つづ)” の例文
その五悪段というものはこの濁悪世界の悪人共がいろいろの手段を尽してする悪事を五つにつづめて適切にありがたく説明されてある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それをつづめてニヒナヘとし、またにひなめとしたという本居説は、いよいよ心もとないものとなりそうに、自分などには感じられる。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私の写生文はこれでしまいであるが、つづめて一言とすることが出来る。どうも高野山上の仏法僧鳥のこえは、あれは人工ではなかった。
仏法僧鳥 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
つづめて云って了えば斯うである。哀れな被告、高と云う名の朝鮮人は、裁判長のやさしい質問に対し、一気に答えるのであった。
職工と微笑 (新字新仮名) / 松永延造(著)
そしてその手紙の要点をつかまえようと努力した。手紙の内容をつづめて見れば、こうである。政治は多数を相手にした為事しごとである。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
草山口論ということをつづめて、「山論さんろん」という言葉で通って来たほど、これまでとてもその紛擾ふんじょうは木曾山に絶えなかった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
つづめて申しますなら、酷薄非人情、鬼畜の如くに目されて来たこの真名古も畢竟一個の人間であったというたぐいない発見によることなのであります。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ただ前の続きとして、事実だけを一口につづめて云うと、彼は姉の子でなくって、小間使の腹から生れたのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つづめればそういう意味だったが、それをうまく言えないことが、何か不機嫌な美佐子をいよいよ不機嫌にした。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
ハシヒトつづまりてハシトとなり、さらにハシタとなるに不思議はない。そして後に武家の中間ちゅうげんと呼ばれる下男は、そのハシタオトコを音読したものに外ならぬ。
賤民概説 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
デ一言で私の言うことをつづめれば、品性を養うことは、今日日本の教育制度に於ては更にない。ないからというてただに教育者をなじるのではない、責むるのではない。
今世風の教育 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかしつづめていへば私の歴史は、かうした呪はれた反省癖の変化の歴史ではないかと思つてゐる。
母たち (新字旧仮名) / 神西清(著)
これをごくつづめて断言すれば、婦人を苦しめた国は衰え、婦人に相当の地位を与えた国は進む。
女子教育の目的 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
一般の民衆が日常使う用器が民藝品なのです。これをつづめて民器とも呼び得るでしょう。何人の生活にも必要な調度、即ち衣服、家具、食器、文房具等、皆この中に入ります。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
皇室では内帑ないどを御つづめ遊ばすという。浜口蔵相は大整理を断行するという。銀行は大合同になりそうだという。復興債券が売れたのは、不景気でもがいている人間が多いためだという。
つづめて「童話」としるし、これを、ドウワまたはムカシバナシとませている。
『グリム童話集』序 (新字新仮名) / 金田鬼一(著)
つづめて言えば、楸はわが国のあずさかきささげかという疑いである。牧野さんはいう。普通あかめがしわをあずさに当てているが、昔わが国で弓を作った木は、今でも秩父ちちぶであずさと称している。
つづめていえば、永い年代の間、人間味のしみ込みの深さである。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
之をつづめてしまへば僅か四人か五人かの犯罪事案である。
逆徒 (新字旧仮名) / 平出修(著)
破壊だの、つづめて言えば悪と仰ゃるものは
語れつづまやかにかつふさはしく。 七六—七八
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
私の写生文はこれでしまひであるが、つづめて一言とすることが出来る。どうも高野山上の仏法僧鳥のこゑは、あれは人工ではなかつた。
仏法僧鳥 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
しかし藩の必ずこれを阻格そかくすべきことは、母子皆これを知っていた。つづめて言えば、弘前を去る成善には母をとするに似たうらみがあった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
もとは、江戸一といわれた捕物の名人、仙波顎十郎も、この節はにわか駕籠屋で、その名もつづめて、ただの阿古長あこちょう
これをごくつづめてどんな方面に現われるかと説明すればまず普通の言葉で道楽という名のつく刺戟しげきに対し起るものだとしてしまえば一番早分りであります。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つづめて言えば、人類の交際は明白な直道で、いじけたものでもなく、曲がりくねったものでもないのに、何ゆえに日本はこんなに外国を嫉視しっしするのであるか。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
少くも主鷹司たかづかさの餌取がエタを構成するに至った衆流中の一つたることを認めるものである以上、エトリの語がつづまってエタとなったという事についても、しいて反対するものではない。
「エタ」名義考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
そのいろいろな話をつづめて言いますと、ラサ府にはネパールのパルポ種族の商人が三百名ばかり居る。これはネパールの国民中でも商売には最も機敏なたちであって宗教は仏教を奉じて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
その彼にも、その苦痛を、冷静に、淡々たる一句につづめて表現し得る或る日が到来した。少しばかりの余裕が心の中にもたらした賜物たまものといっても好い。鶴見にはその日にはじめて発心ほっしんが出来たのである。
つづめていえば、稲日野は加古川の東方にも西方にもわたっていた平野と解釈していい。可古島は現在の高砂たかさご町あたりだろうと云われている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
つづめて言えばこれだけである。そして反対に情調のある文芸というものが例で示してあったが、それが一々木村の感服しているものでなかった。
あそび (新字新仮名) / 森鴎外(著)
左右大臣中の一人ひとりは必ず大将をもってこれに任じ親しく陛下の命を受けて海陸の大権を収める事、これをつづめて言えば武政をもって全国を統一する事である。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
つづめていえば、二人は夢中になって物干のパンティのとりあいをしているので、ミドリさまが
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
右はただ自分の心覚えまでに、原文十一頁にわたる柳田君の貴重な大論文を、わずかにその四分の一にも足らぬほどの分量につづめたのであるから、十分に意をつくしておらぬのはやむをえぬ。
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
さてその最後の判断と云えば善悪とか優劣とかそう範疇はんちゅうはたくさんないのですが無理にもこの尺度に合うようにどんな複雑なものでも委細御構おかまいなく切りつづめられるものと仮定してかかるのであります。
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それをつづめて言えば、旧冬尾州の御隠居を総督として長州兵が京都包囲の責めを問うた時、長州藩でもその罪に伏し、罪魁ざいかいの老臣と参謀の家臣らを処刑して謹慎の意を表したことで
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「カワタ」の「タ」は弟人おとうとをオトト、素人しろうとをシロトという如く、皮人かわうとをカワトとつづめ、それがカワタと訛ったものか、或いは番太ばんた売女ばいた丸太まるた・ごろた(丸くごろごろする石)などの「タ」の如く
エタ源流考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
つづめていえば、万葉時代に月光の形容にアカシを用いた。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
つづめて言へば義憤であらう。
当流比較言語学 (旧字旧仮名) / 森鴎外森林太郎(著)
それを笑うために出て来た人があの大人だ。大人が古代の探求から見つけて来たものは、「直毘なおびみたま」の精神で、その言うところをつづめて見ると、「自然おのずからに帰れ」と教えたことになる。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)