こえ)” の例文
丁度僕がゐるときこの二人が総理大臣になつたあげく立廻りに及び各々こえビシャクをふりまはして町中くさくしてしまつたことがあつた。
居酒屋の聖人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
ねかへさうとすれば、はゝおほきなこええたからだが、澤庵漬たくあんづけのやうに細つこいあたしの上に乘つて、ピシヤンコにつぶしてしまふ。
お灸 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
また、あつ日盛ひざかりには、らくらしているような人々ひとびとは、みんな昼寝ひるねをしている時分じぶんにも、はたけこえをかけてやりました。
大根とダイヤモンドの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
獄中にあった北条残党の武士は、毎日のように曳き出しては首を斬り、六条獄門外のおうちの木の根に大きな穴をほって、樗のこえにしてしまった。
馬が二ひき来ました。はたけには、草や腐つた木の葉が、馬のこえと一緒に入りましたので、粟やひえはまつさをに延びました。
狼森と笊森、盗森 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
一所ひとところの本屋の主人あるじである、こえ太つた体へこてこてと着込んだ婆さんが僕をつかまへて「新しいロスタンの脚本なんかよりユウゴオ物をお読みなさい」
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
小川の魚をすくっては百姓達に怒鳴りちらされ、雲雀ひばりの巣を探っては、こえびしゃくで追っかけまわされた。そんな苦々しい思い出ばかりがいてくる。——
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
かぎろいの春の光、見るから暖かき田圃たんぼのおちこち、二人三人組をなして耕すもの幾組、麦冊むぎさくをきるもの菜種にこえを注ぐもの、田園ようやく多事の時である。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
その時ちょうど、こえ運びのフィリップが門内へ乗りこんで来ましたので、わたしは渡りに舟とばかり、——
肝試きもだめしの会は、書生の杉山が安斉先生にお裏山の畑のこえだめへ投げこまれて、おやしき中の評判になった。損をしたのは伯爵だった。しかしさすがにお殿様だ。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「お前はむさんこにこえを振りかけるせに、あれは嫌うとるようじゃないかいの。」ばあさんは囁いた。
老夫婦 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
かく思いて余は二人の医官を見較ぶるに一方はせて背高く一方はこえて背低しかくも似寄たる所少き二人の医官が同様の見立を為すは殆ど望みがたき所なれば猶お彼等の言葉を
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
此馬冬こもりのかひやうによりてやせるとこえるありて、やせたるは馬ぬしまづしさもしるゝものなり。
前科三犯の元さんというこえかつぎだって、もっと親しみのある顔だったし、役場の浜本さんがいくらへんくつで、無口でも、渋柿というあだ名の渡辺さんがいくら渋っているときでも
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
「違うよ、御用人、そんな腐った女のような事をするものか。俺はいかにも、横山一家に怨みがある。わけても若殿の時之助には、足を一本叩き折って、こえたごへほうり込みたいほどの怨みがある」
岡裾も青みそめたりこえやると揺れかつぐ影もはや寒むからず
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「此日御蔭山(これさへ此度はじめて参りし也)より廻りし所、茶屋等一向無之、うゑ甚し。人窮する時驚人之句あり。こえし身の我大はらもひだるさにやせ行やうにおもひけるかな。此一条皆川へ御話可被下候。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
こえ太りたる雌鼠を、油に揚げて掛けおくなり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「そりゃあ、生きてる馬だから、こえっかも知んねえが、それにしても、骨と皮ばかりでねえか? 俺なら、こんな痩馬さ、三十円は出したくねえなあ。余ってる金でもある時で、十円ぐらいなら、買うかも知れねえども。」
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
小春日を鳥がこえをつついてる
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
雪の上に流しかけをり麦のこえ
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
また、ちょっと見たのではための表皮一面、はえの上に蠅がたかって、まるで黒大豆でも厚く敷いたような密度だから糞色ふんしょくも見えずこえの匂いもしないのである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくしたちが柄杓ひしゃくこえを麦にかければ、水はどうしてそんなにまだ力も入れないうちに水銀すいぎんのように青く光り、たまになって麦の上に飛びだすのでしょう
イーハトーボ農学校の春 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
此馬冬こもりのかひやうによりてやせるとこえるありて、やせたるは馬ぬしまづしさもしるゝものなり。
こえタゴかついで勇敢にやっているという時節柄だが、彼だけは一段歩たんぶの私田も残さず、それというのが、彼はひところ何々会社取締役というようなことを三つばかり兼ねていたようなこともあるから
淪落の青春 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
こえ臭い侭の身体のある誇り
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
はたけには、草やくさった木の葉が、馬のこえと一緒に入りましたので、粟や稗はまっさおに延びました。
狼森と笊森、盗森 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「なかなかよくみのっておりますな。うねこえも、母上がお手ずからおやりになりましたか」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夕方カモ七がそこを通りかかると、上からこえオケが落ちてきた。
しかも、自分の老母は、いまもって、老いの手にくわを持ち、菜に水をそそぎ、瓜や茄子にこえをやることを怠りません。……不肖の子が、ひそかにその心をむに、こうであろうと思うのです。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)