逐電ちくでん)” の例文
「若ッ! 一大事出来しゅったい! 三島の宿で雇い入れました鼓の与吉という人足めが、かのこけ猿の壺をさらって、逐電ちくでんいたしましたっ!」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
若様——林太郎様には、一と月ほど前に召使の組と逐電ちくでんいたし、今以いまもって所在が判らず、御主人様ことのほか御立腹でございます。
しかし桃太郎は必ずしも幸福に一生を送ったわけではない。鬼の子供は一人前いちにんまえになると番人の雉をみ殺した上、たちまち鬼が島へ逐電ちくでんした。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
よばれ白子屋家内を檢査あらため清三郎をとらへ來れと下知せられしかば同心馳行はせゆき檢査あらためしに清三郎は逐電ちくでんせし樣子なれど道具だうぐうち斯樣の品ありしと其品々を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その知らせの挿話として、氏元の寵を一身に集めた三浦右衛門は、府中落城のその日に早くも主君を捨てて逐電ちくでんしたということが添えられた。
三浦右衛門の最後 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
いったん逐電ちくでんしたからにはおめおめ抱主のところへ帰れまい、同じく家へ足踏み出来ぬ柳吉と一緒に苦労する、「もう芸者を止めまっさ」との言葉に
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
刺してその場から逐電ちくでんするだけのことだが、この女が胸から血を流してのけるざまは、見られたものではなかろう。なんといってもむごたらしすぎる。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
かたきはすぐに逐電ちくでんしたので、その弟からかたき討のねがいを差出したが、やはり許可されなかった。ただし兄の遺骨をたずさえて帰国することを許された。
かたき討雑感 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お家の法度はっとを破って男をこしらえて、逐電ちくでんした不届き至極な奴め、眼に入り次第成敗いたしてくれん! とたけりたつようなことばかり並べたてて、表面をつくろっていました。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
自分が紺野老人をたずねて、眼鏡の玉を拾った話でもようものなら、却って紺野老人を警戒させ、或は紺野老人に逐電ちくでんさせるような結果を惹き起さぬとも限らない。
好色破邪顕正 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「それにしても」と、勘平はまたたけりたった、「何という卑劣な所業しょぎょうでござりましょう。脱盟して吾々の顔をつぶすさえあるに、他人の金品まで盗んで逐電ちくでんするとは!」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
れが、宮本村を逐電ちくでんして以来、指折り数うればもう五年、どれほど捜すに骨を折ったことか。清水寺へ日参のかいあって、ここでわれに会うたることのうれしさよ。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本多佐渡守は三河の徳川家の譜代の臣であるが、家康若年のころの野呂一揆に味方し、一揆が鎮圧したとき、徳川家を逐電ちくでんして、一向一揆の本場の加賀へ行ってしまった。
雲水の僧は矢庭やにわに躍りかかって、弁兆の口中へ燠をじ込むところであった。弁兆は飛鳥の如くに身をひるがえして逃げていた。そのまま逐電ちくでんして、再び行方ゆくえは知れなかった。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
いずれともなく逐電ちくでんした筈の市毛甚之丞以下おろかしき浪人共でしたから、門を堅く閉じ締めていた理由も、うしろに十数本の槍先を擬しているものの待ち伏せていた理由わけ
大小を三腰とか印籠を幾つとかを盗み取り逐電ちくでんした人殺しの盗賊どろぼうだ、するとあとから忠義の家来藤助とうすけとか孝助とか云う男が、主人のかたきを討ちたいとおっかけて出たそうだ、私の思うのは
それが今ハッキリと思い当ったんですが、ポントスは殺されたように見せかけ、実はこの莫大な財産とともに何処かへ逐電ちくでんしてしまったのじゃないでしょうか。悪いやつのよくやる手ですよ
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
其處に六七箇月住んでゐる間に町の酒屋呉服屋料理屋等にすべて數百圓からの借金をこしらへ、たうとう居たゝまらなくなつて私の行つた一月ほど前に何處かへ逐電ちくでんしてしまつたところであつた。
樹木とその葉:04 木槿の花 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
服部石見のせがれと娘、余が家臣平戸九十郎を、親の敵として狙う趣き、ならぬならぬ討つことはならぬ! ……で、そうなるというものさ! ……だからよ俺は安穏に、逐電ちくでんもせずに江戸に住み
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
早手廻しに、もうその年のとりの市を連れて歩行あるいた。従って、旅費の残りどころか、国を出る時、祖母としよりが襟にくけ込んだ分までほぐす、羽織も着ものも、脱ぐわぐわで、暮には下宿を逐電ちくでんです。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
逐電ちくでんした農奴が欲しいって人はごわせんかな?」
「八郎太逐電ちくでん!」
だだら団兵衛 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
若樣——林太郎樣には、一ヶ月程前に召仕の組と逐電ちくでんいたし、今以て在所が判らず、御主人樣ことの外御立腹で御座います。
そこへ、刃傷も刃傷、一役人の首が文字どおり飛んだのである。しかも、下手人げしゅにんらしく思われる者は、その場から逐電ちくでんして影も形も見せない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
立花左仲さちうは此騷動さうだうを聞とひとし安間あんまたくしのび入二百兩うばひ取りて逐電ちくでんせしかば嘉川かがは宅番たくばんの者より此段大岡殿へ屆け出しなり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
見捨てきれないで、夕方のうちに二ちょうかごを仕立てて何処かへ逐電ちくでんしてしまっているのです
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いつ頃逐電ちくでんいたしたか存ぜぬか!」
買取かひとりるに同じく漏居もれゐければ十兵衞不審いぶかりながら立歸りしが其夜に至り子息せがれ庄左衞門逐電ちくでんせし事を始て聞知り切齒はがみを爲て怒り歎きしが夜中に書置かきおき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
女のことから朋輩ほうばい成滝近江なるたきおうみと争い、果し合いの末討ち取ってその場から逐電ちくでん、江戸に潜り込んで、とうとうこの年まで無事に過してしまいました。
相当うでの立つ近江之介殿をあッと言う間に文字通り首にしたばかりか、大胆だいたんといおうか不敵ふてきと言おうか、城中番所の窓から抛り込んでおいて逐電ちくでんした喬之助のやつ
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
逐電ちくでんしたか!」
右門捕物帖:23 幽霊水 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
「父上樣、御心配を相かけ申譯も御座いません。林太郎は召仕などと逐電ちくでんはいたしません。それなる堀周吉の奸計かんけいに陷り、唯今まで獸類に等しき扱ひを受けました」
グイとお尻を端折はしょったお六。長庵とつれ立ってスタスタ、旦那の造酒を置いてきぼりにして逐電ちくでんする。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかしすでにかの若侍は、後難を恐れて逐電ちくでんして行方は誰も知らない。
預かった金を持って逐電ちくでんしてしまったので、しばらくは富五郎の女房おしんとともに帰りを待ってみたものの、富五郎はお伊勢まいりと洒落しゃれて東海道へ出たのだから
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その間にお筆は、平次が親元になつて、紅屋に嫁入りし、煙草入細工をして、藤吉をおとしいれようとした彌惣の伜彌三郎は、他の惡事まで露見して、どこともなく逐電ちくでんしました。
その間にお筆は、平次が親元になって、紅屋に嫁入りし、煙草入細工をして、藤吉をおとしいれようとした弥惣の倅弥三郎は、他の悪事まで露見して、どこともなく逐電ちくでんしました。
ただちに乾坤二刀をひとつに手挟たばさんで郷藩中村へ逐電ちくでんしようと考えていた左膳の見こみに反して、坤竜栄三郎は思ったより強豪、そこへ泰軒という快侠の出現、いままた五人組の登場と
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あの加納屋甚兵衞が、御金奉行をして居るとき、藩の大金を取込み、その罪を下役の石郷時之丞に被せて逐電ちくでんしたため、石郷時之丞は自害をして主君に申譯しました。私がその伜の時三郎ですよ。
師の諸岡一羽のもとを逐電ちくでんして、はじめ相州小田原に出たのだが、この兎角、伝うるところによれば、たけ高く髪は山伏のごとく、眼にかどあり、そのものすごいこと氷刃のよう——つねに魔法をつかい
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
娘——と称した、めかけのお琴は、逐電ちくでんして行方知れず。