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みち
それよ
今宵よりは
一時づゝの
仕事を
延ばして
此子が
爲の
收入を
多くせんと
仰せられしなりき、
火氣の
滿たる
室にて
頸やいたからん、
振あぐる
槌に
手首や
痛からん。
ぞ
祈りたるが已に
月滿て
寛永三年三月十五日の
子の
上刻に玉の如くなる
男子を誕生し澤の井
母子の悦び
大方ならず天へも
昇る
心地して
此若君の
生長を待つより外は
無るべし
母なるものは
青い
烟に
滿た
竈の
前に
立つては
裾りつゝ、
燈火を
點ける
餘裕もなく
我が
子をぶつ/\と
待つて
居る。
恁うして
忙しさに
楢や
雜木の
枝で
欺いた
手段が
發見されないのである。
勵ゆゑに山伏といふ又
修驗といツパ
其修行終り修行
滿たる後の
本學とあれば難行苦行をなし
修行終て後の
本名なり
故に十
界輪宗の
嘲言に
徹すれば
厭ふべき
肉食なし
兩部不二の法水を
ぞ
取結ばせける夫より夫婦
間も
睦しく暮しけるが
幾程もなく妻は
懷妊なし嘉傳次は
外に
家業もなき事なれば
手跡の指南なし
傍ら
膏藥など
煉て
賣ける月日早くも
押移り
十月滿て頃は寶永二年
戌三月十五日の
夜子の
刻に
安産し玉の如き男子
出生しける嘉傳次夫婦が
悦び大方ならず
程なく
七夜にも成りければ名を