田舎漢いなかもの)” の例文
ソコで其の片股かたももだけ買う事に決めて、相当のあたいを払い、もしも暇ならば遊びに来いと云うと、田舎漢いなかものの正直、其の夜再び出直して来た。
話が分ってみると、権之助なるこの若者は、いかにも粗朴な田舎漢いなかもので、最初の間違いは、その率直な美点からむしろ起ったものといえる。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また東京にて花柳に戯れ遊冶ゆうやにふけり、放蕩無頼の極に達する者は、古来東京に生れたる者に少なくして、必ず田舎漢いなかものに多し。
経世の学、また講究すべし (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
で、その尻上がりの「ですか」を饒舌しゃべって、時々じろじろと下目しために見越すのが、田舎漢いなかものだとあなどるなと言う態度の、それがあきらかに窓から見透みえすく。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
東京なら田舎漢いなかものといって馬鹿にするところだけれど、京都の人は打算的だから大切だいじにする。お上りさんは大財源だからね。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
動物園の前に大口あいて立つ田舎漢いなかもの、乗車をすゝむる人力じんりき、イラッシャイを叫ぶ茶店の女など並ぶるはくだなり。
半日ある記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
おえねえ頓痴奇とんちきだ、坊主ぼうずけえりの田舎漢いなかものの癖に相場そうば天賽てんさいも気がつええ、あれでもやっぱり取られるつもりじゃあねえうち可笑おかしい。ハハハ、いいごうざらしだ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ドダイ西洋料理を旨がる田舎漢いなかものでは食物くいものはなしは出来ないというのが緑雨の食通であったらしかった。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
前様めえさまには始めてお目に懸って意趣遺恨のある理由わけがござえません、わしなんにも知んねえ田舎漢いなかもので、年も取ってるし、御馳走の酒を戴き、酔払いになったもんだから
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
すると、誰れも口をつぐんでしまって知らぬ顔をする。私はカッとなった。で、自分一人でその金を払おうかと思ったが、この田舎漢いなかもの卑吝けちな奴達のお先に使われるような気がして止した。
黄昏 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
惜しいことには夭死わかじにした。今居ったなら一廉ひとかどの人物となっておるに相違ないと思う。何でも議論風発と云う勢で、そうして東京育ちの弁を振うもの故、予の如き田舎漢いなかものはいつも遣りこめられた。
鹿山庵居 (新字新仮名) / 鈴木大拙(著)
間もなくその都雅とがな生活を捨てて、本来の田舎漢いなかものかえった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
「そうでございましょうか、私達のような一度も往ったことのない田舎漢いなかものは、どうかして東京に住みたいと思いますわ、花のように着飾ったきれいな方が、ぞろぞろとまちいっぱいになって歩いておりましょう、ね」
草藪の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
田舎漢いなかもの無暗むやみ揮毫きごうを頼むからね。僕の親父なんかも時々書かせられるので六十の手習という奴をやっているよ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「知らないか、田舎漢いなかもの、予の側には常に、虎痴許褚きょちょという猛将がおることを。——なんで天下の鼠をはばかろうや」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その間抜けさ加減だから、露店ほしみせの亭主に馬鹿にされるんだ。立派な土百姓になりゃあがったな、田舎漢いなかものめ!
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その状、あたかも田舎漢いなかものが都会の住居に慣れて、故郷の事物を笑うものに異ならず。ますます洋学に固着してますます心志の高尚なりしもゆえんなきに非ざるなり。
田舎漢いなかもの小力こぢからもあるものでございますから、川中から這いあがって参りながら、短いのを引き抜き
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
チョタとは何だ、田舎漢いなかもののことかネ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
承知で黙っていた次第わけでもないが、実は君の蝙蝠傘には東京駅以来すくなからず辟易へきえきしていたのさ。だって君は田舎漢いなかもののように蝙蝠傘をかつぐ癖があるだろう。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
自体、内匠頭とやらは、吝嗇家りんしょくかの物知らずとみえる。こんな、田舎漢いなかものに、堂上方の歓待役もてなしやくが勤まってたまろうか
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と答うれば、戸をひらきて、医師とともに、見も知らぬ男り来れり。この男は、扮装みなり、風俗、田舎漢いなかものと見えたるが、日向ひなたまばゆき眼色めつきにて、上眼づかいにきょろつく様、不良よからやからと思われたり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と私は新橋駅頭、先ず田舎漢いなかものを発揮した。東京は広い。中学校と言えば直ぐ分る郷里の町と違う。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しょせん、おれは一かい田舎漢いなかものよ。何やら分らぬことだらけだ。したが、その分らぬ小智恵では、なまじ帝座のめぐりへ近づかなんだ方が、かえってよかったことかもしれぬ。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紳士と、くだん田舎漢いなかもので、外道面げどうづらと、鬼のめん。——醜悪しゅうあく絶類ぜつるいである。
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
網はめかけの印だと聞いた。何分、日露戦争前の田舎漢いなかものだ。そこを念頭に置いて読んで戴きたい。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「ここは帝都の中心で、田舎漢いなかものの住居には、あまり晴れがましゅうござれば」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「宣伝するほどのこともないんだ。馬が何百頭も、山に飼ってあるけれど、そんなことを言えば、田舎漢いなかものって印象を与えるばかりだろう。それに一頭だって、僕のものになる見込はないんだ」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかし、それよりも、もっと彼を驚かしたのは、路向うから、怪美人の手招きにつれて、のそのそと、側へ寄って来た田舎漢いなかものだ。——それは、奉行所の牢内にいるはずのあの唖聾ではあるまいか。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ところが我輩は田舎漢いなかものだったから、東京の紳士は実に豪いものを飲んでいると思って、悉皆すっかり敬服してしまった。我輩も一つ毎日コーヒ湯の飲める身分になってやろうと発憤して勇猛心を起したのさ」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
肩の肉の厚い、顔のまろい、足の太い、ずんぐりとした田舎漢いなかものだ。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
持っている吉川君よりも田舎漢いなかものの君を推薦することだと言っている
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
田舎漢いなかものは、がたいと見た。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「rustic ぐらい知っているよ。田舎漢いなかもののことだ」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
田舎漢いなかものっ。斬れるのか」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「僕の村からなんて言えば田舎漢いなかものと思われるよ」
村の成功者 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)