銀杏ぎんなん)” の例文
出発点は知らないが、到着点の目じるしは、田疇の中の一むらの森の、その森の中でも、群を抜いて高い銀杏ぎんなんの樹であるらしい。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ひとみのない銀杏ぎんなん形の眼と部厚いくちびる、その口辺に浮んだ魅惑的な微笑、人間というよりはむしろ神々しい野獣ともいえるような御姿であった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
私を育ててくれた乳母うば名古屋なごやに居まして、私が子供の内に銀杏ぎんなんすきで仕様がないものだから、東京へ来ても、わざわざ心にかけて贈ってくれる。
薄どろどろ (新字新仮名) / 尾上梅幸(著)
二度目に訪ねたときのことだが、長次は銀杏ぎんなんの実を笊にいっぱい拾って来たところで、登にそれを見せ、この次に来たら先生にあげるよ、とないしょで云った。
赤ひげ診療譚:06 鶯ばか (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「それじゃあ近所の子供が銀杏ぎんなんを取りに登ったかも知れません。随分いたずら者が多うございますからね」
半七捕物帳:15 鷹のゆくえ (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私は仕方なく銀杏ぎんなんの実を爪楊枝つまようじでつついて食べたりしていた。しかし、どうしても、あきらめ切れない。
チャンス (新字新仮名) / 太宰治(著)
がんもどきッて、ほら、種々いろんなものが入った油揚あぶらあげがあらあ、銀杏ぎんなんだの、椎茸しいたけだの、あれだ、あの中へ、え、さかなを入れてぜッこにするてえことあ不可いけねえのかなあ。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
顔を地につけるようにして見ると、仰向あおむきになった、銀杏ぎんなんのようなお由の円い顔が直ぐ目についた。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
平次は漸く冷靜に立ちかへつて、その調べを始めました。梅の實や銀杏ぎんなんの實ほどのたまが、何千、何萬兩もするといふことは、ザラの小泥棒などにわかる筈もありません。
オモリは両環の銀杏ぎんなん型だが、これも水の抵抗を少なくするために、自分でこしらえて細長くする。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
銀杏ぎんなんを入れてもよい。卵をかき混ぜるか、そのままにするかは専門の料理師に研究してもらう。
また、しょうちゃんの銀杏ぎんなんは、自分じぶんからちたのをひろって、いいのだけをえらんだもので、たとえおはじきを五でも、一粒ひとつぶ銀杏ぎんなんとはえがたいとうといものでありました。
友だちどうし (新字新仮名) / 小川未明(著)
奥さんと一緒に銀杏ぎんなんを買いに寄ったことのある市場だった。京極からは何程も離れていない市場だった。はじめて自分はどんな町をあるいているかがはっきりした。明るい街はいけない。
小さき良心:断片 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
銀杏ぎんなん 五〇・〇〇 三・八七 二・一八 四一・七一 〇・三九 一・八五
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
庭の柚子が眞ツ黄色に熟して、明神の境内には、銀杏ぎんなんの落葉がうづたかかつた。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
それから「銀杏ぎんなんも焼いてあげる。銀杏もうまいものだ」と言いました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
境内宏く、古びた大銀杏の下で村童が銀杏ぎんなんをひろって遊んでいる。
金色の秋の暮 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「だけど、あなた、」と母は別な方面から父を揶揄した、「そんなに公孫樹を大きくしてどうなさるの。銀杏ぎんなんがなるまでにはなかなかでしょうし、それに、もし引越しでもするようになったら……。」
公孫樹 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
銀杏ぎんなんのようなつぶらな眼は、いとど大きく、ため息さえついた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けふもまた山に入り来てもと銀杏ぎんなんひろふ遊ぶがごとく
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
そこで、これらの人たちと共に、改めて斬られている奴を検閲すると、これは長く清洲きよす銀杏ぎんなん加藤家に仕えていた下郎に相違ないことが確かめられました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
がんもどきツて、ほら、種々いろんなものがはひつた油揚あぶらあげがあらあ、銀杏ぎんなんだの、椎茸しひたけだの、あれだ、あのなかへ、え、さかなれてぜツこにするてえことあ不可いけねえのかなあ。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
私に銀杏ぎんなんを持って来て、くれたと思うと目を覚ましたが、やがて銀杏ぎんなんが小包で届いて来た、遅ればせにまた乳母の死んだという知らせが、そこへ来たので、夢の事を思って
薄どろどろ (新字新仮名) / 尾上梅幸(著)
側へ持つて行くとまぶしいほど、——男體の方のは梅の實ほどで火のやうに光り、女體の方は銀杏ぎんなんの實ほどで青光りする。あつしは見たわけぢやないが、氣味が惡いほどだと言ひますよ
りょうちゃん、おみやへいってみない。銀杏ぎんなんちているかもしれないぜ。」
昼のお月さま (新字新仮名) / 小川未明(著)
鮎の作身と塩焼、牛蒡ごぼうと新芽の胡麻和ごまあえ、椀は山三つ葉とふな煎鳥いりとり銀杏ぎんなんの鉢と、田楽でんがく、ひたしといった献立だった。——今日は食事をするだけ、という約束で、ほかのことには話は触れなかった。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
銀杏ぎんなん城外の中村では、英雄豊太閤のほぞのために万斛ばんこくの熱涙を捧げた先生が、今その豊太閤の生みの親であり、日本の武将、政治家の中の最も天才であり
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
最後さいごとしちゃんの大事だいじにしておいた、あおいおはじきも、また、しょうちゃんのっていた銀杏ぎんなんも、すっかり少年しょうねんられてしまって、少年しょうねんは、ただりた四だけをアスファルトのうえのこして
友だちどうし (新字新仮名) / 小川未明(著)
隱さう、あの聖天しやうてん樣、男女兩體の二つの夜光石のうち、何千兩といふ値打のある、眞物ほんものの夜光石は、男體の額のだけで、女體の額にハメ込んである、銀杏ぎんなんほどの小さいのは、あれは僞物でございますよ
銀杏ぎんなんのついたのをつけたのである。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
来て見るとあの通りの有様で、村はあるにはあるが、銀杏ぎんなんもあることはあるが、英雄の誕生地というのがどこだか、石塔も無けりゃあ、鳥居も一本立っちゃあいねえ。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あきれにおみやおおきなしたひろった、銀杏ぎんなんれていました。
友だちどうし (新字新仮名) / 小川未明(著)
心ききたる若者を一人わけて、道庵のために附け、そうして道庵を北国街道に送り込み、お角さんは、そのまま残る手勢を引具ひきぐして、銀杏ぎんなん加藤一行のあとを追って近江路を上りました。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
清洲の山吹御殿の銀杏ぎんなん加藤の奥方の居間へ、不意に一人の珍客が訪れました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
銀杏ぎんなん加藤の一行よりは先発してここまで来たのですが——道庵先生をこうして躍らせて置いて、自分は若い者に駕籠かごの前後を守らせながらついて行くが、進軍につれて漸くはしゃぎ出す道庵を見ると
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)