叮寧ていねい)” の例文
それに、其の態度が如何いかにも自信に充ちていて、言葉こそ叮寧ていねいながら、どう見ても此方の頤使に甘んずるものとは到底思われない。
南島譚:01 幸福 (新字新仮名) / 中島敦(著)
きっとなりてばたばたと内に這入はいり、金包みを官左衛門に打ち附けんとして心附き、坐り直して叮寧ていねいに返す処いづれももっともの仕打なり。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
二時ごろに、昨夜ゆうべ医師いしゃが来て診て行った。医師は首をかしげながら、叮寧ていねいな診察のしかたをしていたが、別に深い話もしなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
きゝ上州よりたれも來るはずなしさては吉三郎たづね來りしならん此方こなたとほせとて吉三郎に對面たいめんし其方は何用なにようりて來りしやと云に吉三郎は叮寧ていねい挨拶あいさつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「や、これはこれはご叮寧ていねいに……」老師は微笑をたたえながら衛兵達へ挨拶したが、隊長と覚しい一人の武士へ慣れ慣れしい口調で話しかけた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すでに序説のところでかなり叮寧ていねいに触れてきたところであるが、今や和歌文学は、この対立を融合させることによって
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
「さあ、どうかお入り下さい。」と叮寧ていねいに云うものですから、その通り一足中へはいりましたら、全くおどろいてしまいました。そこは玄関げんかんだったのです。
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
去る時に彼女は二階へ上って来て、わたしの椅子いすの下に手を突いて、叮寧ていねい暇乞いとまごいの挨拶をした。彼女は白粉おしろいを着けて、何だか派手な帯を締めていた。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この頃になっては猶更なおさら奥へ寄り付かなかった。逢うと、叮寧ていねいな言葉を使って応対しているにもかかわらず、腹の中では、父を侮辱ぶじょくしている様な気がしてならなかったからである。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのとき一人の男がおぢいさんの前へ来て、叮寧ていねいにお辞儀をして申しました、——
拾うた冠 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
それから船長は白いハンカチで唇のまわりを叮寧ていねいいた。ソロソロと立ち上って伊那少年を見下した。伊那少年も唇を真白にして、涙ぐんだを一パイに見開いて船長の顔を見上げたもんだ。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「まためていておくんなせえ」今度こんどすこ叮寧ていねいにいひてゝつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
教師としての二葉亭は極めて叮寧ていねい親切であって、諸生の頭に徹底するまで反覆教授して少しもまなかった。だが、それよりもなおヨリ多く諸生を心服さしたのは二葉亭の鼓吹した学風であった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
怪物は叮寧ていねいな言葉で、絶えず微笑ほほえみを浮べながら、事もなげに説明する。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
叮寧ていねいに頭を下げた放浪者は静かに上衣のボタンをかけて立上った。
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
臙脂屋は涙を収めて福々爺ふくふくやかえり、叮寧ていねいかしらを下げて
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
先方の男は叮寧ていねいな言葉でいった。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
車掌が手を出しているもんですから何でも構わない、やっちまえと思って渡しましたら、車掌はまっすぐに立ち直って叮寧ていねいにそれを開いて見ていました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
しばらくしてから、女は銚子を持ちあげて見て、「お酒はもう召しあがりませんか。」と叮寧ていねいな口を利く。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「大変残念なことです」と叮寧ていねいな言葉で、第三者のことをいうような言い方をするのである。
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
これはたくましい毬栗坊主いがぐりぼうずで、叡山えいざん悪僧あくそうと云うべき面構つらがまえである。人が叮寧ていねいに辞令を見せたら見向きもせず、やあ君が新任の人か、ちと遊びに来給きたまえアハハハと云った。何がアハハハだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
などと云って兄は一つ一つ叮寧ていねいに穴を覗いたり、透かして眺めたり致しました。
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
老人としよりも子供もあった。お庄は一々それらの人に、叮寧ていねいに挨拶をしてから、自分ら夫婦のに決められた奥の部屋へ導かれた。芳太郎はちょうど湯に行っているところであった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
南海の騎士を以て任ずるサモア人の間に在って、之は許すべからざる暴行である。此の首だけは、最上等の絹に包まれ、叮寧ていねいな陳謝状と共に、早速、マリエへ送り返されたそうだ。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ネネムはよろこんで叮寧ていねいにおじぎをして先生のところから一足退きますと先生が低く
それでも三度目に其処へとまりに来たら、それは其処で戦死した者の魂と見做みなされる。女は其の虫を叮寧ていねいに捕え、家に持帰ってまつるのである。こうした傷心の風景が随処に見られた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
婆さんを紹介されると、笹村は、「どうぞよろしく。」と叮寧ていねいに会釈をした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
婦人たちはみんなひどく激昂げっこうしていましたが何分相手が異教の論難者でしたので卑怯ひきょうに思われない為に誰も異議を述べませんでした。シカゴの技師ははんけちで叮寧ていねいに口をぬぐってから又云いました。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
台所から、料理が持ち込まれると、耳の遠い婆さんが、やがて一々叮寧ていねいに拭いたぜんの上に並べて、それから見事なえびはまぐりを盛った、竹の色の青々した引物のかごをも、ズラリと茶のへならべた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
落ちついて祭壇さいだんに立ってそれから叮寧ていねいにさっきのマットン博士に会釈えしゃくしました。博士はたしかに青くなってぶるぶるふるえていました。その信者は次に式場全体に挨拶あいさつしました。拍手はくしゅは強く起りました。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
その風に半分声をとられながら、ガドルフは叮寧ていねいいました。
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
助手は囲いの出口をあけごく叮寧ていねいに云ったのだ。
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)