痼疾こしつ)” の例文
なおついでにいえば、あのときの獄中生活でできた皮膚病も痼疾こしつとなったかたちで、今なお頭の毛の根はそれが治りきっていない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
肩の凝るのは幼少の時からの痼疾こしつだったがそれが近ごろになってことさら激しくなった。葉子はちょいちょい按摩あんまを呼んだりした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
が、その頃痼疾こしつの肺がだんだん悪くなりかけましたので、転地療養の為、妻の実家即ち私の家の所在地なる千葉町へ参ったのであります。
ある抗議書 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
父は痼疾こしつの胃がひどく悪くて動けず、泣いて無念がったということを伊緒はあとで聞いた。義弟の郁之助も泣いたひとりだった。
日本婦道記:春三たび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
初期の肺病患者には漢方でも相当の手術てだての出来るものですから薬を施すけれども、痼疾こしつとなってとても癒らぬ奴には薬をやらん。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
痼疾こしつのあるのは別だが、そうでなくて年中あっちが悪い、こっちが悪いとぐずぐずしている人がある。多くは神経質で思いすごしの人に多い。
良人教育十四種 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
支那社会の中産階級以下に於て、最も甚だしい害毒を流しつつある二大痼疾こしつがある。それは一を青幇といい、他を紅幇という。
「否、立派な健康体です。いて名をつければ仮病けびょうですな。これは学生時代からの痼疾こしつだから、もう快癒かいゆの見込はありません」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そうかと思うと系図などを持ちだして神がかり的なインネンをつけたり、何千年来痼疾こしつの精神病者の感濃厚な怪人物が多い。
人生三つの愉しみ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
つまり夫人は家つきの我儘わがまま娘で痼疾こしつの肺結核はあり、御面相は余り振わず、おまけに強度のヒステリーと来ているんだ。
一枚の切符 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私は痼疾こしつと云っても肝臓や盲腸で、手当や日頃の注意で癒って来ているものばかりであるし、本当に安田さんにゆく迄はいやな不安な気持でした。
子供等と志村しむらの家へ行った。崖下の田圃路たんぼみちで南蛮ぎせるという寄生植物を沢山採集した。加藤首相痼疾こしつ急変して薨去こうきょ
震災日記より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
雷のことを聞くのが痼疾こしつだから、もちろんこの女をつかまえても、忘れずに雷のことだけは、根掘り葉掘り聞いた。
雷嫌いの話 (新字新仮名) / 橘外男(著)
それは領内の窮民きゅうみんまたは鰥寡かんか孤独の者で、その身がなにかの痼疾こしつあるひは異病いびょうにかゝつて、容易に平癒へいゆの見込みの立たないものは、一々いちいち申出ろといふのであつた。
梟娘の話 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
あるいは某医師の養生法は山師流の養生法に非ず、我家族の一人は現にこの法を用ゐて十年の痼疾こしつとみにえたる例あり、君も試みては如何などいはるるもあり
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
この老人は、直樹の叔父にあたる非常な神経家で、潔癖がこうじて一種の痼疾こしつのように成っていたが、平素ふだんかんの起らない時は口のきようなども至極丁寧にする人である。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
安斎は遺伝の痼疾こしつを持っている。体が人並でない。こんな車の行く処へは行かれないのである。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これを伝染病にあれ痼疾こしつにあれ、何病にも用いて効能あるように思うは愚の至りではないか。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
そのとき、君長ひとこのかみの面前から下がって来た一人の宿禰すくねが、八尋殿やつひろでんを通って贄殿の方へ来た。彼は痼疾こしつの中風症に震える老躯ろうくを数人の使部しぶまもられて、若者の傍まで来ると立ち停った。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
痼疾こしつのように、吉良兵曹長の心にくう何物かが、彼をかり立てているようであった。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
なおその上に、ラスコーリニコフの痼疾こしつ的なヒポコンデリイ症状が、医師のゾシーモフや、昔の学友や、下宿のおかみや、女中や、その他多くの証人によって、確実に証明された。
すでに『かもめ』や『ヴァーニヤ叔父おじさん』などの成功を経験していた戯曲の世界へ筆を転じようとする年ごろであり、彼の生活の上では、胸の痼疾こしつがようやく決定的な段階に入って
自分は彼の痼疾こしつが秋風の吹きつのるに従って、漸々ぜんぜん好い方へ向いて来た事を、かねてから彼の色にも姿にも知った。けれども今の自分と比較して、彼がこうゆったり構えていようとは思えなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
山のうるはしとふも、つちうづたかき者のみ、川ののどけしと謂ふも、水のくに過ぎざるを、ろうとして抜く可からざる我が半生の痼疾こしつは、いかつちと水とのすべき者ならん、と歯牙しがにも掛けずあなどりたりしおのれこそ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
勇助自身は自分の病気を肋膜ろくまく痼疾こしつだと云っていたが、そんなことを彼が自分でも信じていないくらいは、誰にも理解することができた。
溜息の部屋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それを、あの僧の如きは、持って生れた痼疾こしつのように、時を選ばず、所をきらわず、猛々たけだけしいことのみ吠えておる。——覇気はきがありすぎて好きになれぬ
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貴方なんぞ栄養はおよろしいし、痼疾こしつはおあんなさらないし——大丈夫、十日もすれば御全快でしょう
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
事務長と木村とを目の前に置いて、何も知らない木村を、事務長が一流のきびきびした悪辣あくらつな手で思うさま翻弄ほんろうして見せるのをながめて楽しむのが一種の痼疾こしつのようになった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
なおこのころ彼は、ピョートル大帝の時代に取材する歴史小説をもくろんで、しきりに材料の蒐集しゅうしゅうに努めたけれど、ほどなく痼疾こしつが悪化したため、この計画はついに実現されなかった。
痼疾こしつの眼病がいよいよ重くなると共に、かれの技芸はいよいよ進歩するように思われたが、かの「助六」で福山のかつぎを勤めたのを名残りとして、当分は舞台に立つ見込みがないので
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かれの病はかなり篤いと、襄陽じょうようのさる医家から、耳にしています。痼疾こしつがなくても、すでに年齢としが年齢ではありませんか。その子たちは、これまた、いうに足りません。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御承知のように痼疾こしつがあって、余命のほどもわかりません、私で御奉公のできることなら、この首をけてもお役に立ちたい、しんじつそう思って相談にでかけたのです
「見当がつきません」と登は答えた、「躯にはまったく異状がありませんし、瘡毒などの痼疾こしつがあるとも認められませんし、ことによると無意識の仮病ではないかと思います」
赤ひげ診療譚:06 鶯ばか (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
今なお足の傷手いたでえないので、歩行のときは甚だしい跛行びっこをひく。(これは痼疾こしつとなって生涯の不具となった)——で、彼は、栗山善助に命じて、軽敏に乗用できる陣輿をつくらせておいた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「されば、昨年からの痼疾こしつの病のため、心ならずも」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)