歩哨ほしょう)” の例文
一人の歩哨ほしょうが見るともなくこの爛々らんらんたる狼星ろうせいを見上げていると、突然、その星のすぐ下の所にすこぶる大きい赤黄色い星が現われた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
下の狭い渓川たにがわのあたりである。突然歩哨ほしょうしていた兵の大きな声がしたと思うと、間もなく、そこから駈け上がって来る足音がする。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
外部からの襲撃をうける心配のない人造島では、歩哨ほしょうも、不寝番ねずばんも必要がなく、ただ、動力所だけに、機関士が交替に起きているに過ぎない。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
するとこの忠実ちゅうじつな犬はわたしたちといっしょにまつ葉の上でねむろうとはしないで、わたしの野営地やえいちの入口に、歩哨ほしょうのように横になっていた。
宮城をとりまいて所々に配備されている機関銃きかんじゅうや、大砲たいほうや、歩哨ほしょうや、また、総理官邸かんていの付近に、雪を血に染めて横たわっている人間の死体や
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
道で見た二三本の立木は、大きく、不細工に、この陰気な平地にそびえている。丁度森が歩哨ほしょうを出して、それを引っ込めるのを忘れたように見える。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼等は間牒かんちょう嫌疑けんぎのため、臨時この旅団に加わっていた、第×聯隊の歩哨ほしょうの一人に、今し方とらえられて来たのだった。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「テント外の歩哨ほしょう散弾にあたる。テントにたおれかかる。血痕けっこんを印す」「五時大突撃。中隊全滅、不成功に終る。残念※」
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
殊に火薬庫の歩哨ほしょうは重大の勤務であります。三度まで声をかけても答えない以上、それが見す見す向田大尉殿であっても打っちゃっては置かれません。
火薬庫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
庭では小池助手が、これも煙草を吸いつつ、椅子にかけたり、椅子の前を歩哨ほしょうのように行きつ戻りつしたり、睡気ねむけを追っぱらうのに一生懸命であった。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし平林大尉も英夫も、そんなことを知るはずもなく、荷役の監視に来ていた日本軍の歩哨ほしょうに訳を話すと、船長に会うために、階段をのぼって行った。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
すなわち、当時バスティーユの風紀衛兵の宿舎は広場の向こうの端にあって、象の近くで起こることは、その歩哨ほしょうに見えも聞こえもしなかったのである。
戒厳令下かいげんれいかに、銃剣を握って立つ、歩哨ほしょうたちも、横を向き、黙々として、声を発しなかった。彼等にも、生死のほどが判らない親や、兄弟や、妻子があったのだ。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
歩哨ほしょうは剣をかまえて、じっとそのまっしろな太いはしらの、大きな屋根やねのある工事をにらみつけています。
ありときのこ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
自分が間断なき警戒を必要とするという忠実なる番犬の心と言うよりは、名将は士卒の眠っている間、自身微行して歩哨ほしょうの戒厳を試むることあるというにも似ている。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
東京市中や市外の要所々々にも歩哨ほしょうが立ち、暴徒しゅうらい等の流言にびくびくしていた人たちもすっかり安神あんしんしましたし、混雑につけ入って色んな勝手なことをしがちな
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
それはもう復活祭後の第二週間目だった。あたたかく明るい春らしい日がつづいた。監獄病院でも窓が開かれた(それは格子づくりになっていて、下を歩哨ほしょうが歩いていた)
椰子の葉かげの小屋は、深くカーテンを下して、の影ももらさない。小屋のまわりは、五十メートルほどはなれて、陸軍の歩哨ほしょうが百人あまり、銃剣ものものしく、とりかこんでいる。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
見渡すかぎり田圃たんぼがつづいていて、冬のせいもあろうが、人影が全く見られない。寒風にさらされながら堤の上を俺たちが歩いて行くと、橋のたもとに日本兵の歩哨ほしょうが立っていた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
舎営の門口かどのきらめく歩哨ほしょうの銃剣、将校馬蹄ばていの響き、下士をしかりいる士官、あきれ顔にたたずむ清人しんじん、縦横に行き違う軍属、それらの間を縫うて行けば、軍夫五六人、焚火たきびにあたりつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
彼方の山からは、始終、パルチザンがこちらの村をうかがっていた。のみならず、夜になると、歩哨ほしょうが、たびたび狼に襲われた。四肢が没してもまだ足りない程、深い雪の中を、狼は素早くせて来た。
渦巻ける烏の群 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
テントの外に立つ歩哨ほしょうは一時間交代で、私の番は暁方あけがたの四時から五時までだったから、それまでゆっくり睡眠がとれるわけだった。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
わしは、八幡山やわたやまの木戸で、寄手の歩哨ほしょうにすぐ捕えられた。元より、本望の事と、驚きもせず、わしの両腕をじ上げた兵たちへ、声高に訴えた。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
相手は歩哨ほしょうである以上、完全な武装をしているであろうのに、こちらは、何の武器も持ってはいなかった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
歩哨ほしょうを出し警戒を怠らないでき上がった事実である。それは昨日の戦いと明日の戦いとを前提とする。
そのとききりこうから、大きな赤い日がのぼり、羊歯しだもすぎごけもにわかにぱっと青くなり、蟻の歩哨ほしょうは、またいかめしくスナイドル式銃剣しきじゅうけんを南の方へかまえました。
ありときのこ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
歩哨ほしょうの衛兵がると、それは陸軍の提灯で別に不思議もなかった。段々ちかづいて来ると、提灯の持主はかねて顔を見識みしっているM大尉で、身には大尉の軍服を着けていた。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わたくし歩哨ほしょうに立っていたのは、この村の土塀どべいの北端、奉天ほうてんに通ずる街道かいどうであります。その支那人は二人とも、奉天の方向から歩いて来ました。すると木の上の中隊長が、——」
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
車から降りる時、歩哨ほしょうの大きい声がおそいかかって来ました。見ると半身はんしんを衛門の上に輝く煌々こうこうたる門灯に照し出された歩哨が、剣付銃をこっちへ向けて身構えをしていました。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
銃を構えた歩哨ほしょうが坂の上からどなった。かまわず俺が歩みをつづけると
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
営門でささつつをした歩哨ほしょうは何か怒声をあびせかけられた。
渦巻ける烏の群 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
歩哨ほしょうにはポパイという強い奴がいるしね」
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
思わず歩哨ほしょうが声を立てようとしたとき、それらの遠くのはフッと一時に消えた。まるで今見たことが夢だったかのように。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
とばりの外に立っている歩哨ほしょうの兵が、それを見て笑った。——が、急に、厳粛な顔へ戻って、内から聞える声に耳をてた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こけいちめんに、きりがぽしゃぽしゃって、あり歩哨ほしょうてつ帽子ぼうしのひさしの下から、するどいひとみであたりをにらみ、青く大きな羊歯しだの森の前をあちこち行ったり来たりしています。
ありときのこ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
彼らは明らかに何か相談せんためにその奥まった所を選んだのである。そこは通行人の目にもつかず、また数歩先にあるフォルス監獄、潜門くぐりもんを番してる歩哨ほしょうから見られもしなかった。
わたしは夜なかまでそこらを歩きまわって、二度も歩哨ほしょうの兵士にとがめられた。
はなしの話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
廊下にも階段にも、歩哨ほしょう一人、立っていないのだ。
人造人間の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
歩哨ほしょうの報告に接した李陵りりょうは、全軍に命じて、明朝天明とともにただちに戦闘に入るべき準備を整えさせた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
氏張も、同様な判断のもとに、その夜は、何ら備えもせず、川尻の陣に、ただ歩哨ほしょうだけを、増しておいた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
対岸の木蔭にウィンチェスターを担った七人の歩哨ほしょうがいる。近づいても、動きもしなければ声を掛けもしない。目で追うたのみ。私は馬に水を飲ませ、「タロファ!」と挨拶して其処を過ぎた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
と、歩哨ほしょうの兵が答えた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)