飜訳ほんやく)” の例文
新字:翻訳
改造だの青磁社だのまだ出来上らないサルトルの飜訳ほんやくのゲラずりだの原稿だの飛び上るような部厚な奴を届けてなんじあくまで読めという。
余はベンメイす (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
又根気のあらん限り著書飜訳ほんやくの事をつとめて、万が一にもこのたみを文明に導くの僥倖ぎょうこうもあらんかと、便り少なくも独り身構えした事である。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
飜訳ほんやくについて何か書けということだが、僕の飜訳は専門ではなくて物好きの方らしいから、別にとり立てて主義主張のあるわけでもない。
翻訳の生理・心理 (新字新仮名) / 神西清(著)
子供のうちから新舞踊ぶようを習わせられ、レヴュウ・ガールとも近附ちかづきのある小初は、こびというねたねたしたものを近代的な軽快な魅力に飜訳ほんやく
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
まあ、どうにかですね。参考にする飜訳ほんやくもいろいろありますから。——何でもチョオサアやシェクスピイアも、あれから材料を
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一番上の行が原文の南無阿弥陀仏を点字と同じ配列にしたもの、真中の行がそれに符合する点字、そして一番下の行が、それを飜訳ほんやくしたものだ
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ここは会社と言っても、営業部、銀行部、それぞれあって、官省やくしょのような大組織。外国文書の飜訳ほんやく、それが彼の担当する日々にちにち勤務つとめであった。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
どのようにしてどう飜訳ほんやくしてよいのか、「まことに艫舵ろだなき船の大海に乗出せしが如く、茫洋ぼうようとして寄るべなく、ただあきれにあきれて居たるまでなり」
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
飜訳ほんやくの仕事を周旋してもらう為め、某氏に紹介の労を執ろうと言ったことをも思い出した。そして自分ながら自分の意気地なく好人物なのをののしった。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そんな話があってから間もなく、幸子はいつぞやのヘニング夫人に飜訳ほんやくを頼むつもりで、シュトルツ夫人にてて一年半ぶりに長文の書信を書いた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と、この紳士は、少し飜訳ほんやく口調のきらいあるとはいえ、先ずそんなに間違いのない日本語で梶にびてから、ヨハンというハンガリヤ名の名刺を出した。
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
Codeコオド Napoléonナポレオン の典型的な飜訳ほんやくは、先生が亡くなられても、価値を減ぜずにいて、今も坂井家では、これによって少からぬ収入を得ているのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
東京で演じる飜訳ほんやく劇と云ふ物も西洋人が観たら定めて可笑をかしな物であらうから、日本の習慣に通じない仏蘭西フランス人の演じる物として是丈これだけに調つて居ればめて置かずば成るまい。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
私はここのところずっと劇場のために、外国劇の飜訳ほんやくの仕事を引受けてきています。
聖アンデルセン (新字新仮名) / 小山清(著)
「詩人? そうサ、僕はその頃は詩人サ、『山々かす入合いりあいの』ていうグレーのチャルチャードの飜訳ほんやくを愛読して自分で作ってみたものだアね、今日こんにちの新体詩人から見ると僕は先輩だアね」
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
支那でも時鳥を蜀帝しょくていの魂という伝えがあるために、日本の「しでの田おさ」はその飜訳ほんやくであろうという人もあったが、なんぼ飜訳ずきの日本でも、こんなことをまで訳して見たところが
然し、それは取立に骨が折れるので御座いましてね、ああしてとんと遊んでおいでも同様で、飜訳ほんやくか何かすこしばかり為さる御様子なのですから、今のところではどうにも手の着けやうが無いので御座いますわ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼は親友のその合図を彼自身の言葉に飜訳ほんやくしてみた。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
謹慎を命ぜらるサアれから江戸にかえった所が、前にもう通り私は幕府の外務省に出て飜訳ほんやくをして居たのであるが、外国奉行からとがめられた。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
僕らが「言葉」という飜訳ほんやく雑誌、それから「青い馬」という同人雑誌をだすことになって、その編輯へんしゅうに用いた部屋は芥川龍之介あくたがわりゅうのすけの書斎であった。
青い絨毯 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
これを判りやす飜訳ほんやくして老師は宗右衛門に会得えとくさせた。その具体的な手段として宗右衛門の居室は寺の花畑から不具の娘達の直ぐ傍に移された。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
「その手にくぎの痕を見、わが指を釘の痕にさし入れ」て見なければ基督キリストの復活は信じないと言い張った、不信者トマスの言葉に飜訳ほんやくすることが出来るであろう。
チェーホフの短篇に就いて (新字新仮名) / 神西清(著)
悦子が早く内容を知りたがるので封を切ったら、シュトルツ夫人のは独逸ドイツ語で書いてあった。って小生大阪へ持って行き、知人に飜訳ほんやくして貰ったもの別紙の通り
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
まことに天馬空をけるという思い切ったあばれ方で、ことにも外国の詩の飜訳ほんやくみたいに、やたらにぎょうをかえて書く詩が大流行いたしまして、私の働いている印刷所にも
男女同権 (新字新仮名) / 太宰治(著)
アンデルセンの飜訳ほんやくだけを見て、こんなつまらない作を、よくも暇潰ひまつぶしに訳したものだと思ったきり、この人に対して何の興味をも持っていないから、会話に耳を傾けないで
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
私にはどうやらそれ等を既に知っていた人の、飜訳ほんやくかの如き感じがする。
れから前にもう通り、江戸に来て徳川の政府に雇われたからといった所が、れはわば筆執る飜訳ほんやくの職人で、政治にあずかろうけもない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
とすれば、それは伊曾の飜訳ほんやくで近ごろ出版された或るイギリスの新しい作家の小説にちがひなかつた。村瀬がこの鼠色の部厚な本をよく抱へてゐるのには明子も気がついてゐた。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
パヂェスの武骨極まる飜訳ほんやくでもうんざりするどころか面白くてたまらないのである。
篠笹の陰の顔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
それも役所から帰って、晩の十時か十一時まで飜訳ほんやくなんぞをせられて、その跡で飲まれる。奥さんは女丈夫である。今から思えば、当時の大官であの位閨門けいもんのおさまっていた家は少かろう。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「そうです、あの児は賢い児です、しかしその割りに余り英語がよく出来ないと思います。読むことだけは読みますけれど、日本語に飜訳ほんやくすることや、文法を解釈することなどが、………」
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
このたび、坪内博士訳の「ハムレット」を通読して、沙翁の「ハムレット」のような芝居は、やはり博士のように大時代な、歌舞伎かぶき調で飜訳ほんやくせざるを得ないのではないかという気もしているのである。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
あらかじめお断わりしておくが、チェーホフの文章の飜訳ほんやくは版権の関係から今日のわが国では許されていない。従って以下すべてチェーホフ及びその同時代人からの引用文は、大意を
しかし、飜訳ほんやくだって文章が下手へたでは、仕様がありませんからね。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
飜訳ほんやく文芸が繁昌だそうである。一応は結構なことだ。あの五十年という制限の網の目がだいぶ緩められて、生きのいい魚がこっちの海へも泳いできて、わが文化の食膳にのぼせられる。
翻訳のむずかしさ (新字新仮名) / 神西清(著)