黄泉よみ)” の例文
しかしあなたさまがわざわざおいで下さつたのですから、なんとかして還りたいと思います。黄泉よみの國の神樣に相談をして參りましよう。
静かに線路に下り立った彼は、身をかがめてレールに耳を当てた。遠い黄泉よみの国からかでもあるように、不思議な濁音が響いて来る。
自殺を買う話 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
小野おの小町こまち几帳きちょうの陰に草紙そうしを読んでいる。そこへ突然黄泉よみ使つかいが現れる。黄泉の使は色の黒い若者。しかも耳はうさぎの耳である。
二人小町 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
神は、どうかしてもう一度、女神に会いたくおぼしめして、とうとうそのあとを追って、まっくらな黄泉よみの国までお出かけになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
春浪さんも唖々さんも共にひとしく黄泉よみの客となった。二十年の歳月は短きものではない。世の中も変れば従って人情も変った。
申訳 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
黄泉よみの岩根の獣人酋長、荒玉梟帥あらたまたけるの乞いにまかせ、おいたわしいが美麻奈姫を、めあわせようという平和説と、それに反対する説とであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「子ら」の「ら」は親愛の語で複数を示すのではない。「罷道まかりぢ」は此世を去って死んで黄泉よみの国へ行く道の意である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
現世と黄泉よみの國との境であると想像したといふ出雲の伊賦夜坂いぶよさか比良坂ひらさか)のあたりを歩いて見たらばと思つて來た。
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
崩してはまた盛り上げた砂浜ではあるが、大昔の黄泉よみへの通路はやはりこの中央部を縦貫していたのかと思う。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
国つ罪の起原・ミソぎの事始めを説明した呪言——いざなぎの命の黄泉よみ訪問から「檍原アハギハラの禊ぎ」までをこめた——も、単なる説明詞章に過ぎなくなつて了うた。
に見渡す限り磊々らいらい塁々たる石塊の山野のみで、聞ゆるものは鳥の鳴くすらなく満目ただ荒涼、宛然さながら話しに聞いている黄泉よみの国を目のあたり見る心地である。
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
足もとの闇から黄泉よみの府にまで続いているのではないかと思われる。群山すべて低く白い曳迷えいめいは雲である。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕はホテル以來麻素子さんを黄泉よみの女王と言つてゐた。芥川と僕との間では平松さんとか麻素子さんとか言ふよりは、黄泉の女王といつたはうが言ひやすかつた。
しかし、これらの黄泉よみよりの客人らは、一向人々の挨拶に応ずることもなく、ただ黙々として炉辺に坐っていたが、やがて火が消えると忽然として立ち去ってしまった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
アンリエットの薔薇の匂いが夜の匂いのようにゆらめくのを感じながら、これが二百年後の日本にも匂う匂いであろうかと、心は黄泉よみに漂うごとくうつらとするのだった。
旅愁 (新字新仮名) / 横光利一(著)
この老婦人だけがあたかも黄泉よみの国からの孤客のように見えるのであった。
軽井沢 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
確実に黄泉よみの国へ行っていたはずの最後の愛人、十九歳のセグレェなどは、ランドリュにとって不利な証言はすべて拒否し、証人台の上からランドリュにたいする深い思慕の情を述べている。
青髯二百八十三人の妻 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ふる鏡霜に裂けたるこだまなし夜烏よがらすむせび黄泉よみにや帰る
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
ただ生涯しやうがいの船がかり、いづれは黄泉よみ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
黄泉よみの底まで、泣きながら
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
黄泉よみ坂路さかぢのさかしきに
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
天津みそらも黄泉よみ荊棘いばら
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
黄泉よみ醜女しこめ嫉妬ねたみあり
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
黄泉よみの洞なる戀人に
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
黄泉よみくにでは
そして、ようよう、この世界と黄泉よみの国とのさかいになっている、黄泉比良坂よもつひらざかという坂の下まで遁げのびていらっしゃいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
大勢おおぜい神将しんしょう、あるいはほこり、あるいはけんひっさげ、小野おの小町こまちの屋根をまもっている。そこへ黄泉よみの使、蹌踉そうろうと空へ現れる。
二人小町 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
イザナギの命は黄泉よみの國からお還りになつて、「わたしは隨分いやきたない國に行つたことだつた。わたしはみそぎをしようと思う」
黄泉よみ岩根いわね」と呼ばれる谷には、半分獣半分人間の「獣人」どもが住んでいて、あらゆる邪悪の振る舞いをし、禍日まがつびの製造にいそしんでいた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
兎もあれ、旅の私達が出て行つたところは、暗い黄泉よみの國どころか、むしろその反對に、ちよつと他に見られないほどやはらかく明るい感じのする地方であつた。
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
見えない彼方の黄泉よみから吹き流れて来る霧の、茫茫たる渦巻かとも思われたりした。
旅愁 (新字新仮名) / 横光利一(著)
現在はいずれも地底のことに解せられているが、それは根国を黄泉よみに同じというのと、似通にかようた解釈の傾向であった。つまりは海上の交通は遅かれ早かれ、一旦は断絶せずにはいなかったのである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
黄泉よみはまのあたりぬかす。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
天女も黄泉よみに堕ちぬべき
都喜姫 (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
気の毒なのはお姫様、無慈悲なお前さんの犠牲になり、黄泉よみの岩根へ行ったからは、そこで生涯暮らさなければならない。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それを拔いてたべている間にお逃げになりました。のちにはあの女神の身體中からだじゆうに生じた雷の神たちに澤山の黄泉よみの國の魔軍を副えてわしめました。
年とったわたしの父や母もきっと一しょに死んでしまいます。(一層泣き声を立てながら)わたしは黄泉よみの使でも、もう少し優しいと思っていました。
二人小町 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし、せっかくおいでくださいましたのですから、ともかくいちおう黄泉よみの神たちに相談をしてみましょう。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
ほまれよはやく黄泉よみの人
都喜姫 (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
それは人界このよの「美」ではなく黄泉よみの国の幽霊か、仮面を冠った人かのようで、精気もなければ血の気もない。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この桃の枝は雲の上にひろがり、この桃の根は大地だいちの底の黄泉よみの国にさえ及んでいた。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かれその伊耶那美の命になづけて黄泉津よもつ大神といふ。またその追ひきしをもちて、道敷ちしきの大神二一ともいへり。またその黄泉よみの坂にさはれる石は、道反ちかへしの大神ともいひ、へます黄泉戸よみどの大神ともいふ。
「十一人! みことは部落の旧習に全然無頓着で御出でなさる。第一のきさきが御なくなりなすつたのに、十一人しか黄泉よみの御供を御させ申さないと云ふ法があらうか? たつた皆で十一人!」
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ここのみは黄泉よみなる姿
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
黄泉よみの國〕