あやし)” の例文
さしも遣る方無くかなしめりし貫一は、その悲をたちどころに抜くべきすべを今覚れり。看々みるみる涙のほほかわけるあたりに、あやしあがれる気有きありて青く耀かがやきぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
わがはかるところ正しくば、汝の登るはとある流れの高山よりふもとに下り行くごとし、何ぞあやしとするに足らんや 一三六—一三八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
若い亭主を持っている印判屋の上さんから、男女間の性慾について、時々聞かされることのあるお島は、それを不思議なことのように疑いあやしまずにはいられなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
一六遍参へんざんの僧今夜ばかりの宿をかり奉らんとてここに人を待ちしに、おもひきやかくあやしめられんとは。一七やせ法師の強盗などなすべきにもあらぬを、なあやしみ給ひそといふ。
縈繞えいじょうそうにわかにこれを解かしむ、血流数升、白これをあやしみ、ついに紙帖中に封じ、衣箱内にかくす、一日客を送りて滻水に至る、出して諸客に示す、客曰く、なんぞ水を以てこれを試さざる
蘭軒は平素身辺に大小種々のはこを置いた。恐くは小什具せうじふぐを貯へ、又書紙ををさむる用に供したのであらう。起居不自由なる蘭軒が篋篚けふひの便を藉ることの多かつたのは、固よりあやしむに足らない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
疑うべき静穏せいおん! あやしむべき安恬あんてん! 名だたる親不知おやしらずの荒磯に差懸さしかかりたるに、船体は微動だにせずして、たたみの上を行くがごとくなりき。これあるいはやがて起らんずる天変の大頓挫だいとんざにあらざるなきか。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いまものうてくだされ、天人てんにんどの! さうしてたかところひかかゞやいておゐやる姿すがたは、おどろあやしんで、あと退さがって、しろうして見上みあげてゐる人間共にんげんども頭上とうじゃうを、はねのあるてん使つかひが、しづかにたゞよくもって
思ひに思ふのみにて別れて後の事は知らず、如何いかなるわづらひをやさまでは積みけん、よはひよりは面瘁おもやつれして、あやしうも物々しき分別顔ふんべつかほに老いにけるよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
我即ちふ。かの大いなる驚異あやしみにつきてはわが心既に足りて安んず、されどいかにしてわれ此等の輕き物體をえてのぼるや、今これをあやしとす 九七—九九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
一夜大蜥蜴燈の油を吸いくしたちまち消失するを見、あやしんで語らずにいると、明日王曰く、われ昨夜夢に魔油を飽くまで飲んだと、嫗見しところを王に語るに王すこしくわらうのみとあれば
その子のせし後、彼は再び唯継の子をば生まじ、と固く心に誓ひしなり。二年ふたとせのち三年みとせの後、四年よとせの後まであやしくも宮はこの誓を全うせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
されば告げよ、われ神をして請ふ、汝等をかくらす物は何ぞや、わがあやしむ間我にはしむる勿れ、心にほかの思ひ滿つればその人いふ事よろしきをえず。 五八—六〇
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
イアソンが耕人たがやすひととなれるをコルコに渡れる勇士つはもの等の見し時にもまさりて汝等驚きあやしまむ 一六—一八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)