みだれ)” の例文
旧字:
一二二けんぞくのなすところ、人のさいはひを見てはうつしてわざはひとし、世のをさまるを見てはみだれおこさしむ。
お母様はお台所でおぐしを上げておいでになったようですが、私が「葵の上」を弾いて、「青柳あおやぎ」を弾いて、それから久しく弾かなかった「みだれ」を弾きますと指が疲れましたので
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
陳国のみだれもとになった夏姫は、はじめから楚の将士の好奇の眼の的になった。毒々しい妖婦的な容貌を想像していたのに、案外平凡な物静かな女を見出して、失望した者もいる。
妖氛録 (新字新仮名) / 中島敦(著)
広縁の前に大きな植木棚があって、その上に、丸葉の、筒葉の、熨斗のし葉の、みだれ葉の、とりどりさまざまな万年青おもとの鉢がかれこれ二三十、ところもにずらりと置きならべられてある。
顎十郎捕物帳:02 稲荷の使 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
みだれある、魔に囲まれた今日の、日の城の黒雲を穿うがった抜穴の岩に、足がかりを刻んだ様な、久能の石段の下へ着くと、茶店は皆ひしひしと真夜中のごとく戸をとざして、蜻蛉とんぼうも飛ばず。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
重三郎は拵えなどは見は致しません、すぐに引抜いて見ましたなれども、粟田口國綱の刀は見るたびみだれが違うものだから、心を静めて熟々つく/″\見ますると、疑いもない國綱なれば、刀を鞘に収め
人のきたるか又はあやしきを見れば、かのばんとりたゝきをなす、のとりこれをきゝ、いかに求食あさるともねぶるとも此羽たゝきをきゝあやまらず、幾羽いくはみだれとびあがり、さてれつをなしてる。
そのあるものは急流で関山街道のみだれ川のごときは乾川からかわである。壱岐香椎村大字新城に阿久津山という地がある。『続風土記』にいわく、この地多く水洗い往来不自由なり。ゆえにこの名ありと。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼は先にひし事の胸にられたらんやうに忘るるあたはざるさへあるに、なかなか朽ちも果てざりし恋の更に萠出もえいでて、募りに募らんとする心のみだれは、ふるにかた痛苦くるしみもたらして、一歩は一歩より
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
あの恐ろしい心のみだれの中で
新院から々と笑はせ給ひ、なんぢしらず、近ごろの世のみだれがなすわざなり。生きてありし日より魔道にこころざしをかたぶけて、四四平治へいぢみだれおこさしめ、死してなほ四五朝家てうかたたりをなす。
このうちとどまりて憂目うきめを見るは、三人みたり婦女おんな厄介やっかい盲人めしいとのみ。婦女等おんなたちは船の動くととも船暈せんうんおこして、かつき、かつうめき、正体無く領伏ひれふしたる髪のみだれ汚穢けがれものまみらして、半死半生の間に苦悶せり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
祖父おほぢ播磨はりま一四赤松に仕へしが、んぬる一五嘉吉かきつ元年のみだれに、一六かのたちを去りてここに来り、庄太夫にいたるまで三代みよて、一七たがやし、秋をさめて、家ゆたかにくらしけり。