ほこり)” の例文
清潔好きれいずきかれには派手はで手拭てぬぐひ模樣もやう當時たうじほこりひとつであつた。かれはもう自分じぶんこゝろいぢめてやるやうな心持こゝろもち目欲めぼしいもの漸次だん/\質入しちいれした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
或時は、着物の出来るのが嬉しかったり、或時は財産を譲渡されると云う、遠い先のことに朧げなほこりを感じていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
風の、そのあわただしい中でも、対手あいてが教頭心得の先生だけ、ものとわれた心のほこりに、話を咲せたい源助が、薄汚れた襯衣しゃつぼたんをはずして、ひくひくとした胸を出す。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
われ一人の女性を救ひ、茲に妻となして、永恒の赤縄ゑにしを結ぶと雖も、いささかも亦浮きたるほこりを思はず。人間の悲願いよいよ高けれども、又あながち世の鄙俗いやしきを棄てず。
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
善美や儀式に飽いた将軍家は、信長の喰べるのを見て、年も若いし、田舎者には、都の物が、何を喰べても美味なのであろうと、せめて、そう思うことで、ほこりを持していた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
死ぬるともゆずらぬほこりを持ち、国々の隅々にいたるまで、撩乱りょうらんせよ、である。
百歳にして恋を得たとほこりがましく仰有っても、いいくらいよ、あたいはもう金魚じゃないわね、一枚の渋紙同様のおじさまだって生きていらっしゃるんだもの、一たい何処にいのちがあるのよ
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
すべてを与へたのだといふほこりのやうな気持が湧いてゐるにはゐた。
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
あはれなんぢらがほこり高かる心には暴風あらしもなどか今さらに悲しからむ。
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
「うむ、まくらおつゝかるやうにつたからえゝこたえゝに」卯平うへいのいふのをきい勘次かんじいくらかほこりもつまたしろ木綿もめんた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
養家にいた今までの周囲の人達に対するほこりを傷つけられるようなのも、肩身が狭かった。作太郎に嫁が来たと云ううわさが、年のうちに此方こっちへも伝っていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しかし私には白昼夏の光のふりそそぐ日比谷公園の音楽堂の上に、凡ての満足と充実した凡ての生の歓喜とを以てその古琴独奏のほこりを衆人の目前に曝すだけの勇気はない。そはあまりに無惨である。
桐の花とカステラ (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
久米一は元より柿右衛門の神経質なさくを嫌い、古伊万里こいまりの老成ぶったのはなおとらなかった。で、この増長天王にあらん限りの華麗と熱と、若々しさとほこりと、自分の精血せいけつそそごうとする意気をもった。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けだし劇場に向って、高くかざした手の指環の、玉のほこり幻影まぼろしである。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
帰るときには、お島のいらいらした感情が、すっかりなだめられていた。そして明日あしたから又初めての仕事に働くと云うことが、何かなし彼女のほこりそそった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
さら開墾かいこんだい一の要件えうけんである道具だうぐいま完全くわんぜんして自分じぶんげられてある。かれういふ辛苦しんくをしてまでも些少させう木片もくへんもとめて人々ひとびとまへほこりかんじた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
けだし劇場に向つて、高くかざした手の指環の、玉のほこり幻影まぼろしである。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
真素肌ますはだのましろなる、きぬつけぬ常若とこわかほこりもて
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
石油ににじむ赤き雑種児あひのこほこりを思ひ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)