もつとも)” の例文
宮廷及び貴族の家庭に仕へた女たちは、専ら万葉仮名のもつとも標音的なものを用ゐて、主君・公子女の言行を日録して居たであらう。
万葉集研究 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
この山ことに高しとにはあらざれども、もつともはやく雪を戴くをもて名あり。けだしその絶巓いただき玄海洋げんかいなだをあほり来る大陸の寒風のくに当ればなり。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
こゝに來しよりもつとも快き時節なり。さはやかなる風は山々よりおろし來ぬ。夕暮になれば、南の國ならでは無しといふ、たゞならぬ雲の色、目を驚かすやうなり。
鮏は今五畿内西国には出す所をきかず。東北の大河の海につうずるには鮏あり、松前蝦夷えぞもつとも多し。塩引として諸国へ通商あきなふは此地に限る。次には我が越後に多し。
もつともいとけなしといへども、のちおのづから設得まうけえんと。はたせるかなひととなりて荊州けいしう刺史ししとなるや、ひそか海船かいせんあやつり、うみ商賈しやうこ財寶ざいはう追剥おひはぎして、とみいたすことさんなし。のち衞尉ゑいゐはいす。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
所謂、橙黄橘紅とうくわうきつこうを盛つた窪坏くぼつきや高坏の上に多くのもみ烏帽子やたて烏帽子が、笑声と共に一しきり、波のやうに動いた。中でも、もつとも、大きな声で、機嫌よく、笑つたのは、利仁自身である。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
どんなに醜くなつても、生きてゆかなけりやならないのだらうか? いま自分の生と自分の肉體をもつとも美しく終らせたいと思ふは唯一つそこに死があるばかりである。お葉は矢張り死ぬのであつた。
三十三の死 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
これ罪のもつとも重きものを後に残す慣はしにて、かくするものぞとかや。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一つは場合々々贈答を、もつとも適切に処理して、婉曲に、委曲に、あはれな感じを残すものを、而も口疾クチドに詠み出す機智のある人。
たう秦韜玉しんたうぎよく村女そんぢよに、もつともうらむは年々ねん/\金線きんせんつくらふ他人たにんためよめいり衣装いしやうつくるといひしはむべなる哉々々かな/\/\
阿諛あゆは、恐らく、かう云ふ時に、もつとも自然に生れて来るものであらう。読者は、今後、赤鼻の五位の態度に、幇間ほうかんのやうな何物かを見出しても、それだけでみだりにこの男の人格を、疑ふ可きではない。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
籠のもつとも想化せられたものと言ふべく、盆の夕に家々で此を吊るのは、別に仏説に深い根拠のあることゝも思はれぬ。
髯籠の話 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
(文海披沙)されば獣中じうぢゆうもつとも可悪にくむべきおほかみなり。ひそか以為おもへらく、狼は狼にして狼なれども、人にして狼なるはよく狼をかくすゆゑ、狼なるをみせず。これがため狼毒らうどくをうくる人あり。
其名称の起りに就ては様々な説はあるが、切籠はやはり単に切り籠で、籠のもつとも想化せられたものといふべく、其幾何学的の構造は、決して偶然の思ひつきではあるまい。
盆踊りと祭屋台と (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
(文海披沙)されば獣中じうぢゆうもつとも可悪にくむべきおほかみなり。ひそか以為おもへらく、狼は狼にして狼なれども、人にして狼なるはよく狼をかくすゆゑ、狼なるをみせず。これがため狼毒らうどくをうくる人あり。
もつとも著しいのは、我々の祖先が、起原をつくつたと考へてゐる文学そのものが、その祖先自身の時代には、それが悉く空想の彼岸の所産であると、考へられてゐたことであつた。
およそ日本国中に於て第一雪の深き国は越後なりと古昔むかしも今も人のいふ事なり。しかれども越後に於ももつとも雪のふかきこと一丈二丈におよぶは我住わがすむ魚沼郡うをぬまごほりなり。次に古志こし郡、次に頸城くびき郡なり。
国造の神に対しての関係は、子孫であるか、もつとも神に親しかつた者の末であるかであつた。
万葉びとの生活 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
こゝに鍛冶かぢの兄弟あり、ひとりの母をやしなふ、家もつともまづし。
所謂歌から生じた後の歌物語なるものは、諺とその説話との関係を見倣つて進んで来たのだと言ふことが出来る。諺のもつとも諺らしい表現をせられる時は、即「ナゾ」に近づいて来る。
もつとも古い旅芸人、門づけ芸者であると言ふ事は、語原から推して、誤りない想像と思ふ。
国文学の発生(第二稿) (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
たゞ今、文学の信仰起原説をもつとも頑なにつて居るのは、恐らくは私であらう。性の牽引や、咄嗟の感激から出発したとする学説などゝは、当分折りあへない其等の仮説の欠点を見てゐる。
其を接待する役は、其人にもつとも血族関係深く、呪力を持つ女性が主として勤めてゐた。処が、日本の神道に於いては、女性の奉仕者を原則とするものゝ上に、更に、家長を加へたものが段々ある。