窓枠まどわく)” の例文
わたくしは一さいがくだらなくなつて、みかけた夕刊ゆふかんはふすと、また窓枠まどわくあたまもたせながら、んだやうにをつぶつて、うつらうつらしはじめた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
窓枠まどわくを丁度いい額縁がくぶちにして、ねずみがかった背景の奥からくっきりとその白い顔の浮び出ているのが非常に美しく見えたので、私はおもわず眼を伏せた。
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
三沢は団扇うちわを使いながら、「蝙蝠こうもりが飛んでやしないか」と云った。看護婦の白い服が窓のそばまで動いて行って、その胴から上がちょっと窓枠まどわくの外へ出た。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
窓枠まどわくのがたがた鳴る音や、なおも吹きつのる嵐のいつもの雑然たる騒がしい音のなかでは、そんな物音はただそれだけでは、もとより私の注意をひいたり
金網の張ってある窓枠まどわくに両手がかゝって——その指先きに力が入ったと思うと、男の顔が窓に浮かんできた。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
僅かに残光ざんこう窓枠まどわくの四角な形を切り出していたが、それも取紙とりがみで吸い取られるように薄れていった。そして遂に黒インキのような絶対暗黒がやって来た。
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、しずかにたずねると、ピロちゃんは急にハーモニカを投げすてて、窓枠まどわくにしがみついて泣き出した。
庸三は時々ころがりそうになったが、風も吹いていたので、揺れる拍子に窓枠まどわくに頭をぶちつけそうになって、その瞬間半分ガラスを卸してあった窓から帽子が飛んでしまった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
紳士の顔は、うしろのもたれと窓枠まどわくの間へはまり込むようにして居睡いねむっているので、帽子が前へズレて、半分隠されたようになっているが、それは、さっきのままの顔である。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
そして、狹い窓枠まどわくから入つて來る、ほのかな光が、百年も昔の寢臺ベッドを照らしてゐた。
窓枠まどわくを破ることぐらいは出来たかも知れないけれども、妙子が窓の外をうかがうと
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
博士は手に本を持ちながら、頭を背後うしろ窓枠まどわくに寄せ掛けて目をねむつた。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
三脚しか椅子の置いて無い部屋の内には足立、菅の外に同級の寄宿生も二人居て、腰掛けるもあり、立つもあり、濃い色のペンキで木目に似せて塗った窓枠まどわくの内側のところにりかかるも有った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何もかも人まかせにして窓枠まどわくに頭をもたしていた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
磨硝子すりがらす、あるは窓枠まどわくれて夕日ゆふひさしそふ。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
私はかすかな心のくつろぎを感じながら、うしろ窓枠まどわくへ頭をもたせて、眼の前の停車場がずるずると後ずさりを始めるのを待つともなく待ちかまえていた。
蜜柑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
同じように黒ずんだかべ、同じような窓枠まどわく、その古い額縁がくぶちの中にはいって来る同じような庭、同じような植込み
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そういって、くらやみでも目の見える船長は、セキストン団長の持っている双眼鏡をつかんで、それを船橋ブリッジ窓枠まどわくにおしつけ、そして正しい方向へむけてやった。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
窓枠まどわくの左の方に大きな錐穴きりあながあけてあって、非常に太い釘がほとんど頭のところまで打ちこんであった。もう一つの窓を調べると、同様な釘が同様に打ちこんであった。
しかし、その朝は、曇つて寒かつた——雨は繁く窓枠まどわくを打つてゐた。玄關のドアが開いてセント・ジョンが出て行くのが聞えた。窓を透して見ると、彼が庭をよぎつて行くのが目に這入つた。
日本風の硝子ガラスの引戸の窓に、洋風の窓枠まどわくを組み込んで開き窓に改めさせなどしたこともあったが、しかし子供たちのための庸三の家のこの増築は、彼女にとってはあまり愉快なものではなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
薄暗いこちらの廊下ろうかにいると、出窓はこの家を背景にした、大きい一枚ののように見える。巌乗がんじょうかし窓枠まどわくが、ちょうど額縁がくぶちめたように見える。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼女の向いの座席の窓枠まどわくは、鋼鉄車こうてつしゃのことですから向って左端さたんからはかって十センチのはばの、内面に板を張った縦長たてながの壁となりそれから右へ四角い窓が開いています。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いよいよその別荘の真白まっしろさくが私たちの前に現われた瞬間しゅんかんには、その柵の中の灯りの一ぱいに落ちている芝生しばふの向うに、すっかり開け放した窓枠まどわくの中から、私の見覚えのある古い円卓子まるテエブルの一部が見え
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その言葉の終らないうちに、又、前よりも一層、激しい動揺が起って、大佐は、スルリと滑りそうになったのを、やっとのことで、窓枠まどわくにすがりついて、事なきを得た。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、やがて發車はつしやふえつた。わたくしはかすかなこころくつろぎをかんじながら、うしろ窓枠まどわくあたまをもたせて、まへ停車場ていしやぢやうがずるずるとあとずさりをはじめるのをつともなくちかまへてゐた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼の身躾みだしなみの一つであるポケット・ランプをパッと點けると、まずネオン横丁の入口に最も近いカフェ・オソメの前にしゃがんで戸口の前や、ステンド・グラスの入った窓枠まどわくなどを照し
ネオン横丁殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とたんにどッと降りだしたしのをつくような雨は、風のために横なぐりに落ちて、窓枠まどわくをピシリピシリと叩いた。密林がこの小屋もろとも、ジリジリと流れ出すのではないかと思われた。
(新字新仮名) / 海野十三(著)