玩具がんぐ)” の例文
殊に少年や少女などに画本えほん玩具がんぐを与える傍ら、ひそかに彼等の魂を天国へ誘拐しようとするのは当然犯罪と呼ばれなければならぬ。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
大きいものは一こくるれば小さきものは一しゃくも容れ得ぬ。しかしいかにしょうなるも玩具がんぐにあらざる限りは、皆ひとかどの徳利と称する。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
日曜日ごとに麦酒亭ビエルガルテンに集まって安価な感動を求めているドイツ人らの玩具がんぐになるために、それらを生きさせようとはしなかった。
その昔のマジノ要塞にしても、ジークフリード要塞にしても、このアカグマ地下本営にくらべると、玩具がんぐのようなものだった。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのあとに玩具がんぐのように小さい櫃が竹くぎを入れたらしく、仮輪かりわで形だけ整ったのがころがっている。かやはそれを取上げ
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
純次の机の上からつまらぬ雑誌類やくだらぬ玩具がんぐじみたものを払いのけて、原稿用紙に向った。純次はそのすぐそばで前後も知らず寝入っていた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
河には船が相変らず頻繁に通り、向河岸の稲荷いなりの社には、玩具がんぐ鉄兜てつかぶとかぶった可愛かわゆい子供たちが戦ごっこをしている。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これらの家屋は杉板と竹と網代の用法意匠余りに繊巧にして清洒なるがため風雨をしのぐ家屋と見んよりはむしろ精巧なる玩具がんぐの如き観なしとせず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これは物理的にもなかなかおもしろいものである。ヨーヨーも物理的玩具がんぐであるが、あれはだいたいは簡単な剛体力学の原理ですべてが解釈される。
錯覚数題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
土偶どぐうほかくまだとかさるだとかの獸類じゆうるいをつくつたものもまれにはることがありますが、これは玩具がんぐえて、よくそのかたちがそれらの動物どうぶつてをります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
出発の朝、ぼくは向島むこうじまの古本屋で、啄木たくぼく歌集『悲しき玩具がんぐ』を買い、その扉紙とびらがみに、『はろばろと海をわたりて、亜米利加アメリカへ、ゆく朝。墨田すみだあたりにて求む』
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
要に取って女というものは神であるか玩具がんぐであるかのいずれかであって、妻との折り合いがうまく行かないのは、彼から見ると、妻がそれらの孰れにも属していないからであった。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
玩具がんぐ問屋、煙草たばこ店、菓子店というような順序に並んでおり、路地に入ってみると、元庭であったところにもぎっしり家が建っており、そのあたりの住人も大体替ってしまっていた。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
種まく人たちが、今度文芸戦線と云う雑誌を出すからと云うので、私はセルロイド玩具がんぐの色塗りに通っていた小さな工場の事を詩にして、「工女の唄える」と云うのを出しておいた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そして、芸術(表現)は、かかるイデヤに対するあこがれであり、勇躍への意志であり、もしくは嘆息たんそくであり、祈祷きとうであり、あるいは絶望の果敢はかなき慰め——悲しき玩具がんぐ——であるにすぎない。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
でもクリストフは、知らず知らずに彼をいてるのだった。第一に、思うままになるおとなしい玩具がんぐとして、彼がきだった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
違い棚のついた小さい玩具がんぐのような茶箪笥ちゃだんす抽出ひきだしには、いろんな薬といっしょにべい独楽ごまやあめ玉の袋などもあった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
「瓦斯マスク! ほほう、えらいものをこしらえたものだね。近頃、こんな玩具がんぐ流行はやりだしたってえ訳かい」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
名はおさわといった。大正三年の夏欧洲おうしゅう戦争が始まってから玩具がんぐ雑貨の輸出を業とした兼太郎の店は大打撃を受けたので、その取返しをする目算で株に手を出した。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
とにかく、なに宗教上しゆうきようじようのためにつくつたもので、玩具がんぐではなかつたようです。もし玩具がんぐだつたら、人間にんげんかたちをそのまゝうつしたものにしなければならないとおもひます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
芸術が慰安的な「悲しき玩具がんぐ」であろうとも、或は生命いのちがけな「真剣な仕事」であろうとも、批判する側には関係がなく、いずれにせよ表現の魅力を有し、作品として感動させてくれるものが好いので
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
玩具がんぐ研究家の示教を得れば幸いである。
錯覚数題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その主想も、複雑から簡単へと次第に下っていって、最後にしか現われて来なかった。それは非常に知的な玩具がんぐだった。
余分の収入だというので皆に土産みやげがあった。一ばん上等が実枝の碁盤縞ごばんじまの洋服、それからクニ子には下駄、花子のころんころんと鳴る玩具がんぐなどが出た。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
家の内には竜子が生れた時から見馴みなれた箪笥たんす火鉢ひばち屏風びょうぶ書棚の如き家具のほかに茶の湯裁縫生花の道具、または大きな硝子ガラス戸棚の中に並べられた人形羽子板はごいた玩具がんぐのたぐい
寐顔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
又別に持っている無螺旋むらせんのピストル、それは多分、上等の玩具がんぐピストルを改造したんだろうと思われますが、その別なピストルに入れて、省線電車の中に持ちこんだんです。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おかしな玩具がんぐかなんかのように彼を面白がったり、わるふざけをしてからかったりした。それを小父おじ(小さい行商人)はおちつき払って我慢がまんしていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
以前は浅草あさくさ瓦町かわらまちの電車どおりに商店を構えた玩具がんぐ雑貨輸出問屋の主人であった身が、現在は事もあろうに電話と家屋の売買を周旋するいわゆる千三屋せんみつやの手先とまでなりさがってしまったのだ。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして終わりには、新たな玩具がんぐのためにすべてを放擲ほうてきした。飛行機にたいする世人の熱狂にかぶれた。
過ぎし世の婦女子の玩具がんぐにあらずんば傾城遊女けいせいゆうじょが手道具のたぐいばかり。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おのれの主義を適用するのに、かつて危ない破目に陥ることがなかった。しかし彼には看板が一つ必要だった。彼にとってはそれが玩具がんぐであって、幾度も取り変えた。
それでもマンハイムは気にかけなかった。クリストフは一つの玩具がんぐであって、彼はそれからあらゆる興味をくみつくしたのだった。彼はもう他の人形に心を移し始めていた。
しかし彼らはその意見を求めらるることもなく、また意見を述べるほど大胆でもない。世間的活動の雄々しい習慣をもっていない人々は、かならずや世間的活動の玩具がんぐとなされてしまう。