読本よみほん)” の例文
旧字:讀本
不肖ふしょうじゃございますが、この近江屋平吉おうみやへいきちも、小間物屋こそいたしておりますが、読本よみほんにかけちゃひとかどつうのつもりでございます。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
読本よみほんは絵のとこが出て子に取られ)少年はきれいなおんなの容易ならない身の上が案じられますから、あとを性急せっかちに開ける、とどうです。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
絵入りの読本よみほんを歌舞伎に仕組んだのはこれが始まりであると云うのをみても、いかに「自来也物語」が流行したかを想像することが出来る。
自来也の話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
金平本きんぴらぼん、黄表紙、洒落本しゃれぼん、草双紙、合巻物ごうかんもの読本よみほんといった種類のものをこみで一手に集めて来たものらしいから、白雲は
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
八犬伝などはこれまで草双紙の方で見ていたが、今度いよいよ読本よみほんの方で見る事が出来たので直に最終まで読み通した。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
『作者部類』に、あの自尊心の強い馬琴が自ら、「臭草紙くさぞうしは馬琴、京伝に及ばず、読本よみほんは京伝、馬琴に及ばず」
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
どうも私幼少から読本よみほんを好きましたゆえか、こういう話を致しますると図に乗っておかしな調子になるそうで
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一体に小説という言葉は、すでに新しい言葉なので、はじめは読本よみほんとか草双紙くさぞうしとか呼ばれていたものである。が、それが改ったのは戊辰ぼしんの革命以後のことである。
明治十年前後 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
平助は半蔵の顔を見ると、旅のまくらもとに置いてある児童の読本よみほんでも読んでくれと言った。幸兵衛も長い滞在に疲れたかして、そのそばに毛深い足を投げ出していた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わたくしは少年の時、貸本屋の本を耽読たんどくした。貸本屋がおいの如くに積みかさねた本を背負って歩く時代の事である。その本は読本よみほん書本かきほん、人情本の三種を主としていた。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そんな物のなかから、むしばんだ古い錦絵にしきえが出たり、妙な読本よみほんが現われたりした。母親は叔母が嫁入り当時の結納の目録のような汚点しみだらけの紙などを拡げて眺めていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いつでも持って来ただけの金はここでってしまう春作なのである。これから、火の気もない家へ帰って、一枚ずり彩絵いろえ読本よみほん挿絵さしえを描く気にもなれないのであろう。
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
現に江戸初期の長崎貿易は、主として支那シナからの絹糸の買入れを目あてとしていたくらいで、かの土井大炊頭どいおおいのかみ糸屑いとくずの逸話が、読本よみほんにもっていて女たちもよく知っている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
読本よみほんでも話でもない、なま身のこの躯で、じかにそういうことを教えられたんだ
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
読本よみほんの種にでもなるような珍らしい相談でもすることかと思ったら、何んのこたアねえ、すっかり当が外れちゃった——そりゃアまア、弟子にしてくれというんなら、しねえこともないが
曲亭馬琴 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
百人一首はもとより、草双紙くさぞうしその他、民間の読本よみほんには全く字を用いずして平仮名のみのものもあり。また、在町ざいまちの表通りを見ても、店の看板、提灯ちょうちん行灯あんどん等のしるしにも、絶えて片仮名を用いず。
小学教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
雨月物語うげつものがたり」は、安永五年(一七七六)に出版された、五巻五冊、全九話を収めた、いわば短篇小説集で、著者は上田秋成うえだあきなりであり、これを近世小説のジャンルでいえば読本よみほんとよばれるものであるが
雨月物語:04 解説 (新字新仮名) / 鵜月洋(著)
雨月物語うげつものがたり」は、安永五年(一七七六)に出版された、五巻五冊、全九話を収めた、いわば短篇小説集で、著者は上田秋成うえだあきなりであり、これを近世小説のジャンルでいえば読本よみほんとよばれるものであるが
本棚の片隅には、帙入ちついりの唐本の『山谷さんこく詩集』などもありました。真中は洋書で、医学の本が重らしく、一方には馬琴ばきん読本よみほんの『八犬伝』『巡島記』『弓張月ゆみはりづき』『美少年録』など、予約出版のものです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
読本よみほんならば氷鉄ひがねといおう、その頂から伊豆の海へ、小砂利まじりにきばを飛ばして、はだえつんざく北風を、日金おろしおそれをなして、熱海の名物に数えらるる。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
馬琴の経験によると、自分の読本よみほんの悪評を聞くということは、単に不快であるばかりでなく、危険もまた少なくない。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これは帳面に一々しるしてないので、番頭も早速の返事に困ったらしかったが、それでも記憶のなかから繰り出して二、三種の読本よみほんや草双紙の名をならべた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お好み通りにととのえて上げた歌の本、読本よみほん、絵草紙の類まで耳をそろえてキチンとしている。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これは読本よみほんとしても随筆としても事実話としても面白い。実際自分が出会ったことだからな
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
読者の限りない人気に引き摺られて次第に延長したので、アレほど厖大な案を立てたのでないのはその巻数の分け方を見ても明らかである。本来読本よみほんは各輯五冊で追って行くを通則とする。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
この男はその手紙によると、二十一の年につんぼになつて以来、廿四の今日まで文筆を以て天下に知られたいと云ふ決心で、もつぱ読本よみほんの著作に精を出した。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
むかし読本よみほんのいわゆる(名詮自称みょうせんじしょう。)に似た。この人、日本橋につまを取って、表看板の諸芸一通ひととおり恥かしからず心得た中にも、下方したかたに妙を得て、就中なかんずく、笛は名誉の名取であるから。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは古い戯曲や旧時代の読本よみほんなどで、あまりに誤られている変形のまぼろしであり、ほんとの宮本武蔵という人の心業しんぎょうは、ああいう文芸からは、片鱗へんりんもうかがうことはできない。
宮本武蔵:01 序、はしがき (新字新仮名) / 吉川英治(著)
読本よみほんにしても挿絵の巧拙善悪が人気に関するが
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「さかつかえるどころじゃない。今年は読本よみほんを大分引き受けたので、とても合巻ごうかんの方へは手が出せそうもない。」
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「誰だい。」といった藤兵衛とうべえは、匍匐はらんばいになって、胸の下に京伝の読本よみほんが一冊、悠々と真鍮環しんちゅうわの目金を取って、読み懸けた本の上に置きながら、頬杖ほおづえを突いたままで、皺面しわづらをぬっ!
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いいなさんな、読本よみほんの筋じゃあるめえし、こんな四国の山奥で、バッタリ行き逢ったり何かして堪るものか。実はおめえの尋ねてゆく人に俺も少し用があって、この通りの汗だくで追いついてきたのよ
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「差支へる所ぢやない。今年は読本よみほんを大分引受けたので、とても合巻がふくわんの方へは手が出せさうもない。」
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
各々興ある事と勇み立ち、読本よみほんでこそ見たれ、婦人といえば土蜘蛛つちぐもに縁あり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分はあなたの八犬伝と云ひ、巡島記と云ひ、あんな長たらしい、拙劣な読本よみほんを根気よく読んであげたが、あなたは私のたつた六冊物の読本に眼を通すのさへこばまれた。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
貸本屋だからと言って、股引ももひき尻端折しりはしょりで、読本よみほんの包みを背負って、とことこと道を真直まっすぐに歩行あるいて来て、曲尺形かねじゃくがた門戸もんかどを入って、「あ、本屋でござい。」とばかりは限るまい。あいつ妾か。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)