苛々いら/\)” の例文
米原を発車した後は、今迄の様に苛々いら/\した気持はなくなつた。そして今迄と反対に、帰郷するといふことが楽しいことに思はれ始めた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
大阪のやうな土地に住んでゐると、なんだか苛々いら/\して氣が落ちつかない。いつそ太夫の商賣をやめて、かういふ靜なところに隱居するかな。
近松半二の死 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
そんな時に彼は、それが特別な興味をくとか、親しみを感ずるとかいふ場合でない限り、気分が苛々いら/\して来るのであつた。
風呂桶 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
最後に相生あひおひ町の叔母さんの家で宵を過して、元柳橋へ駈けつけた時は、もう相手のお京が、橋の袂の柳にもたれて、苛々いら/\しながら待つて居るのでした。
『何を言ふんです。』と信吾は苛々いら/\しく言つた。そして、突然富江の手を取つて、『僕は貴女の迎ひに來たんだ!』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
... 肉汁スープにはそれがくつてもいわ——屹度きつと何時いつでも胡椒こせうひと苛々いら/\させるにちがひない』としてひとつの新規則しんきそく發見はつけんしたことを非常ひじようよろこびました
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
併し、私だつてたゞ苛々いら/\した心持ばかりで生きてゐた譯でもない。二人はやつぱり年若い夫と妻とであつた。
金魚 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
「いつたい遠野は何のために今朝やつて来たのだ。」それを苛々いら/\と考へながら道助は跳ね上るやうに半身を起こした。昨日の酒の所為せゐか頭が石のやうに重い。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
不死身のやうなおやぢのわからずに苛々いら/\して、三田はぶかぶかの靴を穿いてゐる足に力を入れてくうを蹴つた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
或る日社から早目に歸つて來た圭一郎の苛々いら/\した尖つた聲に、千登世はひとたまりもなくすくみ上つて
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
欣之介の傷ついた心には、その後の曇天が以前にも増して一層暗欝に一層いとはしいものに感じられた。彼は、世にれられない不遇の詩人のやうにいたづらに苛々いら/\した。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
苛々いら/\しながら、たわいのない、あたかぼんとお正月しやうぐわつ祭禮おまつりを、もういくると、とまへひかへて、そして小遣錢こづかひせんのないところへ、ボーンと夕暮ゆふぐれかねくやうで、なんとももつ遣瀬やるせがない。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
渠は心が頻りに苛々いら/\してるけれど、竹山の存外平氣な物言ひに取つて掛る機會がないのだ。一分許り話は斷えた。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
大久保おほくぼはちらとそれをると、いきなり険悪けんあくをして、「ちよツ」と苛々いら/\しげにしたうちしながら、こぶしをかためて、彼女かのぢよ鼻梁はなばしらたかとおもふほどなぐりつけた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
一日の勞務が終ると、寄食してゐる叔父の家に歸り、入浴して晩餐の卓にむかふのであるが、恰も殖民地に特有なもののやうに思はれる苛々いら/\した心状を免れる事は出來なかつた。
貝殻追放:011 購書美談 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
ほこりの全部としてゐる隣人に対する偽善的行為に、哀れな売名心に、さうした父の性格の中の嘘をそつくり受け継いでゐて何時も苛々いら/\してゐる私は、苦もなく其処そこに触れて行つて父を衝撃した。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
お菊 (苛々いら/\して。)えゝ、なんとしたものであらう。
番町皿屋敷 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「その顔色はどうしたんだ。」と彼が苛々いら/\と尋ねた。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
苛々いら/\するから、此方こつちはふてくされで突掛つゝかゝる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
恰度野村の前にある赤インキの大きな汚染しみが、新らしい机だけに、胸が苛々いら/\する程血腥い厭な色に見える。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
頼りにならない相手の返事に少々苛々いら/\して、食臺についた肱にも力が入つた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
たえ子はそのばんも女中のお春と二人きりのさびしい食卓に向つて、腹立しさと侮辱と悲哀とにみたされた弱い心をひて平気らしくよそほひながらはしを執つてゐたが、続いて来る苛々いら/\しい長い一夜を考へると
復讐 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
顏一體を波立つ程苛々いら/\させ乍ら、「肉の叫び! 肉の叫び!」と云つて入つて來た事があつた。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
胡坐あぐらをかいて居た事がなかつたらうかと考へたが、これも甚だ不正確なので、ハテ、何處だつたかと、氣が少し苛々いら/\して來て、東京ぢやなかつたらうかと、無理な方へ飛ぶ。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
何も彼も興味が失せて、少しの間も靜かにしてゐられないやうに氣が苛々いら/\してゐた。
不穏 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
苛々いら/\した心地で人なだれに交つて歩いた事、兩國近い河岸の割烹店レストーランの窓から、目の下を飛ぶ電車、人車、駈足をしてる樣な急しい人々、さては、濁つた大川を上り下りの川蒸汽、川の向岸に立列んだ
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
信吾は苛々いら/\して不快な感情に支配されてゐる。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)