仮髪かつら)” の例文
旧字:假髮
狸の面、と、狐の面は、差配の禿はげと、青月代あおさかやき仮髪かつらのまま、饂飩屋の半白頭ごましおあたまは、どっち付かず、いたちのような面を着て、これが鉦で。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此処の実業界の重鎮じゅうちんには仮髪かつらかぶっている禿頭はげあたまがある。用意周到な男で、刈り立てのと十日伸びのと二十日伸びのを持っている。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この仮髪かつらは髪の毛で作られたものであろうが、しかしそれよりもまるで絹糸か硝子質の物の繊維で紡いだもののように見えた。
思い出させます。あなたがここへ入って来られた時には、私は自分の仮髪かつらを賭けて言うが、それ以上のことを心に思っておられたのでしょう。
この仮髪かつらで押し通して、誰にも怪しまれることがなく、それに夜分、宿へ帰って寝る時だけが、少々黒ずんだ顱頂部を現わすだけのことです。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
がこのうちの陰険な先祖の仮髪かつらをかぶった蒼白いフフンというような顔が一つ二つ古色蒼然たる画布の中から見下みおろしていた。
そして剃刀かみそり仮髪かつらとさえあれば人間の顔貌がんぼうは変えられると云うことを考え合せると、私はその二人が同じ人間であると疑わざるを得なかったのです。
それから、薔薇ばらの花で飾った帽子を取って、髪粉を塗った仮髪かつらをきちんと刈ってある白髪しらがからはずすと、髪針ヘヤピンが彼女の周囲の床にばらばらと散った。
「ええ、最近に仮髪かつら師を一人拾いましてな。ちょっとした端役もやりますんで、それに、浅尾為十郎という、どえれえ名をくっつけましたんですが……」
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それで、彼の記述によると、「おなかが丸見えになる」さて、着付けは、あとは赤い仮髪かつらで完璧なものとなる。
上になり下になり揉み合っているうちに万平の仮髪かつらも手拭も皆飛んでしまった。万平は破鐘声われがねごえの悲鳴を揚げた。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
糸鬢奴いとびんやっこ仮髪かつらを見せ、緋縮緬ひぢりめんに白鷺の飛ちがひし襦袢じゅばん肌脱はだぬぎになりすそを両手にてまくり、緋縮緬のさがりを見せての見えは、眼目の場ほどありて、よい心持なり。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
あらゆる参考図書はもとより、ペン、インキ用箋の文房具、化粧箱、各種の衣服を始めとして、仮髪かつら附鬘つけかつらの類から、種々いろいろの装身具小道具まで巧みに隠してあった
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
老人は木の間から洩れて来る日光に浴しながら、仮髪かつらの縫ひとりをしてゐるらしく見えました。
首相の思出 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
あんなに僧侶そうりょらしくひらひらした衣服を着て、あんなに念入りに髪粉をつけた、あんなにいかめしい、あんなに大きな仮髪かつらをつけたこの尊い人が、——この人が、ついさっきまで
ガレージの屋根の衣裳ばこにマダム・ギランの仮髪かつらとリンネルの下着が入っていた。
青髯二百八十三人の妻 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
褐色の着物に仮髪かつらをつけて、菓子屋の店をうろつきあるいて、自分たちの食いものを素早く掻きあつめ、栗をもって悪魔の弟子の犬めを飼っている、あの意地悪な魔法使いにとらわれて
店内で仮髪かつらを売っているのを見たから、これは人工的の毛髪を売る店を標示していることが判る。図267は印判師の看板で、これは必ず地面に立っている。殆ど誰でもが印を使用する。
杏色がかったフランス独特のピンクの絹服の裾に、幾重もかさねられた純白のレースのペティ・コートが泡立つようにのぞかれて、同じ杏色の日よけ帽から、白い仮髪かつらの捲毛がこぼれている。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
習慣的に抑制されて穏かになっている顔は、うるおいのあるきらきらした一双の眼のために、例の一風変った仮髪かつらの下で始終明るくされていた。
……ばかりじゃ無い、……かりがねつばめきかえり、軒なり、空なり、行交ゆきかう目を、ちょっとは紛らす事もあろうと、昼間は白髪の仮髪かつらかむる。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
乃公は仮髪かつらを脱いだ。皆は交代番かわりばんこに被って嬉しがっている。中には一寸被って、エヘンと咳払をした奴もあった。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「実のことは知らないが、しかしここに熱病があることは私はこの仮髪かつらを賭けるよ。」と先生は言った。
髪毛かみのけも同様に、仮髪かつらかと思われるくらい豊かに青々としているのを、めじりが釣り上がるほど引き詰めて、長い襟足の附け根のところに大きく無造作に渦巻かせていた。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
仮髪かつら逆熊さかぐまにて、まげは右へ曲ぐ。豆絞まめしぼりの手拭を後より巻き、前に交叉いれちがはせ、その端を髷の後へ返して、突つ込む。この手拭のかぶりかたは、権太に限りたるものなりと。
けれども、その扇形をした穹窿きゅうりゅうの下には、依然中世的好尚が失われていなかった。楽人はことごとく仮髪かつらを附け、それに眼がさめるような、朱色の衣裳を着ているのである。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
侍女に囲まれて、部屋着のまま、まだ白粉も塗らず、仮髪かつらもかぶらず、彼女のごま塩の髪は、ばさりと顔に垂れていた。そして、二つの目が、額ごしに、ぎょろりと光った。
仮髪かつらの耳のところをひっぱったり、自分の言ったことを注意させたりしながら、立って、腰掛けて自分を見上げている彼女の顔を見下した。
晃 これか、谷底にめばといって、大蛇うわばみに呑まれた次第わけではない、こいつは仮髪かつらだ。(脱いで棄てる。)
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
髪粉をつけた仮髪かつらを脱いで腰掛けていて、その短く刈込んだ黒い頭はまったくすこぶる珍妙に見えた。
此時このとき善ちゃんは最早もうめろ、仮髪かつらを返して来いと言った。で、乃公も講壇から下りようとすると
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それから、しばらくみつめていると、やがては赤の補色——青色に変ってしまうからだ。つまり、逢痴を思わせたその技巧が、お岩の、半面仮髪かつらの中に、秘められてあったのだよ
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
何故ってあの禿頭はげあたまは変装なのよ。仮髪かつらなのよ。オホホホホホ。可笑しいでしょう。妾はチャンと知っているけど知らん顔をしているの。でも時々可笑しくて仕様がなくなるのよ。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
仮髪かつらは前幕の通にて、着附は茶の細い弁慶縞べんけいじま(木綿と見するも、実は姿を好くするため、結城紬ゆうきつむぎを用ゐる)に、浅黄あさぎのもうか木綿の裏ついたるあわせと白紺の弁慶の縞の太さ一寸八分なる単衣ひとえとを重ね
死骸になっての、空蝉うつせみの藻脱けたはだは、人間の手を離れて牛頭ごず馬頭めずの腕に上下からつかまれる。や、そこを見せたい。その仮髪かつらぢゃ、お稲の髪には念を入れた。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「初めて僕のところへ君を招待した時、僕の家内は丸髷の仮髪かつらかぶっていた。君はあの一事を女性の信じ難い実地例証として、団さんの奥さんに話したというじゃないか?」
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
実に、その消え行く瞬間の光は、斜めにかしいで仮髪かつらの隙から現われた、白い布の上に落ちたのである。それはまぎれもなく、武具室の惨劇を未だに止めている額の繃帯ではないか。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そうしてその長いびんの生え際を引き剥がすとそのまま、丸卓子テーブルの上にうつむいて両手をかけて仮髪かつらを脱いだが、その下の護謨ごむ製の肉色をした鬘下かつらしたも手早く一緒に引き剥いで、机の上に置いた。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……と背の低いのが、滅入込めりこみそうに、おおき仮髪かつらうなじすくめ、ひッつりそうなこぶしを二つ、耳の処へおどすがごとく、張肱はりひじに、しっかと握って、腰をくなくなと、抜足差足。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
法水は、検屍官の言を聴くともなく、傍らにあった、お岩の半面仮髪かつらいじっていた。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「……ウン……一寸ちょっと待ってくれ給え……アッ……これだこれだ……最前まで着ていたのは……ホラ。の帯も……ヴェールも……アッ……束髪の仮髪かつらだこれは……畜生……どこかで変装しやがったナ」
童貞 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「なあにあれ仮髪かつらかぶってるんだ。何をしている?」
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
下髪さげおの短いタレイラン式の仮髪かつらに、シュヴェツィンゲン風を模した宮廷楽師カペルマイスターの衣裳。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
学円 (伸上り納戸越に透かして見て)おい、水があるか、あしの葉の前に、くしにも月の光がして、仮髪かつらをはずした髪のつや、雪国と聞くせいか、まだ消残って白いように、襟脚、脊筋も透通る。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仮髪かつらですよ、あれは」
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)