障碍しょうがい)” の例文
のがれることも出来ない網にかかったと申されましたが、私はどのような障碍しょうがいにあいましょうと、一人で降りて行きとうございます。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
あいつはギシュ(社会主義者)だと眼をつけられたことも障碍しょうがいになった。そこで丸万はテキヤの親分にひとりでワタリをつけに行った。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
しかしそのためには、我々の眼が水平の平行線の障碍しょうがいを苦にしないで、垂直の平行線の二元性をひとむきに追うことが必要である。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
日頃因循していただけ、障碍しょうがいが起ったなら、極力これを排斥して思うところを決行しようという元気さえ出て来たような心持になった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして次の障碍しょうがい競走レースでは、人気馬が三頭も同じ障碍で重なるように落馬し、騎手がその場で絶命するというさわぎのすきをねらって
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
したがって仮に稲村をニホ等々という言葉が、穀霊の生誕とは何の交渉もない語原をもつと決しても、我々の研究には格別の障碍しょうがいはない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
備中に入らずして、毛利を破砕することは当然できないことだから、そこに何らか、大きな障碍しょうがいを感じているものと思われる。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その頃の登山は言う迄もなく夏季に限られていた。何せ交通不便という一大障碍しょうがいがあったので、目的とする山の麓迄辿り付くのが一仕事であった。
初めて秩父に入った頃 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
こんなになってくると、もう先のことなど考えておらず、時間の経つのも気にならない。ただ目前の障碍しょうがいに夢中になって取り組むばかりである。
この嬉しさだけでも、今度こそどんな困難が、障碍しょうがいが、行く手へ大手をひろげて現れようとへこたれないで進んでいこう。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
その自覚の発展に対して決して障碍しょうがいにならないばかりでなく、唯一の指南車でありうると誰がいいきることができるか。
片信 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
おお、世の中にありとあらゆる障碍しょうがいよ、災危よ、危険よ、病弊よ、欠陥よ。また人の心に巣喰うありとあらゆる嫉妬しっとよ、害心よ、欺きよ、野望よ。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
さて、彼に別れて家に帰り、父母の顔を見てから、私は迂闊うかつにも、始めて、の冒険の最初に横たわる非常な障碍しょうがいを発見しなければならなかった。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
然しそれが結婚に伴ふ種々な障碍しょうがいを超えるのに、一番造作のない、有利な手段として利用される為めにのみ保存されて来た事は云ふ迄もありません。
嫁泥棒譚 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
国家の運命が危険に迫れる時に於て、挙国満心の結束を必要とする時に於て、かかる疑惑ほど障碍しょうがいとなるものはない。
二・二六事件に就て (新字新仮名) / 河合栄治郎(著)
初代さんはあらゆる障碍しょうがいを見むきもせず、あくまで君を思いつづけていた。君の恋は充分すぎる程報われていたのです
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
除かなければならぬ障碍しょうがいがたくさんにある、それを除かずして調停だけしようとしてもできるわけのものではないのだ……その間の事情を知っておるか
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
つまり、明敏な犯人はそう云う危険な条件を悟って、昨夜は障碍しょうがいを一つ除いたのみに止めておき、さらに次の機会を狙うことにしたのだろうと思うね。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それを感じさせない障碍しょうがいは、哲理自体にあるのではなく、それを解説していらっしゃる先生方の人柄——むしろ
勉強記 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
妹は腰元の藤江に化けていた。この大胆な計画が予想以上に成功して、迷信の強い江戸の人々を見事に瞞着しているうちに、ここに一つの障碍しょうがいが起った。
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おれも名刺を献上した。見物一同大満足の体で、おれの顔を見てにこにこしている。両方の電車が動き出す。これで交通の障碍しょうがいがやっと除かれたのである。
(新字新仮名) / オシップ・ディモフ(著)
殊に失明後の労作に到っては尋常芸術的精苦以外にいかなる障碍しょうがいにも打ち勝ってますます精進した作者の芸術的意気のさかんなる、真に尊敬するに余りがある。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
その人類のあいだに、かつては自然が乗りこすことのできない障碍しょうがいを投げかけていたかと思われたのだが。
船旅 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
障碍しょうがい物の現われぬさきから、それの何であるかを察しました。果して推測どおり、その線を塞いでいたのは破損した列車でした。その真黒な影と後燈が見えていました。
彼等は尊徳の教育に寸毫すんごうの便宜をも与えなかった。いや、むしろ与えたものは障碍しょうがいばかりだった位である。これは両親たる責任上、明らかに恥辱と云わなければならぬ。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
昔の医者はそれが出る方がいいといって却って奨励したものだが、それがすっかりなおったら急に口が利けるようになった。言語中枢に何か障碍しょうがいがあったらしいのである。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
大きな自然の力によって律法、道徳、等、等多年の障碍しょうがいが取除かれたがために私どもは赤裸裸の親子として完全に相愛することができた。これがいわば最高の道徳である。
母の死 (新字新仮名) / 中勘助(著)
しかしてこの問題に処して更に経験を得て行くとすれば、失敗も見方に依てははなはだ有益つ興味あるものである。我輩は如何なる困難、如何なる障碍しょうがいに遭遇するも決して悲観しない。
そもそも、学問を独立せしむるの要術、甚だうし。然れども、今日の事たる、つとめて学者をして講学の便宜を得せしめ、勉めてその講学の障碍しょうがいのぞくより切なるはなし(謹聴、拍手)。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
山田さんは「家事の煩忙」を女子の労働の不可能な一つの条件に数えられましたが、我国の家事は大部分無用なものですから、努力次第で最も早く除き得る小さい障碍しょうがいだと思います。
おおよそ物体はそのもっとも障碍しょうがいの少なき点に向かって運動する自然の法則を有するものにして、人種の運動といえどもまったくこの理に従わずんばあらず。いにしえは東にかとうして西に易し。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
なぜかというに藤原時代に文明の波及が遅々としておったのは、一はその伝播力の強からざるにもよるが、また一には伝播に対する自然の障碍しょうがいの未だ除かれざるものが数多あったに坐する。
多くの障碍しょうがいしのいで横文おうぶんの書を読もうとする程の気力がなかったのとのめに、昔読み馴れた書でない洋書を読むことを、翁は面倒がって、とうとう翻訳書ばかり見るようになったのである。
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
亜米利加に於ける自由獲得の歴史に於ても多数者は常にその障碍しょうがいである。
少数と多数 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
そのときあちこちの氷山に、大循環到着者とうちゃくしゃはこの附近ふきんおいて数日間休養すべし、帰路は各人の任意なるも障碍しょうがいは来路に倍するをもっ充分じゅうぶん覚悟かくごを要す。海洋は摩擦まさつ少きもかえって速度は大ならず。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
すべての障碍しょうがいが取り除かれた。私はほっとした。けれど、まだほんとうのことを言い出すほどには機運が向いてないのを感ぜずにはいられなかった。私達はそれからまた、いろいろの雑談をした。
話は大分遡りますが、妻の学生時代を知っている私が、あらゆる障碍しょうがいを排して、懇望して貰った女でした。あなたは、男が女を愛するということがいかに深いものかお考えになったことがありますか。
消えた霊媒女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
却って本当の正しい批評をすることの障碍しょうがいになりはしまいか。
二科会展覧会雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
乱杭を抜いて押し流したり、割竹のせきを破って、柴の束や材木の障碍しょうがいなどを取り除いたり、浮きつ沈みつ、さながら神のような姿で働いていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
民間説話の採集は、今から十数年前、すこしくちょについたかと思った際に、ちょうど我々の国では最悪の障碍しょうがい逢着ほうちゃくした。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかし、この種の困難は「大統領探偵小説」の場合のような百万長者には少しも障碍しょうがいとならない。彼は未知の土地に定住することをこそ望むのである。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この雑鬧ざっとうな往来の中でも障碍しょうがいになるものは一つもなかった。広い秋の野を行くように彼女は歩いた。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それから惹いて自分たちの結婚問題の上にもどんな障碍しょうがいを来たさないとも限らない。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかしてまたその志望するところにしたがって、各自になんらの障碍しょうがいなく着々と進み得らるるかというに、多くの人の進み行く道程を調べてみるに、また色々の境遇に由って色々に変っている。
現代学生立身方法 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
シカモ近代人となるにはまた余りに古風な国士的風懐があり過ぎていた。この鳥にも獣にもドッチにもなり切る事が出来ない性格の矛盾が何をするにも二葉亭のキャリヤの障碍しょうがいとなった。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
私のこの最初の方図は障碍しょうがいって、ますますはっきり私に慾望化して来た。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その過程には新しい悲惨な事実も続出するでしょうが、宇宙はいつも快晴ではないのですから、一つの比較的に最も善い新しい秩序をはじめるためには十の新しい障碍しょうがいが起ってもやむをえません。
毒気は同情の障碍しょうがいとなり得ず、愛情の障碍とすらなり得ぬのかも知れなかつた。けれども、素子の場合は、と谷村は思ふ、岡本に同情してはゐないといふ直感があり、それを疑る気持がなかつた。
女体 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
しかれどもこの一障碍しょうがいあるがために決して吾人が断言したるところのものをうることあたわざるなり。それわが邦人なるものは初めより商業家・生産家たるあたわざるの命運を有するものなるか。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
つまり生活状態の変更に対するあらゆる障碍しょうがいを並べて口説き立てる。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)