河水かわみず)” の例文
河水かわみずは、行方ゆくえらずにながれてゆきました。まえにも、また、うしろにも、自分じぶんたちの仲間なかまは、ひっきりなしにつづいているのでした。
河水の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
山西はまた逃げられてはならないとおもったので、あとからいて往った。石垣の下にはもう満ちきった河水かわみずが満満とたたえていた。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
長吉はどんどん流れて行く河水かわみずをば何がなしに悲しいものだと思った。川向かわむこうの堤の上には一ツ二ツがつき出した。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
勘太は、湊川から、荷担にないの水桶で、何度も河水かわみずを汲んで来た。たわしで碑を洗いあげるのだった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とも思ったが、しかしよく考えると、先刻さっきだってとても自殺をするほどの勇気はなかった。あの河水かわみずや寂しい河岸かしの景色を思いだしてさえ、ぞっと身ぶるいがするのであった。
小さきもの (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
バナナのかわとつえとは、それからも、まだ河水かわみずについてながされていったのです。しかし、かれらは、まだ希望きぼうてませんでした。
河水の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
例へば雲の白きに流るる水の青きと夕照ゆうやけの空の薄赤きとを対照せしめたる、あるひは夜の河水かわみずの青きが上に空の一面に薄黒うすくろく、このあいだ苫船とまぶねの苫のきいろきを配したる等
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
バナナのかわも、つえも、いまさら河水かわみず無情むじょうなことをさとりました。そして、これからどうなることだろうとおもっていました。
河水の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
米国の都市には汽車を渡す大仕掛けの渡船があるけれど、竹屋の渡しの如く、河水かわみず洗出あらいだされた木目もくめの美しい木造きづくりの船、かし、竹のさおを以てする絵の如き渡船はない。
怖しい処で見た、赤い色と灰色の混った処で見た……何処だろう? 考えると、私の目の前に、河水かわみずに臨んだ赤い煉瓦造れんがづくりの監獄の建物が浮んだ。
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
遠い下町したまちに行って芸者になってしまうのが少しも悲しくないのかと長吉はいいたい事も胸一ぱいになって口には出ない。お糸は河水かわみずてらす玉のような月の光にも一向いっこう気のつかない様子で
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼女かのじょがそのほしのようなひとみをじっととすと、はなきとしてかおりました。河水かわみずこえをたててわらいました。そしてひかすなは、いっそうきらきらとかがやいてえたのでありました。
消えた美しい不思議なにじ (新字新仮名) / 小川未明(著)
霧たちむる河水かわみずに樹木の影は
大空おおぞらはいつもうららかにれて、いいにおいのするむらさきや、あかや、あおや、しろはなが一めんいていました。太陽たいようひかりは、その河水かわみずうえにも、はなうえにも、またすなうえにもいつもあふれていました。
消えた美しい不思議なにじ (新字新仮名) / 小川未明(著)
ほんとうににくいもうとめだ。わたしが、こうして下界げかいのものをくるしめこまらしてやろうといっしょうけんめいに、くろすなをまいたり、河水かわみずをまいたりしているのに、あちらではその邪魔じゃまをしている。
消えた美しい不思議なにじ (新字新仮名) / 小川未明(著)
春先はるさきであったから、河水かわみずは、なみなみとしてながれていました。そのみずは、やまからながれてくるのでした。やまには、ゆきけて、たにというたにからは、みずがあふれて、みんなかわなかそそいだのです。
千代紙の春 (新字新仮名) / 小川未明(著)