湧立わきた)” の例文
とりわけこの岬のあたりは、暗礁の多いのと、潮流の急なのとで、海は湧立わきたちかえり、狂瀾怒濤きょうらんどとうがいまにも燈台をくつがえすかと思われた。
おさなき灯台守 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
手も、足も身体中の活動はたらきは一時にとまって、一切の血は春の潮の湧立わきたつように朱唇くちびるの方へ流れ注いでいるかと思われるばかりでした。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
川留かわどめか、火事のように湧立わきた揉合もみあう群集の黒山。中野行を待つ右側も、品川の左側も、二重三重に人垣を造って、線路の上まで押覆おっかぶさる。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いつもならば江戸御府内ごふない湧立わきたち返らせる山王大権現さんのうだいごんげんの御祭礼さえ今年は諸事御倹約の御触おふれによってまるで火の消えたようにさびしく済んでしまうと
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼の父のおこつて居る手紙のなかの、「大勇猛心」と呼んで居るものはどんなものか。それを何処からもたらしてどうして彼の心へ植ゑ込むことが出来るか。どうして彼の心に湧立わきたたせることが出来るか。
この渦の湧立わきたつ処は、その跡が穴になって、そこから雪の柱、雪の人、雪女、雪坊主、怪しい形がぼッと立ちます。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
水が湧立わきたっていて、水盤のふちからは不断に水がこぼれている。
一時いっときに寒くなって——たださえ沸上にえあが湧立わきたってる大阪が、あのまた境内に、おでん屋、てんぷら屋、煎豆屋いりまめや、とかっかっぐらぐらと、煮立て、蒸立て、焼立てて
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あゝ、不可いけない、其處そこを。」とげてめるもなく、足許あしもとに、パツとえて、わツとうつつた途端とたんに、丸木橋まるきばしはぢゆうとみづちて、黄色きいろけむりが——もう湧立わきたつ。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うづがこんなにくやうにりましてはへられません。うづ湧立わきたところは、あとあなつて、其處そこからゆきはしらゆきひと雪女ゆきをんな雪坊主ゆきばうずあやしいかたちがぼツとちます。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ちょいとまきを倒したほどの足掛あしかけかかっているが、たださえ落す時分が、今日の出水でみずで、ざあざあ瀬になり、どっとあふれる、根を洗って稲の下から湧立わきたいきおい、飛べる事は飛べるから、先へ飛越えては
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふといたまど横向よこむきにつて、ほつれ白々しろ/″\としたゆびくと、あのはなつよかをつた、とおもふとみどり黒髮くろかみに、おなしろはな小枝こえだきたるうてな湧立わきたしべゆるがして、びんづらしてたのである。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)