吾々われわれ)” の例文
したという噂ですよ……まあ何にしても、あんた方と吾々われわれは同じ利害関係を持っているんですからな……一つ仲良く行きましょう……
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
其処そこには例の魔だの天狗てんぐなどという奴が居る、が偶々たまたまその連中が、吾々われわれ人間の出入でいりする道を通った時分に、人間の眼に映ずる。
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
関東煮とは、吾々われわれ東京人の所謂いわゆるおでんの事だよ。地方へくとおでんの事をく関東煮と呼ぶ。殊に関西では、僕自身度々たびたび聞いた名称だよ。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
個人の嗜好しこうはどうする事も出来ん。しかし日本の山水を描くのが主意であるならば、吾々われわれもまた日本固有の空気と色を出さなければならん。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
吾々われわれは、〔残酷〕なる銃剣の下にたおれたる斎藤内大臣、高橋大蔵大臣、渡辺教育総監に対して、深厚なる弔意を表示すべき義務を感ずる。
二・二六事件に就て (新字新仮名) / 河合栄治郎(著)
それを浜松城はままつじょうし立てる罪人ざいにんなどとは、飛んでもないあやまり、どうか、あの婦人ふじん吾々われわれのほうへおわたしをねがいたい
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
落ちて来るのを見向きもしないでスタスタと実験室に引返ひきかえすという変りようだからトテモ吾々われわれ凡俗には寄付よりつけない。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
吾々われわれ花見連中れんじゅうは何も大阪の火事に利害を感ずることはないから、焼けても焼けぬでも構わないけれども、長与ながよいって居る。しや長与が焼死やけじにはせぬか。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
申すまでもなく地名は人の附けたものである。日本の地名は日本人の附けたものである。前住民が附けたとしても少なくとも吾々われわれの採用したものである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「まあ聞きたまえ、吾々われわれは今グレンジル卿についてある事件を発見するところです。卿は狂人であったのです」
「それは一応御尤ごもっともです。御尤もではござんすが、手前共でも若い者まかせにはしないで、吾々われわれ自身出ばるつもりなんで、何しろこの際の事ですから……」
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
これだけ申せば、私がこの黙示図に莫迦ばからしい執着を持っている理由がお判りでございましょう。勿論その人影というのは、吾々われわれ六人のうちにはないのです。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
吾々われわれは「扇をさかさにした形」だとか「摺鉢すりばちを伏せたような形」だとかあまり富士の形ばかりを見過ぎている。
路上 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
「多分そこらへ一人で探検に出かけているんだろう。もう程なく帰って来ようから、吾々われわれは少しも早くここの空気の逃げ出さないようにしなければならない。」
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
又言うまでもないことだが、吾々われわれの記憶というものも本当の事実に正確であるかどうかも甚だ覚束おぼつかない。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
吾々われわれは青楓氏の画房で絵を描いたり字を書いたりして一日遊び、昼食は青楓氏の宅の近所にあるという精進料理の桃山亭で済まし、その費用は河田博士が弁ぜられる。
御萩と七種粥 (新字新仮名) / 河上肇(著)
鰻丼うなどんなども上等なもてなしの一つで、半分残すのが礼儀のような時代であったところを思うと、養殖が盛になったために吾々われわれはありがたい世に生きているわけである。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「これは、よっぽど執心なのだナ」と、私は、ますます柳沢の心が飲み込めて来るにつれて、どうしてもこれは吾々われわれの間に厭な心持ちのすることが持ち上らずにはいない。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
豚が次第次第に改良されて今日吾々われわれが見るような大きなバークシャーとなったが、範囲の狭い沖縄では飼養法が悪い上その繁殖方をただ老いぼれた種豚あっちゃーわーに一任しておいたので
門閥を誇ることの外には何もなし得ない、そこで歌舞伎へ行って見ても市村へ行って見ても吾々われわれは更に何等の新しい迫力を感ずることが出来なかった、新派は前にも云う通り
生前身後の事 (新字新仮名) / 中里介山(著)
事を荒立あらだてちゃ損だ。平和工作を十分にして置いて、その下で吾々われわれは楽しい時間を送りたいんだ。今夜あたり早く帰って、博士の首玉くびったまに君のその白い腕をきつけるといいんだがナ
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
吾々われわれの研究の助けとなるものは、出生、死亡、及び結婚の記録簿であるが、それは完全で正確ならば、一般に行われている人口に対する妨げが積極的妨げであるか予防的妨げであるかを
水神の傍の大連湾に碇泊ていはくしていた吾々われわれの艇内では、衣物きものかぶって休んでいた窪田が傍を力漕して通る学習院の艇尾につけた赤い旗をみやりながら、「全く季節が来たな」と久野に話しかけた。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
四時下山し、殺生せっしょう小屋を過ぎ、二十分で坊主小屋、屋上には、開山の播隆上人の碑、それを見越して上は、先きに吾々われわれの踏まえていた大槍、今は頭上をうんと押さえつけて来る、恐ろしいほど荘厳だ。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
よし吾々われわれを宇宙の本位と見ないまでも、現在の吾々以外に頭を出して、世界のぐるりを見回さない時の内輪の沙汰さたである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
よしんば、吾々われわれ同胞が、君に白状をしろと謂ったからッて、日本人だ。むざむざ饒舌しゃべるという法はあるまいじゃないか、骨が砂利になろうとままよ。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
吾々われわれも皆様の武運長久を祈りつつ、微力を尽す考えで御座います。どうか御機嫌よく。本日の放送はこれをもちまして
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
「……どうか充分に休んでくれ給え。吾々われわれや父兄は勿論のこと、学務課でも皆、非常に同情しているのだから……」
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
旦那さん悪さをしてはいけまへんといったのは、吾々われわれ風体ふうていを見て万引をしたとう意味だから、サア了簡りょうけんしない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
吾々われわれは古跡の跡の上にばかりではなく古代の古跡の上に居りました。吾々は信ずべき理由を持っていました。
「いや、すぐに捨ててしまったはずだよ。ところが、まされたのは吾々われわれなんだ」と法水はここでもまた、彼が好んで悲劇的準備トラギッシェ・フォルベライツングと呼ぶ奇言をもてあそぼうとする。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
この婦人は吾々われわれのかいたものを役得に持って帰ることを楽みにしていた。いつも丸髷まるまげを結っていた此の女は、美しくもなくいきでもなかったが、何彼と吾々の座興を助けた。
御萩と七種粥 (新字新仮名) / 河上肇(著)
隠れているのだという風評がある、——これあ、如才なく、吾々われわれに、渡りをつけて来たのだろう
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吾々われわれとしても心苦しい次第だから、町内で金を集めて別に番小屋を建てようっていうんだがね。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
テダが穴などという語は吾々われわれには俗にきこえるけれども、ちょうどのぼる日の直下だけが、あざやかに光り輝いているのを見て、そこを特殊に尊くもまた慕わしい神の島と感じて
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
報告に接して急行した吾々われわれ係官の現場調査も、充分——いや、これはむしろ貴下方の御信頼に任すとして——、それにもかかわらず、この雪の地面には、加害者と覚しき足跡は愚か
気狂い機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
国民皆兵である如く、吾々われわれは皆農でなくてはならぬといふのである。兵役に服すると同様に、一生のうちの一二年間、農業に従事して、その年中の国民の主食物を収穫するのである。
前に申す通り吾々われわれの生命は——吾々と云うと自他を樹立する語弊はあるがしばらく便宜のために使用します——吾々の生命は意識の連続であります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……すなわち厳密な意味で申しますと、吾々われわれの日常生活の中で、吾々の心理状態が、見るもの聞くものによって刺戟されつつ、引っ切りなしに変化して行く。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
駕籠かごかつぐ人足でも無人のときには吾々われわれ問屋場といやばいって頼んでヤッと出来た処に、アトから例の葵の紋が来ると、出来たその人足を横合から取られて仕舞う。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
つまり、吾々われわれの聯想中に、他から有機的な力が働くと、そこに一種の錯覚が起らねばならないからです。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
自分の地盤と金を作ることに一生懸命だ……吾々われわれだけが前線で頑張って見たところでどうにもなるもんじゃない……自分が前線からここへ来たのも分るだろう……いいか、だから
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
「トム公を拘引するなら、吾々われわれを同伴しろ。弱い者いじめをするな」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて吾々われわれが眼前にこの二大区別を控えて向後我邦わがくにの道徳はどんな傾向を帯びて発展するだろうかの問題に移るならば私はしものごとくあえて云いたい。
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
水中にも、地上と同じような匂いが、限りなく漂っていて、こんもりと茂った真昆布まこんぶの葉は、すべて宝石たまのような輪蟲りんちゅうの滴を垂らし、吾々われわれはその森の姿を、いちいち数え上げることができるのだ。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
到底吾々われわれのアタマでは計り知る事の出来ないアタマだよ。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「飲むのは、吾々われわれがひきうける。どこへ行こう」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「草稿? そりゃ大変だ。僕は書き上げた原稿が雑誌へ出るまでは心配でたまらない。実際草稿なんてものは、吾々われわれに取って、命より大切なものだからね」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところが、その日の夜半、突然艇長の急死が吾々われわれを驚かしたのです。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
蛇は吾々われわれの前でとまる。横腹の戸がいくつもあく。人が出たり、這入はいったりする。久一さんは乗った。老人も兄さんも、那美さんも、余もそとに立っている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)