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入相
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いりあい
ふりがな文庫
“
入相
(
いりあい
)” の例文
兼好は粟を洗ってしまって、さらに蕪を刻み始めると、どこやらの寺で
入相
(
いりあい
)
の鐘を撞き出した。うす寒い風が岡の麓から吹きあげて来た。
小坂部姫
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
それでははじめから、そうしてあげるのだったんですが、手はなし、こうやって
小児
(
こども
)
に世話が焼けますのに、
入相
(
いりあい
)
で
忙
(
せわ
)
しいもんですから。
海異記
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
聞かでただあらましものを今日の日も、初瀬の寺の
入相
(
いりあい
)
の鐘は、今し九十九間の
階廊
(
かいろう
)
を下りて、竜之助の身にも哀れを
囁
(
ささや
)
く。
大菩薩峠:03 壬生と島原の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
彫りかけて永き日の
入相
(
いりあい
)
の鐘にかなしむ程
凝
(
こ
)
り
固
(
かたま
)
っては、
白雨
(
ゆうだち
)
三条四条の
塵埃
(
ほこり
)
を洗って小石の
面
(
おもて
)
はまだ乾かぬに、空さりげなく澄める月の影宿す
清水
(
しみず
)
に
風流仏
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
いづれも
唯
(
ただ
)
美し
艶
(
なまめか
)
しといはんよりはあたかも
入相
(
いりあい
)
の鐘に
賤心
(
しずこころ
)
なく散る花を見る如き
一味
(
いちみ
)
の淡き哀愁を感ずべし。
江戸芸術論
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
▼ もっと見る
入相
(
いりあい
)
の鐘が聞える、おりふし夕霞が野山をこめている、その鐘は自分の寺で
撞
(
つ
)
く鐘であるが、どうもこの時の心持はそうは思えない、というのであります。
俳句とはどんなものか
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
喚
(
おめ
)
き叫ぶ声、射ちかう
鏑
(
かぶら
)
の音、山をうがち谷をひびかし、
征
(
ゆ
)
く馬の脚にまかせつつ……時は正月二十一日、
入相
(
いりあい
)
ばかりのことなるに、
薄氷
(
うすごおり
)
は張ったりけり——
丹下左膳:02 こけ猿の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
隠亡堀
(
おんぼうぼり
)
の流れの向うに陽が落ちて、
入相
(
いりあい
)
の鐘がわびしそうに響いて来た。
深編笠
(
ふかあみがさ
)
に顔をかくした伊右衛門は肩にしていた二三本の竿をおろして釣りにかかった。
南北の東海道四谷怪談
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
そういう罪人を載せて、
入相
(
いりあい
)
の鐘の鳴るころにこぎ出された高瀬舟は、黒ずんだ京都の町の家々を両岸に見つつ、東へ走って、
加茂川
(
かもがわ
)
を横ぎって下るのであった。
高瀬舟
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
後夜の鐘をつく時は、
是生滅法
(
ぜしょうめっぽう
)
と響くなり。
晨朝
(
じんじょう
)
は
生滅滅已
(
しょうめつめつい
)
、
入相
(
いりあい
)
は
寂滅為楽
(
じゃくめついらく
)
と響くなり。聞いて驚く人もなし。われも後生の雲はれて、
真如
(
しんにょ
)
の月を
眺
(
なが
)
めあかさん
般若心経講義
(新字新仮名)
/
高神覚昇
(著)
私のした小さな好意にさえもこんなに有頂天になって喜び切っているこの印度の人々の心根を思うと、なんとなくこの淋しい
入相
(
いりあい
)
の景色には一脈似たものがあるように観ぜられて
ナリン殿下への回想
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
その薄き光線を
曳
(
ひ
)
きつつ西方の峰を越えしより早や一時間余も過ぎぬ、遠寺に打ちたる
入相
(
いりあい
)
の鐘の
音
(
ね
)
も今は絶えて久しくなりぬ、
夕
(
ゆうべ
)
の雲は峰より峰をつらね、夜の影もトップリと
圃
(
はたけ
)
に
布
(
し
)
きぬ
空家
(新字新仮名)
/
宮崎湖処子
(著)
「そうか。では、こういたそう。これへ来て、初瀬詣でをせずに過ぎるも心ないわざ。わしは、
入相
(
いりあい
)
の鐘のなる頃、ふたたび、ここへ帰って来る。まちがいなく、お
夫婦
(
ふたり
)
もここにいてくれぬか」
私本太平記:03 みなかみ帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そして寺の
入相
(
いりあい
)
の鐘が鳴るまでは戻って行かなかった。音吉が出奔してから変った点は、日に焼けた額の皺が目立って深くなったことと、口元に何となく粗暴な影が漂ってきたこととだけだった。
土地
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
夕暮の
入相
(
いりあい
)
の音、
蜩
(
ひぐらし
)
のこえ、それからそれにつれて周囲の小寺から次ぎ次ぎに打ち鳴らされる小さな鐘などをぼんやり聞いていると、何んともかとも言いようのない気もちがされて来るのだった。
かげろうの日記
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
「早や、暮れかかる
入相
(
いりあい
)
の」
三人の相馬大作
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
ふだん聞き慣れている上野や浅草の
入相
(
いりあい
)
の鐘も、魔の通る合図であるかのように女子供をおびえさせた。その最中にまた一つの事件が起った。
半七捕物帳:06 半鐘の怪
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
……聞く人一しおいたわしく、その姿を見おくりけるに、
限
(
かぎり
)
ある命のうち、
入相
(
いりあい
)
の鐘つくころ、
品
(
しな
)
かわりたる道芝の
辺
(
ほとり
)
にして、その身は憂き煙となりぬ。
海神別荘
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
わが
家
(
いえ
)
山の手のはづれにあり。三月
春泥
(
しゅんでい
)
容易に乾かず。五月早くも蚊に襲はる。
市
(
いち
)
ヶ
谷
(
や
)
の
喇叭
(
らっぱ
)
は
入相
(
いりあい
)
の鐘の余韻を乱し往来の軍馬は門前の草を
食
(
は
)
み塀を蹴破る。
矢はずぐさ
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
「
紀三井寺
(
きみいでら
)
の
入相
(
いりあい
)
の鐘がゴーンと鳴る時分に、
和歌浦
(
わかのうら
)
の深みへ身を投げて死んでおしまいなすった」
大菩薩峠:05 龍神の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
たぶん江戸で
白河楽翁侯
(
しらかわらくおうこう
)
が
政柄
(
せいへい
)
を執っていた寛政のころででもあっただろう。
智恩院
(
ちおんいん
)
の桜が
入相
(
いりあい
)
の鐘に散る春の夕べに、これまで類のない、珍しい罪人が高瀬舟に載せられた。
高瀬舟
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
折節
入相
(
いりあい
)
の鐘が花の
梢
(
こずえ
)
に響き渡った、というのである。
俳句はかく解しかく味う
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
耳にきき心におもい身に修せばいつか
菩提
(
さとり
)
に
入相
(
いりあい
)
の鐘
般若心経講義
(新字新仮名)
/
高神覚昇
(著)
「さあ、
入相
(
いりあい
)
がボーンと来る。これからがあなたがたの世界でしょう。年寄りはここでお別れ申します。」
綺堂むかし語り
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
どういう
訳
(
わけ
)
か人の道を忘れた
放蕩惰弱
(
ほうとうだじゃく
)
なものの
厭
(
いとわ
)
しい身の末が
入相
(
いりあい
)
の鐘に散る花かとばかり美しく思われて、われとても
何時
(
いつ
)
か一度は無常の風にさそわれるものならば
散柳窓夕栄
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
雪の頂から星が一つ下がったように、
入相
(
いりあい
)
の座敷に電燈の
点
(
つ
)
いた時、女中が風呂を知らせに来た。
眉かくしの霊
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
相応院の
入相
(
いりあい
)
の鐘がしきりに、土手を伝い、川面を伝って、この
捨小舟
(
すておぶね
)
を動かしに来るのだが、がんりきの耳には入らないと見えて、暫くすると、またいい寝息で寝込んでしまいました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
入相
(
いりあい
)
の浪も
物凄
(
ものすご
)
くなりかけた折からなり、あの、
赤鬼
(
あかおに
)
青鬼
(
あおおに
)
なるものが、かよわい人を
冥土
(
めいど
)
へ
引立
(
ひきた
)
てて
行
(
ゆ
)
くようで、思いなしか、
引挟
(
ひきはさ
)
まれた
御新姐
(
ごしんぞ
)
は、何んとなく
物寂
(
ものさび
)
しい、
快
(
こころよ
)
からぬ
春昼
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
お花さんにまず幾らか握らせて、向島あたりへ姐さんをおびき出して、ちょうど
浅草寺
(
せんそうじ
)
の
入相
(
いりあい
)
がぼうん、向う河岸で
紙砧
(
かみぎぬた
)
の音、裏田圃で秋の
蛙
(
かわず
)
、この
合方
(
あいかた
)
よろしくあって幕という寸法だろう。
両国の秋
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
その時、京の五条とか三条あたりとかの暮方の、草の垣根に、雪白な花の、あわれに咲いたお話をききましたら、そのいやな
入相
(
いりあい
)
が、ほんのりと、夕顔ほどに明るく、白くなりましてございましてね。
薄紅梅
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
入
常用漢字
小1
部首:⼊
2画
相
常用漢字
小3
部首:⽬
9画
“入相”で始まる語句
入相頃