先刻さきほど)” の例文
「ええ先刻さきほども申しました通り、私事は西川正休、いささか天文の学を学び、幕府に仕えまして天文方、お見知り置かれくださいますよう」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
てゝ親は先刻さきほどより腕ぐみして目を閉ぢて有けるが、あゝ御袋、無茶の事を言ふてはならぬ、我しさへ初めて聞いて何うした物かと思案にくれる
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
先刻さきほどまで箒を持つてうろついてゐた、年老つた小使も何処かに行つて了つて、隅の方には隣家となりの鶏が三羽、柵を潜つて来てチヨコ/\遊び廻つてゐる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
何を隠しましょう。私は今晩凍死をして自殺する決心なのでございます。私は先刻さきほど、大桶に一杯のアイス・クリームを部屋に取り寄せておきました。
先刻さきほどは失礼。あのねえ、とにかく挨拶にだけ、行つてくるからね、すまないけど、君からヨッちやんに宜しく言つといてくれないか。義理が悪いんだよ。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「御主人、先刻さきほどから御容子を伺うに、どうやら世の常の木樵衆とも見受けられぬ、以前は一花ひとはな咲かした侍衆が、よくよくの仔細あっての山住いと睨んだが、いかがじゃ」
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
奉公にいだ取換とりかへの二分にてしち入置いれおきし夜具をうけ先刻さきほど此家へ參りし處八十兩の金を掛硯かけすゞりの引出しへ入置處いれおくところを見たるに付何卒なにとぞこれぬすみ御主人の不自由をすくひ勘當のわびの種にもなし又妻を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
斯う云う処にいらっしゃろうとはちっとも知りませんで、昨夜ゆうべも今日も先刻さきほどまでも貴方のお噂が漸々よう/\重なって、ポンと衝突ぶッつかって此処でお目にかゝるなんてえのは誠に不思議でげすが
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
先刻さきほどから少し離れた客席で、その日の新聞紙に読み耽つてゐたらしい公爵は、ちらと婦人記者の顔を見るなり、不思議さうに二人の会話に聞耳を立ててゐたらしかつたが、暫くすると
学部長様が先刻さきほどからお電話で御座いまして、正木先生がまだおいでになるかとお尋ねで御座いましたから、私はビックリ致しまして、如何か存じませぬがチョット見て参りましょうと申しまして
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
小万は驚きながらふッと気がつき、先刻さきほど吉里が置いて行ッた手紙の紙包みを、まだしまわず床の間に上げておいたのを、包みを開け捻紙こよりを解いて見ると、手紙と手紙との間から紙に包んだ写真が出た。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
「あの奥さまが、先刻さきほどお着きになりました。」といった。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
父親てておや先刻さきほどより腕ぐみして目を閉ぢて有けるが、ああ御袋、無茶の事を言ふてはならぬ、しさへ始めて聞いてどうした物かと思案にくれる
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「左門様が、あなた様のお父様の敵などとは夢にも知らず、先刻さきほどから、紙帳の中で、物語りいたしましたは真実ではござりまするが、何んの貞操みさおを!」
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
隣室からは、床に就いて三月にもなる老女としよりの、幽かな呻声が聞える。主婦あるじのお利代は、たらひを門口に持出して、先刻さきほどからバチヤ/\と洗濯の音をさしてゐる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
……早速ですが貴方は先刻さきほど、食事係の看護婦に、御自分のお名前をお尋ねになりましたそうで……その旨を宿直の医員から私に報告して参りましたから、すぐにお伺い致しました次第で御座いますが
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
平田は先刻さきほどから一言ひとことも言わないでいる。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
その時差上げたのが先刻さきほどの手紙。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
父親てゝおや先刻さきほどよりうでぐみしてぢてありけるが、あゝ御袋おふくろ無茶むちやことふてはならぬ、しさへはじめていてうしたものかと思案しあんにくれる
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ところで、先刻さきほど、一人の女子が、拙者の巣へ——寝所へ、迷い込んでござる。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
物音ものおときゝつけて璧隣かべどなり小學教員せうがくけふいんつま、いそがはしくおもてよりまわて、おかへりになりましたか、御新造ごしんぞ先刻さきほど、三ぎでも御座ござりましたろか、お實家さとからのおむかひとて奇麗きれいくるまえましたに
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あま先刻さきほどみなさまのおあそばすが五月蠅うるささに、一人ひとりにはへとげまして、お稻荷いなりさまのおやしろところひをましてりましたに、わたしへんへんな、をかしいことおもひよりまして、わらつてくださりますな
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)