水瓶みづがめ)” の例文
かぶつた滿谷は「ゆうべ汲んで置くのを忘れたら、今朝けさ水道が凍つて水が出ない」と云つて水瓶みづがめを手にしたまゝ煖炉ストオブの前に立つて居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「ガラツ八、今朝食つた物へ、皆んな封印をしろ。鍋や皿ばかりでなく、水瓶みづがめも手桶も一つ殘らずやるんだ、解つたか」
引き窓の綱、流し元の水瓶みづがめ、——そんな物も一つづつ見えなくなつた。と思ふと上野の鐘が、一杵いつしよづつ雨雲にこもりながら、重苦しい音を拡げ始めた。
お富の貞操 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
現に我々の使用しようする水瓶みづがめに比しては其容量ようりやう誠に小なりと云ふべし。おもふにコロボツクルは屋内おくないに數個の瓶鉢類を並列へいれつして是等に水をたくわきしならん。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
風呂桶へ四五荷も汲んで、使ひ水をも大きな水瓶みづがめに滿すと、肥つた身體からだにべつたり汗の出るほどに温かくなつた。
玉の輿 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
つままつらん夕烏ゆふがらすこゑ二人ふたりとりぜんさいものふてるやら、あさがけに水瓶みづがめそこ掃除さうぢして、一日手桶てをけたせぬほどの汲込くみこみ、貴郎あなたひるだきで御座ございますとへば
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
姉は井戸端で水瓶みづがめを下ろして、町へ売る水をんでゐました。兄たちは半裸体のまゝ寝ころびながら、鉄砲の手入れをしたり、盗んだのであらう笛を吹いたりしてゐました。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
次が臺所だいどころで、水瓶みづがめでも手桶てをけでも金盥かなだらいでも何でも好く使込むであツて、板の間にしろかまどにしろかまにしろお飯櫃はちにしろ、都てふきつやが出てテラ/\光ツてゐた。雖然外はきたない。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
にバケツをげながら、「あとは、たらひでも、どんぶりでも、……水瓶みづがめにまだある。」と、この二階にかいとゞいた、とおもふと、した座敷ざしき六疊ろくでふへ、ざあーとまばらに、すだれをみだして
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その片腕は頭の上に載せてある水瓶みづがめさゝへる爲めに恰好よく擧げられてゐた。
金銅こんどうのこごる鳥首とりくび水瓶みづがめの口ほそうしてみ冬なるなり
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
茶は品切れだよ、のどかわくなら、水瓶みづがめへ首を突つ込め、——もう陽がかげつて來たぢやないか、目黒まで歸つたら暗くなるだらう。明日か今日だ、曲者は何を
らば唯今、御水おんみづを授け申さうずる。」とあつて、おのれは水瓶みづがめをかい抱きながら、もそもそと藁家の棟へ這ひ上つて、やうやく山男の頭の上へその水瓶の水を注ぎ下いた。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
室内しつない一部分には土間どま有りて此所ここは火をき、水瓶みづがめを置く爲に用ゐられたるならん。土器どき石器せききの中には小さき物あり、うつくしき物あり。是等これらとこの上に直にかれたりとは考ふる能はず。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
「彼女は急ぎ水瓶みづがめを手に取り下ろし、それを彼に飮ましめた。」すると、彼は、懷中ふところから玉手箱たまてばこを一つ取り出して、それを開け、立派な腕環や耳環を見せた。彼女は驚愕と稱讃の身振みぶりをする。
狭い板の間をふさいだ竈、ふたのない水瓶みづがめの水光り、荒神くわうじんの松、引き窓の綱、——そんな物も順々に見えるやうになつた。猫はいよいよ不安さうに、戸の明いた水口みづぐちにらみながら、のそりと大きい体を起した。
お富の貞操 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)