呪詛のろい)” の例文
これが一種の乱心であるとか、何かの祟り呪詛のろいを受けている人間であるとかいうような事は、どうしても私には考えられなかった。
深見夫人の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
……「久田の姥を殺した刹那せつな、お前はまたも呪詛のろいを受けよう。恐ろしい呪詛! 恐ろしい呪詛! 不幸なお前! 不幸なお前!」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
呪詛のろいの杉より流れししずくよ、いざなんじちかいを忘れず、のあたり、しるしを見せよ、らば、」と言つて、取直とりなおして、お辻の髪の根に口を望ませ
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
◯一節—十節のこの呪詛のろいの語のいかに深刻痛烈なるよ。その中二、三の難解の語を解せんに、八節に「日を詛う者、レビヤタンを激発ふりおこすにたくみなる者、これを詛え」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
僕は飛んでもない呪詛のろいにかかっているのです。イイエ。虚構うそじゃありません。卒業論文なんかに呪詛のろわれて、神経衰弱にかかったんじゃありません。別にチャンとした原因があるのです。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
動かしがたい運命のおごそかな支配を認めて、その厳かな支配のもとに立つ、幾月日いくつきひの自分を、不思議にも同じ不幸を繰り返すべく作られた母であると観じた時、時ならぬ呪詛のろいの声を耳のはたに聞いた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女は最初僕の言葉を悪魔の呪詛のろいだと怖がった。けれど間も無く其奴を喜ぶようになった。一体人間というものは他人ひと悪口あくこうを好むものだ。
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
雨月 さらでも女子おなごは罪ふかいと聞いたるに、源氏を呪詛のろい調伏ちょうぶくのと、執念しゅうねく思いつめられたは、あまりと云えばおそろしい。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
媛神 よこしまな神のすることを御覧——いまのあたりに、悪魔、鬼畜とののしらるる、恋のうらみ呪詛のろいの届くしるしを見せよう。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
第一段は一節—十節であって呪詛のろいの語である。悲歎の極ヨブは何物かを詛わざるを得なかった。そして他に詛うべき何者をも有せざる彼は、遂にわが生れし日を詛ったのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
保元ほうげん平治へいじの乱である。しかも古来の歴史家は、この両度の大乱の暗いかげに魔女の呪詛のろいの付きまつわっていることを見逃しているらしい。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
……しかもお前は産みの母の呪詛のろいの犠牲になっているばかりか、今や新しく種族の犠牲にその身を抛擲なげうとうと心掛けている
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
懐中ものまで剥取はぎとられた上、親船おやぶね端舟はしけも、おので、ばら/\にくだかれて、帆綱ほづな帆柱ほばしら、離れた釘は、可忌いまわし禁厭まじない可恐おそろし呪詛のろいの用に、みんなられてしまつたんです。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ああこのうらみこの呪詛のろいを返すことも出来ずに死ぬのだよ。妾は死んでも死にきれない! 猪太郎や妾にはお願いがある。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いつかもお話し申した通り、三好さんの家には何かの呪詛のろいがあるらしく思われてならないのです。透さんが台湾へ行って蛇に殺されるというのは……。
深見夫人の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その草の中に、榜示杭ぼうじぐいに似た一本の柱の根に、禁厭まじないか、供養か、呪詛のろいか、線香が一束、燃えさしの蝋燭が一ちょう。何故か、その不気味さといってはなかったのです。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
老僕の耳へ聞えるのは益々猛けり立つバルビューの声だけで、やがて其声は呪詛のろいとなり又はげしい怒罵ともなった。
物凄き人喰い花の怪 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
万一、景清が仕損じても、平家一門の呪詛のろいによって、源氏のゆくすえも大方は知れて居りまする。(云いかけて、又うなずく。)おお、云うまでもござらぬ。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
世をうらむ、人間五常の道乱れて、黒白あやめも分かず、日をおおい、月を塗る……魔道の呪詛のろいじゃ、何と! 魔の呪詛を見せますのじゃ、そこをよう見さっしゃるがい。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「姫路の城には天主閣があるそうじゃが、それは世の守り神と存じて必ず疎略にいたすな。世の禍いはその神の呪詛のろいとも思わるる節がある。心して祀り仕えよ。」
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
われら町人の爺媼じいばば風説うわさであろうが、矯曇弥の呪詛のろいの押絵は、城中の奥のうち、御台、正室ではなく、かえって当時の、側室、愛妾あいしょうの手に成ったのだと言うのである。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女子 一つの願いは、また一つの呪詛のろいのように思われてなりませぬ。それをお話し申すは、やすいことでござりますけれど、お話し申しても何んの役にも立たぬことでござりますれば……。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
千枝松はまだ胸が晴れないらしく、自分が知っている限りの軽蔑や呪詛のろいのことばを並べ立てて、自分たちのうちへ帰り着くまで、憎い、憎い、陶器師の疫病婆を罵りつづけていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
神職 しがくしに秘め置くべき、この呪詛のろい形代かたしろを(藁人形を示す)言わば軽々かるがるしう身につけおったは——別に、恐多おそれおお神木しんぼくに打込んだのが、森の中にまだほかにもあるからじゃろ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
十 純な少女の呪詛のろい
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
太刀に手をかけて、秀吉はそこらを屹と睨み廻したが、それは声ばかりで、呪詛のろいのぬしはどこにも姿を見せなかった。狐狸妖怪になぶられたかと思うと、彼の憤怒はいよいよ募った。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
してみれば、お貞、お前が呪詛のろい殺すんだと、吾がそう思っても、仕方があるまい。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なんの祈願ねがいか、なんの呪詛のろいか。殊に外出を封じられている衣笠が、この夜ふけに一人の供をも連れないで何処いずこへ行くつもりであったろう。千枝太郎にはとてもその想像が付かなかった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この呪詛のろいのために、浮べるやからはぶくりと沈んで、四辺あたり白泡しらあわとなったと聞く。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私が呪詛のろい殺すのだと、もうもうさほどでもない病気でも、の目も寝ないで介抱するが、お医者様のお薬でも、私の手から飲ませると、かえって毒になるようで、何でも半日ばかりの間は
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そんなことを言うと変ですけれど、あの人たちには何かの呪詛のろいが付きまとってでもいるのじゃあないでしょうか。汽車の中のお話を聞いて、わたしには何だかそう思われてならないのですよ。
深見夫人の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
尼が畜生道にちるのを救うといったのも、怪しい縁によって、私はおびき寄せたのも、……どうもはじめから、兄洞斎の、可恐おそろしい嫉妬の怨念にむくゆる、復讐ふくしゅう呪詛のろいだったとも思われません。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
聞くもおそろしい悪魔の呪詛のろいである。小坂部はまた訊いた。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
(黒髪のその呪詛のろいの火を払い消さんとするや、かえって青き火、幣に移りて、めらめらと燃上り、心火と業火ごうかと、ものすご立累たちかさなる)やあ、消せ、消せ、悪火あくびを消せ、悪火を消せ。ええ、らちあかぬ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寝食も忘れまして……気落ちいたし、心え、身体からだは疲れ衰えながら、執着しゅうぢゃくの一念ばかりは呪詛のろいの弓に毒の矢をつがえましても、目がくらんで、的が見えず、芸道のやみとなって、老人、今は弱果よわりはてました。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
公子 お前、私の悪意ある呪詛のろいでないのが知れたろう。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)