橋杭はしぐい)” の例文
帆柱が二本並んで、船が二そうかかっていた。ふなばたを横に通って、急に寒くなった橋の下、橋杭はしぐいに水がひたひたする、隧道トンネルらしいも一思い。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
乗人のりてが迷っている様子なので、を取っている船頭は、ゆるゆると阿波座堀あわざぼりいで、今、太郎助橋たろすけばし橋杭はしぐいわしかけていた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ何かしら、あのドロンと淀んだ橋杭はしぐいの下の薄暗がりに、人を引きつける力がひそんでいるのでもあろうか。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
永代の橋杭はしぐいの処へずッと港板みよしが出てなんだか知りませんがそれと云って船頭が島田髷を取って引上げました。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
浅い河床かわどこの真中を、少しばかり流れている水が、ぼんやり見える橋杭はしぐいの下で黒く消えて行く時、かすかに音を立てて、電車の通る相間あいま相間に、ちょろちょろと鳴った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その間に立ちたる橋杭はしぐいの黒く見ゆるのを、人の横臥せるがごとく認めたることが判然と相分かり、世の妖怪はみなかくのごときものならんと、互いに笑ったことある由。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
図中二女を載せたる小舟のうしろに立てる船頭はその姿勢不自然ならず。荒々しく角張かどばりたる橋杭はしぐいあいだよりは島と水との眺望あり。これ日本の風景中の最も美なるものなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
橋杭はしぐいの太いのにとっつかまり、それを、なかなかの手練でじ上って、橋の上へ出ようとする。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おばしまの下をのぞくと、水は青く、橋杭はしぐいの根をめぐって、白い水鳥が、花をいたように游んでいた。このあたりのなぎさにたくさんいるにおであった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大橋の橋杭はしぐいが昼見た山の塔の高さほどに下から仰がれる、橋袂はしたもとの窪地で、柳の名、雪女郎の根の処である。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
差出さしでの磯の亀甲橋きっこうばしも水に流されて、橋杭はしぐいだけが、まだ水にかれているところへ来て、女はふと何物をか認めたらしく、あたりにあった竹の小片こぎれを取り上げて、岸の水をこちらへと掻き寄せました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
恋と死神にかれたように、右門はここまでふらふらと来てしまった。「白魚しらおばし」と橋杭はしぐいの文字を見た時、はっとした。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
虫ではない、確かに鳥らしく聞こえるが、やっぱり下の方で、どうやら橋杭はしぐいにでもいるらしかった。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
工事七分という処で、橋杭はしぐいが鼻の穴のようになったため水を驚かしたのであろうも知れない。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
河原へ下りて、そこの橋杭はしぐいつないであった河舟の底へ、お杉のからだをそっとおろ
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
月影に色ある水は橋杭はしぐいを巻いてちらちらと、うねって、横堀に浸した数十本の材木が皆動く。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かかる間に、舟は玉造村たまつくりむらからズッと奥へ入って、とある土橋の橋杭はしぐいへ結びつく。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
橋杭はしぐいももうせて——潮入しおいりの小川の、なだらかにのんびりと薄墨色うすずみいろして、瀬は愚か、流れるほどは揺れもしないのに、水に映る影は弱って、さかさまに宿るあしの葉とともに蹌踉よろよろする。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
流言蜚語りゅうげんひごの出所も、皆そこからだし、、強盗、橋杭はしぐいり倒しなど、眼に余るものがある。すべて信長の政治方針が招いた世相の悪化の如く見せかけるのが、彼らの狙いどころだった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上流の流れ白銀しろがねの光を浴び、うねりにあおみを帯びて、両側より枝おおえるの葉の中より走り出でて、橋杭はしぐいくぐり抜け、かたまちのあたり、ごうごうと深き瀬の音ぞ聞えたる。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中洲の女橋おんなばしである。——舟は、大きな橋杭はしぐいって、橋の腹を上に見た。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
両国橋の落ちたる話も、まず聞いて耳に響くはあわれなる女の声の——人雪頽ひとなだれを打って大川の橋杭はしぐいを落ち行くさまを思うよりさきに——何となく今もはるかに本所のかたへ末をいて消え行く心地す。
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すぐ後から飛び下りて来た土匪どひは、彼を、橋杭はしぐいくくりつけてしまった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たちまち群集の波にかれると、大橋の橋杭はしぐい打衝ぶッつかるような円タクに
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
橋杭はしぐいに縛られて、のあたりにそれを見ていた伊織は
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
橋杭はしぐいを見てくんな、獄門橋と来やがった」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「船頭さん、橋杭はしぐいつけちゃいやだよ」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
橋杭はしぐいのそばの苫舟とまぶねへ駈け寄っていた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)