海女あま)” の例文
能登の舳倉島へぐらじま海女あまがフキといっているのは薩摩薯さつまいもつるのことで、これを塩漬にしまたはフキ汁にして食べるそうである(島二巻)。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
海女あまあわびを取る時は、水の中に潜って、のみを使うと聞きました。水に潜ってあれだけ鑿を使えるのは、武芸の達人にも出来ませんよ」
金になる男のぬくとみにゃ、誰でも帯を解く、と奥州、雄鹿島の海女あまも、日本橋の芸者も同じ女だと、北海道釧路国くしろのくにの学問だでな。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女は女だが、自分とはまるきり違った体格と風俗の女で、それはこの辺によく見るところの海女あまの一人であることに疑いもない。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
手を振って、海女あまや船頭を退しりぞけながら、彼は、ふやけたその足で砂を踏みしめ、波打際なみうちぎわへ行ってザブザブと潮の中へ足をひたした。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歌麿以前既に石川豊信いしかわとよのぶ鳥居清満とりいきよみつ鈴木春信磯田湖龍斎いそだこりゅうさいの諸家いづれも入浴しくは海女あまの図によりて婦女の裸体を描きたり。然れども皆写生に遠し。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
景岡は、この硝子箱の浴槽、というのを恰度その頃開催していた某博覧会の『美人海女あま、鮑取り実演』という、安っぽい見世物から思いついたのです。
足の裏 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
おなじ観光都市の鳥羽とばでは、点景になる海女あまのモデル料は、五百円だと聞いている。サト子は、わが身の貫禄を考えあわせて、一時間、三百円ときめた。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
何でもかんでも大きいものが流行はやって、蔵前くらまえの八幡の境内に、大人形といって、海女あまの立姿の興行物があった。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
ろくろ首が三味線をいている、それから顔は人間で胴体は牛だと称する奇怪なものや、海女あまの手踊、軽業かるわざ、こままわし等、それから、竹ごまのうなり声だ
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
彼女は海女あまの様に息をしないで、まだあきらめ切れぬ生への執着に、じっと水底にへばりついているのだ。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
働いたのは島の海女あまで、激浪のなかを潜っては屍体を引き揚げ、大きな焚火たきびいてそばで冷え凍えた水兵の身体を自分らの肌で温めたのだ。大部分の水兵は溺死した。
(新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
憚りながら、三分四十二秒つていふレコード持ちの海女あまが、そこいらのお茶ッぴいみたいに、岩穴にへばりついて、あぶくを吹くやうな真似はしやしないよ。そら、誰か来た。
く 地奈多の湯海に鄰れど人の世に近き処と思はずに浴ぶ 海女あま少女をとめ海馬かいばめかしき若人も足附の湯に月仰ぐらん 唯二人岩湯通ひの若者の過ぎたる後の浜の夜の月 などがある。
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
しかし一人の海女あまだけは崖の下に焚いた芥火の前に笑つて眺めてゐるばかりだつた。
「女房が皆海女あまでございますからな。亭主はっとも稼ぎません。亭主一人養えないようなら女の屑だと申すことになっていますから、この辺の島ぐらい男の楽なところはありません」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その頃盛んにはやっていた「小さい海女あまさん」という俗謡を歌った。
なぐり合い (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
りかへればりかへり見つ荒布採りの海女あま一人が籠は紅つばき挿す
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
志度の浦の海女あまのように恐れげもなく沈んで行った。
鐘ヶ淵 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
浜までは海女あまみのきる時雨しぐれかな
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
海女あまや、海賊の歌のため
海女あま沈む海に遊覧船浮む
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
お雪さんは、歌磨の絵の海女あまのような姿で、あわび——いや小石を、そッと拾っては、鬼門をよけた雨落あまおちの下へ、積み積みしていたんですね。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もとは讃州志度しど海女あまだつたにしても、よい血を引いてゐたらしくお酉といふ内儀には、何んとなく非凡なところがあるのです。
その間を、一行埠頭の茶店にはいって蜜柑などく。居合わせた六、七十歳の老漁夫と老海女あまから、志摩名物の海女の生活をいろいろ聞く。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
残怨日高ざんえんひだか夜嵐よあらしといったようなおもむきを、夜の滄海そうかいの上で、不意に見せられた時には、獰猛どうもうなる海女あまといえども、怖れをなして逃げ去るのは当然でしょう。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
海女あまの焼くという芥火はすなわち流木海草の類で、同じく水辺に漂着堆積するがゆえに、共通の語を用いてこれを呼んだものとすれば説明に難くない。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
葦垣へだて秋風ぞ吹く 式根の湯海気かいき封じておのづから浦島の子の心地こそすれ 秋風が岩湯を吹けど他国者窺ふほどは海女あま驚かず 硫黄の香立てゝ湯の涌き青潮の入りて岩間に渦巻を
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
しかし一人海女あまだけは崖の下にいた芥火あくたびの前に笑って眺めているばかりだった。
軽業かるわざ、女相撲ずもう江州音頭ごうしゅうおんど海女あま手踊ておどり、にわかといったたぐいのものがすこぶる多かった、その中でも江州音頭とか海女の手踊、女軽業などというものになると、これは踊りや芸その物よりも
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
「変なことを言い出したね。君の癖だぜ。二分間ぐらいつづく人間はいるさ。海女あまなんかその倍もつづくかもしれない。だが、普通の都会人にはとてもだめだね。三十秒だって怪しいもんだ」
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
海女あまくちひきさけ。(尾張)
お月さまいくつ (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
また厖大ぼうだいな地域には、桑田そうでんもあり、塩焼く海女あまの小屋もあるうちから、もう宏大な一門の別荘などを建て出したものである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「私もそれを三輪の親分に申しましたが、三輪の親分は、相手は讃州志度の海女あまだ、大概たいがいの男ほどの力はあるよ——とかう申しました。それに」
房州の南端あたりから連れて来たものであろうと思わるる海女あまが二人まで加わっておりました。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
地獄極楽の血なまぐさいいき人形と江州音頭ごうしゅうおんどの女手踊りと海女あまの飛び込み、曲馬団、頭が人間で胴体が牛だという怪物、猿芝居二輪加さるしばいにわか、女浄るり、女相撲ずもう、手品師、ろくろ首の種あかし
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
海女あまのかつぎは由緒ゆいしょある労働だけれども、潜水夫という方が追々と多くなった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
むらがれる海女あまらことごと恥なしと空はもだしてかゞやけるかも
芥川竜之介歌集 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
裳の裾しぼる海女あまあり。
第二海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
どちらも十八九、どうかしたら二十はたちぐらいでしょう。讃州志度かられて来た海女あまというにしては、恐ろしい美人です。
島を巡って、あわびとりの海女あまを見ていたのである。——と貝細工を売っている土産物屋の軒先から、じっと、三名の背をながめている若党連れの武家の父娘おやこがあった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
土地の海女あまや漁師は別として、田山らしい、白雲らしい人の影は、いずれにも見えはしない、茂公の出鱈目がはじまった、これでまあ、天気も変らないで済む——といったような
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
海女あまうた。
お月さまいくつ (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「親分。今日のは現にあっしがこの眼で見て来たんだから嘘も偽りもねえ。あの両国の海女あま水槽みずぶねへ飛込むと——」
磯の石が声をかけるはずはないが、うす暗い海辺にかがんでいたひとりの海女あまが、そこを立って歩きだすまでは、一個の磯の石としか次郎の目には見えなかったので——
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
海女あまが裸になるのは、少しも珍しいことではありません。裸にならないのが、かえって珍しいくらいのことであります。だけれども今時分、何のために海へ入ろうとするのか知ら。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どちらも十八九、どうかしたら二十はたち位でせう。讃州志度から伴れて來た海女あまといふにしては、恐ろしい美人です。
つまり外房の方から、優秀な海女あまが来ているのでしょう。そこで海女が、時々思いきった広言を吐いて海人を侮慢ぶまんすることもあるが、その自慢も毒がないから、笑いに落つるだけのものである。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
河原左大臣源融みなもとのとおるは、毎月二十石の潮水を尼ヶ崎から運搬させ、その六条の邸にたたえ、陸奥の塩釜しおがまの景をうつして、都のたおやめを、潮汲しおくみの海女あまに擬し、驕奢の随一を誇ったというが、忠平には
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「親分。今日のは現にあつしが此眼で見て來たんだから嘘もいつはりもねえ。あの兩國の海女あまが水槽へ飛込むと——」