跛足びっこ)” の例文
本人よりもよく米友にているこの小坊主が、先に立って案内に歩き出したところを見ると、どうでしょう、これが跛足びっこなのです。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうして、彼の厚い二つの唇は、兵士たちの最後の者が、跛足びっこを引いて朱実あけみを食べながら、宮殿の方へ去って行っても開いていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
というのは右の足が、膝の関節つけねからなくなっているので、つまり気の毒な跛足びっこなのであった。でズボンも右の分は、左の分よりは短かかった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
橋の下でお秀が黙っていますと、橋詰から土手の上へ子供を抱いて石油鑵を下げ、跛足びっこをひいて来るお三の姿が現れました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
跛足びっこをひきながら金造の家へ転げ込んで、疵を洗って手当てをして、その晩はともかくも寝てしまったが、明くる朝になると疵口がいよいよ痛む。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「髷切りの曲者は、お武家でございますよ、——立派なお武家で、四十五六にもなりますか、背の低い、少し跛足びっこですが、恐ろしい体術でございます」
そしてどん詰りには、目ッかちで跛足びっこ蜆屋しじみやがいる。夏は皆ほとんど真ッ裸かの社会であるが、そのうちでも人間らしいのはまず自分のところばかりだ。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
「由っちゃん、親切ありがとう……だけど俺もう、俺はもう前よかもっともっときたなくなっちまったんだよ……おまけに片足の跛足びっことくらア……ふっふっふ」
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
で、彼は、神妙しんみょうに遊ぶ稽古けいこをする。そこへちょうど、友だちのレミイが現われた。おなどしの男の子で、跛足びっこをひき、しかも、しょっちゅう走ろうとばかりする。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
跛足びっこをひいて、彼は垣の外へ出て行った。そして、往来に待っていたおきぬが寄って来るとすぐ訊いた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが少しひどくなると、跛足びっこになるの外はなかった。その他、偶然の畸形はいくらでも想像出来た。
幻の彼方 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「一の鳥居は桑名にあると申してな、跛足びっこを引き/\こゝまで来ると、ホッと一息ついたものですよ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
詳細な人相書が回送されて、頬に小さな赤い痣があり、左の脚がすこし不具で軽い跛足びっこだとある。
生きている戦死者 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
人は不死であるとともに跛足びっこであり得る。神ヴルカヌスはその例である。人は人間以上であるとともに人間以下であり得る。自然のうちには広大なる不完全さも存する。
しかし打たれて死ぬまでも此の槍にてしたゝかに足を突くか手を突いて、亀手てんぼう跛足びっこにでもして置かば、後日ごにち孝助が敵討かたきうちる時幾分かの助けになる事もあるだろうから
まくらもとにいる妙子を見上げて、ああ、僕は跛足びっこや! と、悲痛な声をらしたが、それでも磯貝医院以来呻き続けてばかりいた病人が、尋常な物云いをしたのはその時が始めてであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
安重根は行李を抱え、李剛は跛足びっこを引き、パイプをふかしている。
しず、章介(その弟少し跛足びっこ
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
滔々とうとうたる世間並みのおきてになっているが、跛足びっこの子が跛足であり得ること、兄が跛足なるが故に、弟も跛足という常識はありません。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
『むゝ。』と、他のひとりも同じく笑ひながら躊躇ちゅうちょしてゐた。彼は顔の色がすこしく蒼い。その上に、左の足が不自由らしく、歩くのに跛足びっこをひいてゐた。
赤膏薬 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
まだある、拘引される前に自動車に轢かれたそうで跛足びっこを引いて居たが、裸にして調べると、左の大腿部をやられて、繃帯ほうたいの上へヒドく血がにじんで居た。
呪の金剛石 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
顔は、眼も鼻も口も、一緒くたに集まって、背骨が、二つに折れる程曲がり、繩のように細い両手が、長く垂れ下っていた。跛足びっこの足を開いて、蛙のようなあるき方だった。
ロウモン街の自殺ホテル (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
此処の処だけも何も有りません跛足びっこの亭主などを妹に持たしては置かれません、本当にお前さんの処へ縁付かたづけて置くと、親類中に祝儀不祝儀の有った時に、ピョコ/\跛足を
見れば、まだ若いのに、道安は跛足びっこであった。——千宗易せんのそうえきの長男であるから、いわゆる大家の若旦那の風はあるが、そうした体なので、依怙地えこじできかない気性だといわれている。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
裸か蝋燭を持って、李剛が跛足びっこを引きながら降りて来ている。
開いたなりの傘をそこへ抛り出して、勝手にしやがれという態度で、跛足びっこの足を引きずって、雨の中をさっさと駈け出してしまいます。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
日向ひゅうがの延岡で流弾にあたって左の足に負傷しまして、一旦は訳もなく癒ったのですが、それからどうも左の足に故障が出来まして、跛足びっこという程でもないのですが
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
杖に身をささえ、跛足びっこをひいた一人の若僧が、網代笠あじろがさおもてをつつみ、施粥せがゆの列に交じっていたが、やがて自分の順番になると、鉄鉢を出して、僧侶らしく、ていねいに頭を下げた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
皆そう考えて、ワラタ号は予定が遅れただけで今にも港外に姿を現すであろうと、待ち構えていた。きっと機関に何か故障が起って、跛足びっこを引くような具合に、ぶらぶらやって来ているのだろう。
沈黙の水平線 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
足が歩くたびにヒョコ/\跛足びっこを引いて、時々転んだりするようなやくざものばかり居りまするが、門番は無いから門を這入り、こわ/″\台所口へ這入った頃は、もう日がトップリと暮れました。
「いや、違う、あの病身の娘に、達者過ぎるほど達者なお専の首が締められるわけはない。それに、畑の足跡は、跛足びっこではあるが、往きも帰りも少しも乱れてはいない、若い娘が人一人殺して、あんな同じ足取りで歩けるはずはないだろう」
歩くといっても、やはり米友は跛足びっこです。それに背が低いからいちいち床几を下へ置いてその上へのって、それから油を差して歩きます。
権次は幸いに命を助かったが、左の足に深手を負ったのがもとで、とうとう跛足びっこになってしまった。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
道安は、足が不自由なので、常にそれを人眼にも、新妻の眼にも、努めて隠すようにして歩くのが癖だったが、そんな用意も捨てて、おきぬや手代てだいよりも先に、跛足びっこをひいて家へ急いだ。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで米友は、くだんの風呂敷包を首根っ子にゆわいつけ、竹笠をかぶって、跛足びっこの足を引き、例の杖槍をついて、道庵の屋敷を立ち出でました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あくる日一日は無理に寝かしておいたが、娘は次の日から跛足びっこをひきながら起きた。しかし彼女はここを立去ろうともしないで、そのままこの家に居据いすわっていることになった。
有喜世新聞の話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
官兵衛は跛足びっこだ。その手を持ちつつ、しとねのない所に、ぺたんと坐ってしまった。——往年、荒木村重が叛離はんりのとき、単身、有岡城へ入り、その折、遂に失った左の一脚に——秀吉は、気づいた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神田の柳原河岸やなぎわらがしを通りかかったのは、今で言えば夜の八時頃でした。懐中ふところには十両余の金があって、跛足びっこを引き引きやって来ると闇の中から
あくる日一日は無理に寝かしておいたが、娘は次の日から跛足びっこをひきながら起きた。しかし彼女はここを立ち去ろうともしないで、そのままこの家に居据いすわっていることになった。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さて、勢いよく門の外へ飛び出した三人は、卍巴まんじともえと降る雪をね返してサッサと濶歩しましたけれども、米友は跛足びっこの足を引摺って出かけました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
井戸端で水を汲んでいるうちに、手桶をさげたまますべって転んで、これも膝っ小僧を擦り剥いたと云って跛足びっこを引いているもんですから、わたしが代りに二階へあがると又この始末です。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
与八の歩くのは牛のようでありましたけれども、しかも大股でありました。米友の走るのは二十日鼠のようであって、しかも跛足びっこなのであります。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それが習慣になつたかして、彼女はつてあるくやうになつてもはり暗い部屋を離れなかつた。しかも彼女は決してめくらでもなかつた、跛足びっこでもなかつた。ことにその容貌きりょうはすぐれて美しかつた。
梟娘の話 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「どうも、あの時より肉は少し落ちているが、骨組に変りはなし、跛足びっこに申し分もなし、こいつはいよいよおかしい」
父の行方も探し当て、お杉の生死しょうしたしかめ得たので、彼も今は気がゆるむと共に、市郎は正しく立つにえられなくなって来た。跛足びっこきながらかたえの岩角に跟蹌よろけかかって、倒れるように腰をおろした。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ここで道庵先生が、野郎の方は少々跛足びっこになると言ったのはもちろん米友のことで、眼の方は難物だというのはたぶん机竜之助のことでありましょう。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
米友は大音を揚げて財布ぐるみそっくりと格子戸こうしどの中へ投げ込むや否や、物にわれるように一目散いちもくさんに逃げ出して来ました。跛足びっこの足で逃げ出しました。
右の足の跛足びっこである米友が、女の下駄を片一方だけ持ち扱って歩いて行くことは、判じ物のような形であります。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
折助は物干竿ものほしざおを幾本も担ぎ出しました。跛足びっこになった米友は、その危ない屋根の上をなんの苦もなく走ります。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
米友は跛足びっこを引きながら、いま床の間へ飾って置いた一合の酒と丼、果して手を附けなかったことの幸いを感じて、それをそっくり持って来てやりました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)