を打つ波も、にわかにはげしくえ立て、信天翁あほうどりの一群が、しゃがれた声で泣き叫ぶ。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
サイレンは、さらに猛烈にえたって、女の前をすれすれに駈けぬけた。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その声はさながらゆるごとくなりき。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ごうごうと、大きな釜戸かまどうめきのような火の音と、えたける烈風のなかに、苦痛を訴えるすさまじい人の声が聞えた。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それが、乗り込んでから、十八日目の夜のことで、戸外のやみには、恐ろしいあらしえ狂っておりました。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そしてをまっかにして「へろれって、へろれって、けろれって、へろれって。」なんて途方とほうもない声でえはじめました。さあみんなはだんだん気味悪きみわるくなりました。
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
眼を閉じて狂瀾のえ猛っているこの海を想えば、身の毛のよだつなぞとは、いうも愚か! 生きてこの国へ漂い着いている我々自身の運命を、ただ不思議と考えるほかはないのです。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
えもせず、じっと瞳をえて人間を見わたしている、狡智こうち、残忍というかっとなるような光。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
髪毛から青い火をたてながら、焔の中へとびこんでゆく女の姿、……そして巨大な釜戸かまどえるような、すさまじい火の音をとおして、訴え嘆くようなあの声が聞えてきた。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その恐ろしいものはほほをぴくぴく動かし歯をむき出してえるやうに叫んで一郎の方に登って来ました。そしていつか一郎と楢夫とはつかまれて列の中に入ってゐたのです。
ひかりの素足 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「これ、ペリッ! もうわかったからいいのよ、えるんじゃないといったら!」
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
そして二人はまっ黒な雲の中を通り暗い波のえていた海の中に矢のように落ち込みました。
双子の星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
日観寺から登って来る谷のあたりで、けもののえるような、男の太い叫び声がした。それにつづいて、若い女たちの黄色い叫びが起こり、谷間の樅や杉の森にこだました。