襟許えりもと)” の例文
唯吉たゞきちは、襟許えりもとから、手足てあし身體中からだぢうやなぎで、さら/\とくすぐられたやうに、他愛たわいなく、むず/\したので、ぶる/\とかたゆすつて
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
人、面白くもねえ、貴方様お掛け遊ばせが聞いてあきれら。おはいはい、襟許えりもとに着きやがって、へッ。俺の方が初手ッから立ってるんだ。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いや、南無阿弥陀仏なむあみだぶつ、縁なんぞないのがい、と枕を横に目をらすと、このきれがまた白い。襟許えりもとの浴衣が白い。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うろこか、金の、と総毛立つ——とくしでした。いつ取落したか、青貝摺あおがいずりので、しかも直ぐ襟許えりもとに落ちていました。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、いぢけたのでもちゞんだのでもない。吹込ふきこけむり惱亂なうらんした風情ふぜいながら、何處どこ水々みづ/\としてびやかにえる。襟許えりもと肩附かたつきつまはづれも尋常じんじやうで、見好みよげに釣合つりあふ。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
境の前にしゃがんだ時、山伏は行衣ぎょうえの胸にうずたかい、鬼の面が、襟許えりもとから片目でにらむのを推入おしいれなどして
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はしむかぎはに、あさきしながれのぞんで、たばがみ襟許えりもとしろく、褄端折つまはしよりした蹴出けだしのうすあをいのが、朦朧もうろうとして其處そこ俯向うつむいてあらふ、とた。大根だいこんとはちがふ。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とお三重の、その清らかな襟許えりもとから、優しい鬢毛びんのけ差覗さしのぞくように、右瞻左瞻とみこうみ
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くすぶった、その癖、師走空に澄透すみとおって、蒼白あおじろい陰気なあかりの前を、ちらりちらりと冷たい魂が徜徉さまよう姿で、耄碌頭布もうろくずきんしわから、押立おったてた古服の襟許えりもとから、汚れた襟巻の襞襀ひだの中から、朦朧もうろうあらわれて
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
我も生命いのちおしまねばこそ、かかる野にもきたりしなれ、うなりとも成るやうになつてめ! これにえになつたといふ、あはれな記念かたみころもかな、としきりに果敢はかなさに胸がせまつて、思はず涙ぐむ襟許えりもと
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)